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 移行後のはてなブログ:izumino’s note

『日常』から「日常系」という存在を捉えてみる

 有村悠さんからのチャットメッセージで、「今度『リスアニ!』に『Aチャンネル』のこと書いたんですよ」「ついては、いずみのさんからも日常系アニメへの意見をいただきたい」と話しかけられました。


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 せっかくなので、そのチャットでぼくが返したコメントを書きなおしてみます。
 有村さん自身の問題提起は、↓こんなところ。

浅井健一は歌う。

過ちもなく 悲しみもない世界
そんな世界が素敵だといえるのか
Blankey Jet City『幸せな人』)

そんな世界が素敵だということを示したのが、いわゆる「日常系」作品群なのかなあと思った。


  • 4コママンガを原作とすることが多い

  • 登場人物は女子高生がメインか、大多数

  • 教師以外の大人があまり登場しない

  • はっきりしたストーリーの軸がない

  • 行動範囲は教室>町内>行楽地
  •  

    ぼくの考える「日常系」アニメの漠然とした定義は、概ねこんなところ。(中略)
     なんでこんなことを言い出したかというと、ある年長の方とSkypeでやり取りしていて「最近の、『けいおん!』や東方などの『萌え』についていけない」という話が出てきたからだ。シナリオが希薄で日常からの乖離もなく、女の子のちょっとしたしぐさなどの「萌えポイント」くらいしか見つけられなかったのだが、なぜあそこまで受けているのだろうと。

     ぼくは説明を試みた。(中略)いわく、日常から乖離していないからこそ、多くの同世代が親近感を感じられる。(中略)自分たちに近しい等身大の少女たちの過ごす平凡ながらも忙しない日々に共感する。等々。しかし、まだ足りない。どころか暴論にまみれている(頼むから誰か突っ込んでくれ。こんなテキストはdisられてナンボだ)。

    そのうち、こんなことを考えた。「日常系」世界には現実世界のようなオオゴトがないからこそ、楽しいのだと。


    (中略)
    追記:

    その後、「日常系」は根本的にギャグマンガだから安心感を与えてくれるのではないか、という重要な指摘を得た。

    過ちもなく悲しみもない日常系アニメの世界 | LUNATIC PROPHET


     「追記」から先に書かれているのが、ぼくがチャットで意見した部分の要約ですね。
     ではどんな感想を伝えたかというと……。

    「日常系」の写し鏡としての『日常』

     まず日常系の話をするなら、反対に『日常』批評にいけば面白いと感じています。


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     『日常』は4コマではないですけどね。
     『日常』って明らかに、あずまきよひこの系譜にある漫画なんですけど、他の『あずまんが大王』フォロワーたち(いわゆる「萌え四コマ」の作品群)に比べて、よりギャグマンガ」に回帰してるんですよね。
     そう、『あずまんが大王』も元々はギャグマンガとして評価されていたはずなんです。そこにキャラクターたちの日常や、「かわいさ」があった。


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     あくまでギャグマンガにこだわって描かれている、という点では苺ましまろ(電撃コミックス)だってそうでしたね。

     日常系と呼ばれる作品たちも、こうした『日常』と併せてみれば「本来はギャグマンガだから平和なんじゃないか」、って視点を与えてくれそうな気がしています。


     正確に評するなら、『日常』という作品は「『あずまんが大王』のギャグを強化した上に、『よつばと!』のストーリー手法で日常描写をしたストーリー漫画」なんだと思います。

    大人も子供も、おねーさんも。みんな全力で日常を笑おうじゃないか ―『日常』のすすめ― - レスター伯の躁鬱

    2.「日常」であること

    こんなシュールで不条理でバカバカしいギャグが中心にあるので、


    わかっていても、「日常じゃなくて非日常じゃねえか!」


    と、ついつい突っ込みたくなってしまうのが心情ってもんです。


    まあ、実際に「日常」の文字もブラーかかって揺らいでますしねw


    f:id:pushol_imas:20110418214333p:image





    その一方で、『日常』の世界には「日常」的な時間が流れています


    そのゆったりとした時空間の流れは、


    「日常系」漫画の代表であろう「よつばと!と似ているといえるでしょう。


    だからこそ、天丼ネタが時間の経過に支えられることで説得力を持ち


    不条理なことがおこっても、浮遊感とともに現実感も感じられるようになっています。


    尖ってるけど、どこか和むコメディ


    「日常」的な時空間を構築することで絶妙の空気感を作り出していると言えるでしょう。


     京アニでアニメ化され、にわかに注目を浴びている『日常』ですけど。
     原作は三年前くらいから新手のギャグマンガとして評価されてましたし、「日常」というキーワードの含意に感心していた読者も少なくなかったでしょう。


     で、『あずまんが大王』のギャグを強くしたのが『日常』だとしたら、逆にギャグを薄味にしてリアリティを加味したのが「日常系萌え四コマ」であると。
     そうすると、どちらも同じ系譜が枝分かれしただけだとわかる。


     日常系アニメについて語るなら更に、ファミリー四コマにおける「あるある系コメディ」の文化もジャンルの下地として忘れがたいでしょう。
     「あるある」の面白さっていうのは、まさに有村さんの説明にも出てくる「日常から乖離しない親近感」「共感」に根ざして成り立つ表現であるわけですからね。


     結論をまとめると、日常系アニメも「あるある系コメディ」ギャグマンガがあくまでベースにあるのであって、いきなりストーリーアニメの世界に「萌え」や「日常描写」がふってわいたわけではない、って見方が肝心でしょう、ということです。

    なぜいま『日常』アニメ化なの?


     『日常』が面白いギャグアニメなのは確かなんですけど、「なぜ京都アニメーションが『日常』を選んだのか?」と首を傾げている人は多いんじゃないんでしょうか。
     でも上記のように「日常系アニメ」との関係性で考えてみるとどうでしょう。
     京アニとしては、


    「日常系アニメ」が飽和状態になっている今のアニメ界に、ギャグアニメとしての『日常』をぶつけたい


    ……というのも、「狙い」としては理に適っているのかなあ、と想像しなくもありませんね。

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