この島は「市街化調整区域※」に指定されているため世帯のほとんどが先代から土地や住宅を引き継いで生活しており、島の大半が漁業や農家を営んでいた。しかし、産業構造の変化や最近の漁獲量減少に伴い島内での仕事が激減、若者の流出が顕著になってきている。漁師に至っては平均年齢60代と高年齢化が進んでいる。またひと昔前は集落にも観光客向けの店が点在していたが後継者がおらず今は数店舗の営業に留まっている。その状況を何とかしようとカラクリワークスの山崎さんは志賀島で「空き家バンク」をスタートさせる。
※市街化調整区域とは……都市計画法7条によって定められることとなった都市計画区域の一つで、市街化を抑制すべき区域のこと。この区域内では原則的に宅地造成などの開発行為が禁じられ 、市街化を抑制することとしている。なお、個人の一戸建て住宅や土地の売買は市の許可が降りれば可能だが、例えばもともと農地だった土地を一戸建て住宅に変更する等の用途変更は不可、また賃貸は原則禁止とされている。
この「空き家バンク」では地域活性化のための志賀島移住を目的とし、主に小規模事業での出店を希望する方に島内の賃貸物件を仲介するほか、空き家の管理、地元民や店舗のオーナー同士との交流の場の創出やDIYによる改修に関するアドバイス、ウェブを使った情報発信等も行い、島全体の活性化の一翼を担う。
今までは市街化調整区域では物件の売買以外は禁止とされていたのだが、福岡市が事前調査を行った結果、市街化調整区域に住みたいというニーズがあることが分かったのだ。2015年10月に住居および店舗用途の賃貸を認める規制緩和に合わせた取り組みだ。通常「空き家バンク」と言えば居住を主とした空き家の登録が多いのだが、ここでは創業・開業することを前提とし、居住に関しては歓迎ではあるがあくまで任意となる。事業者誘致が第一優先事項だ。そのワケとはなんなのだろう。
「志賀島の活性化には、空き家や農地などの遊休不動産を積極的に利活用しながら、地域住民もしくは既存産業・資源を新たな産業として興してくれる人が必要です。そうすれば自ずと地域内に雇用が生まれ、これまでの地縁や血縁で固定化しがちだったコミュニティの潤滑油となり、街も活性化する。こうした取り組みが、観光客や移住者の増加につながれば伝統文化や行事の継承や、小学校・公共交通機関など地域インフラの維持も期待できると考えています」と話す山崎さん。
市街化調整区域内での創業・開業は全国的にも例を見ない新たな取り組みとなるが、活性化への優先順位を考えれば事業者誘致が第一だと感じている様だ。
加えて「移住希望者に志賀島を選んでもらうためには、地域としていかに彼らの期待に応えられるか、受け入れる姿勢を地域一丸になってつくっていくことがとても重要です」と話す山崎さん。事実、市街化調整区域ではあまり例を見ない試みということで、最初は地元の人も二の足を踏んでいたそうだ。
しかし昨年からレンタサイクルとカフェを併設した店舗をオープンし、山崎さんも当事者として地域と関わりを持ちつづけることによって段々と賛同者も増え、空き家数件から「空き家バンク」を今春よりスタートできるまでとなった。家賃は最低月4万円から、原状回復なし、3〜5年の定期借家契約が前提だが延長も相談可能とのこと。
市街化調整区域は開発されなかった地域であったため、古くからの町並みや自然が残っている。その場所で、最低月4万円から一軒家を借りることができ「原状回復なし」で自分の好きなようにカスタマイズできるのは、新規事業者にとってはチャレンジ精神をかきたてられる条件だ。
しかし、その反面、島ならではのデメリットもある。それは季節に左右されやすいことだ。夏は観光客でにぎわうが、冬はそれほどでもない。けれど、その時に店舗同士でイベントを催すといったことも今後は考えられそうだ。それを含めても自然に囲まれた場所で自分のお店が持てることはやはり魅力的だろう。
既にテナント出店希望者の受付は順次対応中で、2〜3月には希望者を募り空き家ツアーを実施、その後体験移住や出店などを経て正式に申し込み、審査が通過すれば無事に今春から賃貸開始となる。
島の入り口付近に位置する志賀海神社参道はかつて商店街の様に店が連なり、若者や子どもたちの姿がよく見られたという。その光景を復活するべく新たな試みが始まった。海に囲まれた志賀島。この春、ビッグウエーブを巻き起こしてくれる様な予感がしてならない。