ホメオパシーの原理と効用

何度も書いてきたことなので今更ではあるけれど、事件が起きてしまった以上無視するわけにも行かない。ちょっと細かく書く。

ホメオパシーとは何か

最近流行りの、所謂「代替医療」のひとつで、欧州では200年ほどの歴史がある。
日本語にすれば「同毒療法」。病を治すのに、病と同じ効果をもたらす毒を希釈して薬とする。ちょっとワクチンみたいだが、ワクチンが「病原体そのものを」「事前にちょっとだけ体に入れて」「免疫を作ることで病を防ぐ」のに対し、ホメオパシーでは「病原体に似た効果の毒を」「まったく無意味になるまで薄めて」「防ぐのではなく罹ってから治す」という点で全く違う。

薬効はどのように証明されているか

主にレメディ(ホメオパシーに於ける薬)の製法から求めた有効成分分析と、統計的に見た治癒率から証明されている──何の効果もないことが。


レメディは、概ね次のようにして作られる。「何らかの毒性成分を」「水またはアルコールで10〜100倍に希釈し」「聖書に叩き付けて攪拌し(振盪と呼ばれる)」「できたものを更に同倍率で希釈振盪し」これを規定回数繰り返す。希釈度には様々あるが、「薄めれば薄めるほど薬効が強まる」とされ、一般には30C(100倍希釈30回)が広く用いられる。
さて、高校の化学あたりで習うと思うが、物質には分子量というものがあって、液体・気体にあってはどんな物質であれ同じ体積中には同じだけの分子が含まれることが知られている。従って体積比で100の30乗にも希釈された液体には1/1000,0000,0000,0000,0000,0000,0000,0000,0000,0000,0000,0000,0000,0000,0000の割合でしか元物質の分子が含まれないことになる。水であれば18g、つまり18ccあたり約6020,0000,0000,0000,0000,0000個の分子を持っているのだが、スケールが35桁ほど違うので、たった18ccぽっちでは1個たりとも元分子が入っていない計算である。しかも実際に服用するのは砂糖玉に垂らしたほんの一滴だから、益々有効成分なんて含まれない単なる水+砂糖である可能性が高い。
当然ながら砂糖玉に病気を治す効果なんてある筈もない。


薬の効果や治療法の効果は実際に多数の患者さんに適用して症状の改善率(あるいは悪化率)を見ることで調べる。例えば、ある病を治す薬が開発されたとして、それを投与した人100人、しない人100人を比較する。投与しない人の50人が1ヶ月で完治したとして、投与した人は80人が1ヶ月で完治したのだとすれば、従来より60%ほど高い治療効果が見られたことになる。
実験のデータを取る人は、どの患者さんが薬を投与された人でどの患者さんが投与されていない人かを知らずにいなければならない。そうでないと、「薬を使っているから治ってきた筈」などと先入観が入ることでデータが正確に得られなくなってしまう。また患者さん本人にも、薬を使っているのか薬効のない偽薬を使っているのか知られないようにしなければならない。
こうした実験の良いところは、「どういう原理で効くのか解らない」場合でも、「効いたかどうか」は解るということ。要するに「現代科学では原理が解明されていない」と主張するものでも、効くか効かないかは判定できるということだ。効果があればデータに現れる。データに現れないなら効果はない。
さて、そうやってホメオパシーによる治療のデータを取ってみると、何の治療も施さなかった時と全く変わらないことが解る。要するに薬として何の効果も持っていないということ。そりゃまあ、単なる砂糖玉なんだから当然だが。

じゃあなんで愛好者がいるのか

薬効は皆無でも、治療として一切の効果がないというわけではない。
どうやらレメディの処方にあたり、綿密なカウンセリングが行なわれるらしく、それにより楽になる場合はあるということ。ただしホメオパシーの施療者は専門にカウンセリングを学んだプロではないので、カウンセリングを求めるならカウンセラーを頼るのが適切だとは思うが。


また、もっと単純にホメオパシーに何らかの神秘性を見出す人は少なくないだろうと思われる。要するにおまじないの類いだ。風水とか星占いとかパワーストーンとか、そういう遊び程度の感覚で用いるだけならまあ悪くない。「無病息災」のお守りで健康を願っても、病気に罹った時にお守りだけで治そうとする人はまずいないだろう……悪質な宗教でもない限りは。