(写真=PIXTA)
(写真=PIXTA)

5分おきに「きちんと仕事を遂行しなさい」の確認メールを届ける

 わが社には毎日、お客様からご要望が寄せられます。「追加注文をしたい」「見積もりに来てほしい」「契約を解除したい」などなど。電話を受けたオペレーターは即座に、お客様氏名・電話番号・住所・取引内容・ご要望を記したメールを現場の担当者に送り、対応を指示します。

 本稿をお読みのあなたの会社でも、同様の対応をしていることでしょう。お客様のご要望に対するスピード対応は、満足度を大きく引き上げます(わが社とて、お客様満足度向上のためのコストを惜しんだことはありません)。忘れてはならないのは「具体的な指示を確実に送ることができる」ことと「現場の担当者がその指示を確実に実行する」こととは別のもの、ということです。

 例えば、コールセンターからメッセージを送る。担当者がスマートフォンを見る。するとそこには「3丁目の広野様宅へ急行してください」とある。にもかかわらず行かない。だって面倒くさいし、それでなくても最近暑いし……。信じてはいただけないかもしれませんが、これが「落ちこぼれ集団」であるわが社のデフォルトの社員像です。そこで、担当者が指示をきちんと実行したかどうかをチェックする、新たな仕組みを構築しました。

 といっても理屈は簡単です。まず現場の担当者には、ただ「伝言あり。わが社の専用サイトにアクセスせよ」とだけ知らせます。現場の担当者が指示通りにアクセスすると、伝言内容や地図などが表示される。なおかつログイン履歴が残るので、現場の担当者が指示を確認した時間や、確実にメッセージが送信されたのかもチェックできる。「3丁目の広野様宅へ急行してください」と、なまじ具体的な指示を送ってはこういうことはできません。指示が「送り放し」になってしまう虞(おそ)れが排除できません。

 こうしてチェックが済んだ上で、なおも担当者から「仕事終了」の報告が上がってこないと、今度は本人およびその上司に5分おきに、同じ内容のメッセージを自動送信します。5分おきに胸ポケットに入ったスマートフォンが着信音とともに振動して、メッセージが送られてきたことを伝える。受け取る側からすれば「たまったもんじゃない」です。

 実際、これはもう効果抜群でした。現場の担当者は、コールセンターから連絡があるや即座に行動を開始するようになった。5分おきにメッセージが送られてくる面倒に耐えるよりは、素直に指示に従うほうがはるかに楽です。

 また管理職に同じメッセージを送るのもよかった。管理職とて5分おきに何度も同じメールが送られてくるのは嫌です。だいたい2~3通も届いたところで音を上げて、部下に叱りの電話を入れます。「さぼってないで早く対応しなさい」と。これまでわが社は数々の仕組みを導入してきましたが、こんなに狙い通りにいったケースは過去にほとんど例がありませんでした。

管理職が自分でやったり、別の確実な部下に振ったりしてはダメ

 部下は、嫌なことは絶対にしません。面倒なことは後回しにします。それは人間である以上、当然のことです。駄目な管理職、凡庸な経営者は「しょうがないなあ」とボヤきながら自分でやるか、あるいは確実にこなしてくれる別の部下に仕事を振り直します。大切なのは、部下が仕事をさぼるからそこで諦めるのではなく、「ではどうしたら実行させられるか」と考える。それがマネジメントというものです。

 私は講演やセミナーなどでよくこう言います。「部下は信用していい。部下の仕事は信用するな」。すると多くの人が驚いた顔をします。それはきっとこう考えているからでしょう。上に立つ者が部下を信用しなくてどうするのだ。上司が信じるから、部下もそれに応え、仕事へのモチベーションも維持できると。しかしそれは、「人」と「仕事」とを混同している「美しい誤解」に過ぎません。

 人は、どうしても易きに流れる弱い生き物です。どれほど高いモチベーションをもって仕事をしている人であっても、「楽をして稼ぎたい」「手を抜けるものなら手を抜きたい」の気持ちはゼロではない。もっと卑近な例を挙げれば、どんなに高い職業倫理を持った人でも、現金の束を見ればつい出来心が起きることもある。つまり部下の本来の「人柄」と、その部下の成果物たる「仕事」とは、まったく別のものです。

 ですからあなたは常に部下の仕事の内容に目を光らせ、力を十分に注いでいるか、どこかに誤魔化しはないかと細心の注意を払い続ける必要がありますし、なんなら適度に連絡・確認して、彼がきちんと仕事を完遂するように促さなくてはなりません。一度でも指示したことが実行されないと、それは「××課長のいうことは無視していい」と許可したのと同じことになります。そう考えると、これがどれほど恐ろしい、望ましくない事態であるか、ご理解いただけることでしょう。

 「部下の人柄は信用する」「その仕事は信用しない」は、別な言い方をすれば「部下の仕事は常にチェックする」ことです。繰り返しになりますが、あなたはなにか部下に仕事を命じたら、それがきちんと遂行されたかどうかをかならずチェックしてください。社内の仕事だけでなく、定期的に部下のお客様訪問などにも同行して、現場での仕事ぶりもしっかり見てください。

(写真=PIXTA)
(写真=PIXTA)

 こうしたチェックの結果、「仕事の手を抜いた」と判断すれば、その事実を指摘し、叱り、そして然るべきアドバイスを与えるなどのフォローをしてください。あなたの部門が業績を上げられるか否かは、この「仕事をさせる→チェックする→フォローする」のフローにかかっているといっても、過言ではありません(部下の仕事をチェックすることに関しては、私の過去の記事もご再読ください)。

「知られたくないこと」はやはり尊重せよ

 こういうと、業種によってはこんな反論もあるでしょう。「営業担当者がお客様を訪問しているか、それとも喫茶店でサボタージュしているかはチェックのしようがない」と。そうはさせないためにもお客様訪問に同行する必要があるが、あなたの身体がひとつである以上、おのずと限界はあります。

 武蔵野も営業主体の会社で、朝も9時半過ぎになると社内にはほとんど人がいなくなります。外出した社員の仕事ぶりをチェックするのは確かに頭の痛いところでした。そこで私は、外回り担当者には「有料駐車場に車を止めて営業に行きなさい」と指示しました。有料駐車場に車を止めれば領収書が出る。そこには駐車場の住所や、車の入退庫の時間が記されます。それをチェックすれば、「いつ、どこで」「どのお客様の元を訪れたのか」が、かなりの精度で類推できる。

 領収書に限りません。彼の本日の売り上げはどうか。彼が引き起こしたクレームの数はどうか。彼が撒いた試供品の個数はいくつか。部下の行動・仕事ぶりを類推するには様々な手がかりがあります。あとはあなたに「気づく」感性があるかどうかの問題です。

 以前、わが社のシステム担当者が「さぼりをなくすために、GPSを使いリアルタイムで営業担当者の居場所を追跡してはどうでしょう」と私に提案してきました。「それは名案だね」。私は言いました。「では、まずテストケースとして君を追跡して、1カ月間どのように行動するか徹底的にチェックするとしよう」。すると彼はあっさりと前言を撤回しました。「社長、やっぱりそれはやめましょう。人権問題です」。いやはや、まったく現金なものです。

 人には常に、他人には知られたくないことがあるものです。それは尊重しておかなくてはなりません。前段とは矛盾することを述べますが、お客様訪問の最中に喫茶店でさぼって同僚同士でおしゃべりに興じたりするのも(程度問題ではありますが)時には必要なことなのです。そう割り切ることができるのは、私は「仕事は信用していない」けれども「人柄は信用している」からです。

(構成:諏訪弘)

まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

春割実施中