日本古来の「結び」文化
宮内庁は、皇太子の新天皇への即位に伴う大嘗祭(だいじょうさい)を、2019年(平成31)11月に行う方針を固め、具体的な準備に着手することになったという。
大嘗祭は天皇が即位後に初めて行う新嘗(にいなめ)祭で、大嘗祭の前日には、歴代の天皇の魂を鎮める「鎮魂祭(鎮魂の儀)」が行われるはずだ。この祭祀のなかには「御魂(みたま)結び」という、木綿の糸を呪術的作法によって結ぶ行事がある。
こうした「結び」の呪法は、魂が身体から抜け出すのを防ぎ、またいったん遊離した魂を元にもどすためのものであった。
日本人にとって「結び」は、古くから続く精神文化であり、その思想性の高度で複雑な点は、世界でも類例をみないといわれている。年越しから新年にかけては、「結び」を目にする絶好の機会だ。
門松にしめ飾り、床の間飾りや鏡餅などの正月飾りは、新年になると家々を訪れる、「年神様」を迎えるためのものであり、その多くには水引や飾り紐が結ばれている。
初詣に出かけた社寺で、吉凶を占うために引いたおみくじを、木の枝などに結ぶこともあるだろう。
また2016年に大ヒットした映画『君の名は。』でも、糸守神社に伝わる「組紐」がストーリーの鍵を握る重要なアイテムになっていたことも記憶に新しい。
家紋や社紋と結びの多様性
「結び」とは何かについて、この分野の第一人者である額田巌(ぬかた・いわお 1911~93)は、「3次元空間内の自分自身と交わる閉曲線で、交点数が3つ以上ある」ものだと説明する。
しかし、実際の結びではこういった理論的な条件は不十分であり、紐の摩擦力や紐を引っ張る方向、紐の結び方の難易度といったさまざまな物理的な制約が要求される。
「つまり実際の一つ一つの結びは、永年にわたる人間の生活の知恵によってできあがっている」と額田は述べていた。
日本で「結び」の文化が発達し、継承されてきたのは、「有職故実(ゆうそくこじつ)」によるところが大きい。
奈良時代末期から平安時代中期に、朝廷は「格式(きゃくしき)」をまとめ、儀式や行事の決まりごとや用具を細かく定めた。このような朝廷行事が公家に広まり、さらには武家文化から町人文化にまで普及していったのである。