「宇宙の終わり」を再現する実験

メタマテリアルという素材を使って「ビッグバンの卓上モデル」を構築した研究チームが、今度は「ビッグクランチ」とも呼ばれる「時間の終焉」をシミュレーションする実験を行った。
「宇宙の終わり」を再現する実験

レーザーで励起された後、メタマテリアルを通過するプラズモン。Images:Igor Smolyaninov/arXiv

宇宙は、爆発(Bang)ではなく「高調波発生」によって終わるようだ。

以前、メタマテリアルというエキゾチック物質[通常の物質から逸脱した性質を持つ物質]を用いて、「ビッグバンの卓上モデル」(日本語版記事)を構築した研究チームが、今度は「ビッグクランチ」とも呼ばれる「時間の終焉」をシミュレーションする実験を行った。

メタマテリアルを通過する光は、空間と時間の数学的記述に用いられる方程式によって記述される。これを利用すれば、物理学者は制御された方法で宇宙の謎を探ることが可能だ。

今回行われた実験は、光子に高調波発生(higher harmonic generation)という、周波数とエネルギーが急激に高まる現象を起こさせるというものだ。

「時間の終焉とは、とても激しいもののようだ」とメリーランド大学の電気工学者、イゴール・スモリアニノフは話す。

スモリアニノフ氏と、同僚のエーレン・ファン、エフゲニー・ナリマノフは、宇宙が収縮に転じ、やがては崩壊してひとつのブラックホールになるという、ビッグクランチ仮説を検証してみたいと考えた。[現在考えられている宇宙モデルでは、宇宙はビッグバンによって膨張を開始したが、宇宙全体に含まれる質量(エネルギー)がある値よりも大きい場合には、自身の持つ重力によっていずれ膨張から収縮に転じ、宇宙にある全ての物質と時空は無次元の特異点に収束すると考えられる。これをビッグクランチと呼ぶ]

7月20日付でプレプリント・サーバー[学術雑誌に掲載される前の論文の公開に使用されるサーバー]『arXiv』に公開された論文によると、彼らの用いたメタマテリアルは、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)というプラスティックの一種を、金膜の上に格子状に埋め込んだものだという。

レーザー光の照射によって励起された、光波と電子波が結合したプラズモンと呼ばれる状態[金属中の自由電子が集団的に振動して擬似的な粒子として振る舞っている状態]が金膜を通過するとき、これらの波は、2次元の空間と1次元の時間からなる宇宙の法則に従ったと、スモリアニノフ氏は述べている。一方、プラスティックを通過するときには、1次元の空間と2次元の時間からなる宇宙の法則に従った。これらの物質を、今回の実験のように格子状にして、互いに直角になるよう配置すると、1次元の時間が1次元の空間にぶつかる。

[この環境において、ある方向の実効誘電率は、(通常の物質と同様に)正の値だが、垂直方向では負になり、負の方向は、時空間における時間軸のようにふるまう。彼らは格子を調整して実効誘電率を負から正に変えることで、]「時間の終焉」を再現した。プラズモンはこの境界において分岐し、その光子は、事前の予測どおり、エネルギーの増大を示した。

光学顕微鏡で見たメタマテリアル(レーザーによって励起される前)。プラスティックと金が触れる各箇所で、「時間の終焉」が再現される。

今後の研究では、さらに量子ドット半導体を加えたメタマテリアルを用いて、ブラックホールをより正確にシミュレートする計画だという。

スモリアニノフ氏はそれによって、ホーキング放射をシミュレートしようとしている。ホーキング放射とは、スティーヴン・ホーキングがブラックホールの端部[事象の地平線]で生じると予測した量子現象だ。

「通常、ブラックホールがあり、その事象の地平線近くに粒子が存在する場合、それは一巻の終わりを意味する。ところが、ホーキング放射の説では、粒子がひとつ吸い込まれると、もうひとつの粒子が放出される。古典物理学では、このようなことは不可能とされているが、量子物理学ではありうることなのだ」とスモリアニノフ氏は述べている。「ブラックホールはすべてを飲み込むばかりではない」

TEXT BY Brandon Keim
TRANSLATION BY ガリレオ –高橋朋子/合原弘子

WIRED NEWS 原文(English)