フリーランチは無くとも安いランチは沢山ある

というFT論説をサマーズが書いている(原題は「No free lunches but plenty of cheap ones」;H/T Economist's View)。

Trade-offs have long been at the center of economics. The aphorism “there is no such thing as a free lunch” captures a central economic idea: You cannot get something for nothing....
Yet I am increasingly convinced that “no free lunch” oversimplifies matters and makes economics too dismal a science. It would be true in a world where all opportunities to make things better had been fully exploited — where, to use another cliché, there were no $100 bills lying on the street. But recent experience suggests that by improving incentives or making strategic investments, we can achieve apparently conflicting objectives to a greater extent than conventional wisdom would suggest.
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Trade-offs should be seen not as constraints but challenges. There are plenty of very cheap lunches out there for those with the will to find them. Economics has much to contribute and much to gain from this search as well. It can become a cheerful science.
(拙訳)
トレードオフは経済学の中心に長い間位置してきた。「フリーランチなどというものは存在しない」という警句は、代償無しに何かを得ることはできない、という経済学の中心的な考えを捉えている。・・・
しかし私は、「フリーランチは無い」という言葉は物事をあまりにも単純化しており、経済学をあまりにも陰鬱な科学にしている、と段々と確信するようになった。事態を改善する機会が完全に使い尽くされた世界ならば、即ち、別の決まり文句を使えば、通りに100ドルが落ちていないならば、これは真実かもしれない。しかし近年の事例は、インセンティブを改善したり戦略的投資を行ったりすることにより、相反すると思われる目的を従来考えられたよりもかなりの程度達成できることを示している。
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トレードオフは制約ではなく課題として受け止めるべきである。見つける意思がある者にとって、非常に安いランチは世の中に数多く存在する。経済学はそうした探索に大いに貢献することができ、かつ、そうした探索は経済学に大いに裨益する。経済学は陽気な科学となり得るのである。


サマーズは以下の事例を挙げている。

  • コストと質
    • オバマケアによる医療のコストと質・量の両立
    • ホスピス型の終末期における緩和ケアによるコスト削減と延命の両立
  • 公平と効率性
    • 反トラスト法を通じたレントシーキングの抑止による公平と効率性の両立
    • 教育機会の増加による公平と効率性の両立
    • 金融規制の合理的な強化による金融危機の抑止を通じた、消費者にとっての公平と、経済パフォーマンスという効率性の両立
    • 需要不足経済において税制の累進性を強めることによって達成される公平性と、支出増加ならびに資源の有効活用との両立
  • 公的政策以外
    • 企業が社会責任を取ることにより労働者や消費者を惹き付け、利益が高まった事例(ヘンリー・フォードの日給5ドルのほか、エトナ、ウォルマートなど)
    • エネルギー効率性を高める投資から得られる高い利益率
    • より一般的な話として、成功した企業家が、消費者に従来得られなかった新たな便益を与え、労働者に機会を提供しつつ、自らの利益を得ること