ダニ・ロドリックが生産性変化と経済成長に関して分析した共著論文を書き、その主な結果を自ブログの3/2エントリにまとめている(昨年9/28エントリの内容をアップデートしたもの)。
彼は、ある国の生産性変化を以下のように分解している。
ΔYt = Σθi,t-kΔyi,t + Σyi,tΔθi,t
ここでYtとyi,tはそれぞれ経済全体とセクターiの労働生産性であり、θi,tはセクターiの労働人口比率である。Δオペレータは時点t-kとtの間の変化を示す。
右辺第一項は、各セクター内の生産性変化を期初の労働人口比率で加重平均したものであり、ロドリックはこれを生産性成長の「内的(within)」要素と呼んでいる。
右辺第二項は、労働人口比率の変化と期末の生産性を掛け合わせたものの和であり、セクター間の労働移動が生産性に与える効果を表わしている。ロドリックはこれを生産性成長の「構造変化(structural change)」項と呼んでいる。各セクターの労働シェアの変化が生産性水準と正の相関を持つならば、この項はプラスとなり、構造変化は経済全体の生産性向上に寄与する。
下図は、中南米(LAC)、アフリカ、アジア、高所得国(HI)の各地域について、1990-2005年の生産性変化を単純平均で集計したものである。
これを見ると、構造変化項がアジアではプラスに効いているのに対し、中南米とアフリカではマイナスに効いている。ロドリックはこの結果を、ルイスの二重経済成長モデルからの予想に完全に反する、と評している。
なお、高所得国では構造変化項は小さい。これは、それらの国ではセクター間の生産性の違いが小さいため、とロドリックは説明している。
構造変化項が上図のようなパターンを示したことの説明として、ロドリックはさらに下図を示している。
この図の横軸は原材料が輸出に占める比率、縦軸は構造変化の生産性成長に対する寄与度である。これを見ると、一次産品に比較優位を持つ国ほど構造変化がマイナスに効いていることが分かる。なお、この図の分析においては地域ダミーや初期農業人口比率ダミーをコントロール変数として用いているので、地域間の違いは制御されている、とロドリックは断っている。
このロドリックのブログエントリにアーノルド・クリングが反応し、持説の再計算理論との関係について考察している。具体的には、生産性が上昇した産業で減らされた人が失業という生産性の低い状況に陥ってしまう、という彼が再計算理論でモデル化しようとしている現象について、以下の2つの問いを立てて考察している。
- 生産性が向上した産業が、人を減らす代わりになぜもっと業容を拡大しないのか、という問いに対するロドリックの解は、発展途上国ではそうした産業は資源採掘業であり、拡張の余地が乏しい、というものであった。クリングに言わせれば、先進国については需要の弾力性が乏しいため、ということになる。