クイズ:経常黒字が3割減なのになぜ円高なのでしょう? | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

クイズ:経常黒字が3割減なのになぜ円高なのでしょう?

秘書です。

むかしむかし、高校時代の政治経済の授業で得た知識では、日本の経常黒字が減れば円安になるはず。でも、いまは経常黒字が3割減なのに円高基調です。なぜでしょう?(正解は、下記の「問4」の回答に。なんと30年前以上前の白川日銀総裁の論文に模範回答があります!)

(問1)震災の影響で3月の日本の経常黒字は対前年同月比で34.3%減でした。なのになんで円高なのでしょう?


→3月17日の与謝野大臣の回答

[東京 17日 ロイター] 与謝野馨経済財政担当相は17日午前、記者団に対し、為替市場で史上最高値を更新するなど、円高が急激に進行していることについて、「思惑先行の極めて投機的な動き」との認識を示した。

(問2)では、なぜ現在でも、まだ円高なのでしょう。投機筋のせいでこんなに長期っておかしいですね。なんで震災後円高が続いているのでしょう? 

→5月13日の与謝野大臣の回答

ドルの下落を憂慮する=与謝野経財相
2011年 5月 13日 19:52 WSJ日本版
http://jp.wsj.com/Japan/node_235968

【東京】与謝野馨経済財政相は13日、ドルが最近、約3年ぶりの安値に下落したことに不快感を示し、世界の準備通貨は強くあるべき、との見方を示した。
 与謝野経財相はダウジョーンズ経済通信とのインタビューで「ドルが弱くなっている。これは問題だ」とし「主要(準備)通貨が安定し、信頼でき、強い価値を持つことをわれわれは望んでいる」と述べた。インタビューは英語で行われた。
 ガイトナー米財務長官とバーナンキ連邦準備理事会(FRB)議長が強いドルへの支持をあらためて表明したが、経財相は米国の通貨政策に対し懐疑的な見方を示した
 経財相は「米政府がどのように考えているのか分からない。われわれの通貨のレートが、少なくともドルに対し、安定することを望んでいる」と語った。
 オバマ米大統領は昨年、2015年までに米国の輸出を倍増させる目標を発表した。為替相場がドル安になれば、海外で米国製品の価格競争力が強まり、目標の達成がより容易になる。
 米連邦公開市場委員会(FOMC)は先月末、金融を緩和気味に維持する、いわゆる「量的緩和」政策の継続を決定した。多くのアナリストは、この政策により、ドルの価値が低下している、と指摘する。
 経財相はさらに、東日本大震災と福島第1原発の事故により被害を受けた地域の復興に約10兆円を投じる計画だ、と述べた。
 同相は「私の推計では、10兆円余りになるだろう」と語った。
(記者: ANDREW MONAHAN And GEORGE NISHIYAMA)

(問3)上記の昨日の与謝野大臣の発言は為替相場にどういう影響があったとマーケットではいわれていたでしょう? 

→与謝野経済財政相発言受けた円買いも

〔外為マーケットアイ〕ドル一時80.34円まで下落、対ユーロでのドル売りが波及
2011年 05月 13日 16:48 JST
http://jp.reuters.com/article/forexNews/idJPnTK059387020110513
・・・
 <14:24> ドル80.55円付近、与謝野経済財政相発言受けた円買いも
 ドル/円は80.55円付近でいったん下げ渋っている。ドル/円が80.44円まで売られた背景として、与謝野経済財政相が為替について、円が強いのではなくドルが弱いとの認識を示したと一部で報じられ「ドル/円の下げにつながった」(外資系銀行)という。
 「与謝野経済財政相発言から介入が入りにくいとの見方が広がった。このため、80.70円付近から断続的にストップロスをつける形で下げ幅を広げた」(国内銀行)という。

(問3)現時点での円・ドル・ユーロ関係は、与謝野大臣が指摘するように、ドル下落といえるでしょうか? 

→いいえ、円とドルが対主要通貨で上昇しました。

NY外為(13日):円とドルが対主要通貨で上昇、株安で逃避需要
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920012&sid=aOBk1Oe5B5Xw
5月13日(ブルームバーグ):ニューヨーク外国為替市場では、円とドルが主要通貨すべてに対して上昇。株と商品が下落し、安全性を求めた買いが円とドルに入った。

ユーロは一時、ユーロ圏の成長加速が好感され、値上がりする場面もあったが、その後に反落した。ギリシャが債務再編を迫られるとの懸念が根強く、週間ベースでは対ドルで2週連続の下げ。円も高い。与謝野馨経財相は円高について、ドル安の結果であり、円独自の強さが原因ではないとの認識を示した。南アフリカ・ランドは週間ベースで1年半ぶりの大幅安。失業率の上昇が影響した。

ゲイン・キャピタル傘下のオンライン為替取引会社FOREXドット・コム(ニュージャージー州ベドミンスター)のチーフストラテジスト、ブライアン・ドーラン氏は「世界の景気回復に関する明るい材料は年初からの4カ月間ですべて織り込み済みだ。ただ、その回復の強さについては、これまで大幅に見直されている」と述べ、「フロス(泡)の多くは、今はもう取り除かれている」と続けた。

ニューヨーク時間午後3時37分現在、ドルは対ユーロで1%高の1ユーロ=1.4104ドル。前日は1.4246ドルだった。一時は1.4067ドルと4月1日以来の高値まで上げた。

(問4)今日にいたる非正規雇用拡大や努力が報われないという価値観の蔓延の起点としての95年阪神・淡路大震災後の「行きすぎた円高」と、現在の東日本大震災以後の円高をどのように理解することが可能でしょうか。

→各国の金融政策のスタンスの差によって説明できます。このことは、30年以上前に、白川方明氏(現日銀総裁)の論文「マネタリー・アプローチによる国際収支・為替レートの実証分析―わが国のケースを中心に―」(1978年4月、1979年5月加筆修正)によっても実証されています。

「マネタリー・アプローチによる国際収支・為替レートの実証分析―わが国のケースを中心に―」白川方明氏(1978年4月、1979年5月加筆修正) 
http://www.imes.boj.or.jp/japanese/kinyu/shiryou/kks3-2.pdf

「・・・前述のような実証結果は「国際収支不均衡や為替レート変動はすぐれて貨幣的現象である」というマネタリー・アプローチの基本命題を実証的に明らかにするとともに、次のような政策的インプリケーションを示すものといえよう。

すなわち各国通貨当局の政策スタンスは国際収支、為替レート変動に極めて大きな影響を及ぼすということである。例えば、わが国が外国に比し相対的に引き締め的な金融政策をとると、わが国の国際収支は黒字となり、円レートは上昇する。

また、米国が相対的に拡張的な金融政策をとると、米国において通貨の超過供給を発生させることにより米国の国際収支赤字(その他諸国の国際収支黒字)、ドル・レートの低下を惹起する。・・・」


(問5)白川日銀総裁が「国際収支不均衡や為替レート変動はすぐれて貨幣的現象である」というマネタリー・アプローチの基本命題を実証的に明らかにし、円高の原因を理解しているにもかかわらず、なぜ、いま、相対的に拡張的な金融政策をとり円高を是正しないのでしょうか?

→それが、わかりません。謎です。

→なお、高橋洋一さんは以下のように解説していました。 


「金融引き締めが円高招く」若き日に論じた白川日銀総裁 恩師は「歌を忘れた…」と嘆く
2010.11.08 ZAKZAK 高橋洋一
 日本銀行は5日の金融政策決定会合で、金融政策の「現状維持」を決めた。

3日に米連邦準備制度理事会(FRB)が決めた追加金融緩和が「予想の範囲内」と市場から受け止められたからである。

 この日の決定会合はもともと15、16日に設定されていたものを、4、5日に設定し直したのだ。

もちろん、3日にFRBが追加金融緩和を打ち出すことが予定されていたからだ。

5、6日に京都でアジア太平洋経済協力会議(APEC)財務相会合が行われ、13、14日に横浜で首脳会談が行われるので、政府が動きにくいから、3日のFRBの政策によっては、日銀が出るということも想定されたのだろう。

 日銀は市場の動きを見て、何もしなくてもいいと判断したようだ。

しかし、海江田万里経済財政担当相は「米国と比べると随分小さいので、これから議論になると思う」と指摘している。

 これは、白川方明日銀総裁自らよく知っていることだ。

実は、白川総裁は31年前、日銀の研究誌に、「マネタリーアプローチによる国際収支・為替レートの実証分析-わが国のケースを中心に-」という論文を寄稿している。

 そこでは、「わが国が外国に比し相対的に引き締め的な金融政策をとると、わが国の国際収支は黒字となり、円レートは上昇する。また、米国が相対的に拡張的な金融政策をとると、米国において通貨の超過供給を発生させることにより米国の国際収支赤字(その他諸国の国際収支黒字)、ドル・レートの低下を惹起する」と書かれている。

 若き日の白川総裁は、円高は引き締め的な金融政策で起こると言っているのだ。

簡単にいえば、米ドルと日本円を考えると、日本が引き締めを行って相対的に米ドルが多い場合、ドルの希少性が薄れてドル安・円高になるのだ。

 現時点で、為替は短期的な動きを除くと、このマネタリーアプローチで8~9割方説明できる。

投資家のジョージ・ソロス氏もこの手法を使っていることは有名である。

 この白川総裁の論文は、今でもかなり妥当している。

日銀がいくら緩和したといっても、為替に対しては米国との相対的な関係が重要だ。

そうであれば、今は市場がおとなしいが、いつ何時、再び円高へ向かうかもしれない。

 日本と米国を比べると、日本の方はデフレで米国はまだデフレになっていないのであるから、金融緩和の余地は日本の方が大きいはずだ。

それなのに、米国の追随では情けない。

 白川総裁のことをかつての恩師である浜田宏一エール大学教授は「歌を忘れたカナリア」というが、そのとおりだ。

(嘉悦大教授、元内閣参事官・高橋洋一)