有力議員を自滅させた「Twitterの設計思想」

米国の有力な下院議員が、Twitterで自分の下半身の写真を公開するという大失敗を犯したことは全米の話題になっている。彼の失敗の原因となったのは、Twitter独特の設計思想だ。
有力議員を自滅させた「Twitterの設計思想」

Steven Levy

アンソニー・ウィーナー下院議員のツイート。「私をフォローしてくれてありがとう。私があなたをフォローしてほしい場合は#WreinerYesを使ってください」

アンソニー・ウィーナー下院議員[民主党、ニューヨーク州選出]がTwitterで「メルトダウン」的な大失敗を犯したことは、全米の話題になっている。しかし、彼の失敗の原因となったのがTwitter独特のコミュニケーション・ルールであるということはあまり議論されていないようだ。

Twitterは、ウィーナー議員のような多弁な政治家にとって非常に魅力的なメディアだった。同氏はTwitterを使い、その威勢のよい個性を全国的なコミュニティーで確立した。しかし、同氏は女性たちとのみだらな性的連絡にもTwitterを利用し、その際に致命的なミスを犯してしまったのだ。

ウィーナー議員の不適切なコミュニケーションは以下のように進んでいた。まずは、ある女性が同氏に公的な応援メッセージを送る。次に、同氏が彼女に公的に返事をする。同氏がさらにいちゃつくためには、よりプライベートなチャンネルが必要だった。女性はすでに同氏をフォローしていたため、ダイレクトメッセージを送ることができた。しかし、彼女の返事をダイレクトメッセージで受け取るためには、同氏は彼女をフォローする必要があった。女性と性的にいちゃつくためには、この相互フォローが必要だった。

ウィーナー議員は、Twitterのルールが危ないということを分かっていなかったようだ。女性たちは、同氏がフォローしていたアカウントのリストに公然と名を連ねていた。同氏のフォロー数は約200しかなかったため、政治家やジャーナリスト、有名人のなかで、女性たちは場違いな感じだった。ウィーナー議員が公開のやり取りからすぐに若い女性たち(ひとりはポルノスターを含む)をフォローしていたことを、政敵はいとも簡単に気がつくことができた。

そして、ウィーナー議員を批判する右翼的な社会活動家が同氏の行動パターンに気がつき、同氏がフォローしていた若い女性たちにいやがらせを行った。しかし同氏がここで行いを改めるということはなかった。同氏は彼女たちのフォローを解除し、別の女性たちといちゃつきを始めたのだ。同氏が致命的な事故に向かっているのは明らかだった。

公開メッセージとダイレクトメッセージの線引きが不明確、というTwitterのかかえる問題にウィーナー議員が直面したときに、事故は起きた。同氏は、若い女性に陰部の写真を送ろうとしたとき(グレーのボクサーを着用していたが勃起したものは収まりきれていなかった)、女性のフォローは済ませていた。しかし、非公開のダイレクトメッセージと公開リプライのよくある間違いを議員は犯し、その結果、自分をフォローしている数万人にその写真を送信してしまったのだ。

同議員は最初、彼のアカウントがハッキングされたと嘘をついた。しかし、彼の不品行の証拠は公開されていた。彼がフォローしていた女性たちのサムネイル画像が、彼のTwitterアカウントで公開されていたのだ。ジャーナリストや政敵、右翼活動家らが、同議員がいちゃついていた複数の女性を特定し、「私的な」Twitterメッセージから、より明瞭な写真を入手するのは簡単なことだった。何が起こったか尋ねられた女性たちは事実を話し、同議員の「ハッキングされた」という嘘はばれてしまったのだ。

ウィーナー議員の大失敗の原因となったソーシャルネットの特徴は、数年前にTwitterを作ろうとしていた人々が決めたものだった。以下、2009年に私がWiredのために書いた記事から、彼らの発言を紹介していこう。

2006年にジャック・ドーシーは、人々が生活のなかで起こったことを短い文章で友人や家族に報告できるメディアを思いついた。Twitterが大成功した鍵は、誰かのメッセージを、その人に許可を得ずに「フォロー」できるということだった。親友や兄弟をフォローするのと同じように、オバマ大統領やニューヨークタイムズなどをフォローできるのだ。

これは、従来のコミュニケーション・システムに見られる「双方の合意」からはかなり違った発想だ。このことでTwitterは、非同期的なインスタント・メッセージ・システムから、「ソーシャルネットワークと放送的メディアのハイブリッド的存在」になったのだ。

「私はブログ的な関係がよいと思っていた」と語るのは、Twitterを開発した会社(Odeo社)を率いていたエヴァン・ウィリアムズだ。「電子メール等に比べてブログのよいところは、それを読むかどうかを、情報の受け手が完全に決められるところだ」

しかし、Twitterはブログよりも親密だった。Twitterで誰かをフォローすることは、ブログ・フィードを設定したり、雑誌を定期購読することと同じではない。ユーザーはコミュニティの一部となるのだ。このことを可能にするため、Twitterでは、その人がフォローしている人々のリストと、その人をフォローしている人々のリストを公開している。自分の友達が、自分と同じ人をフォローしている場合はそれが分かるし、自分がフォローしている人をフォローするほかの人たちと関係を持つこともできる。

Twitterのコミュニティー的な側面をさらに押し進めるため、創業者たちは、すべてのメッセージがデフォルトで公開されることにした。

「このオープン化は、オンラインにおける人々のコミュニケーションのあり方について、さまざまな検討をした結果だった」と、オリジナルチームの一員だったノア・グラスは話している。「われわれは『MySpace』を使っていたが、いろいろな女の子がプライベートなことを公開の場で投稿することで、たくさんのトラブルが生じていた。われわれ全員がオープン化という問題について考え始めた」

「人々は、とても個人的な議論を、ほかのみんなが読めるようにしていた。われわれが重要だと考えていたプライバシーのレベルが、一部の人たちの一部のコミュニケーションにとっては必ずしも重要ではないということにわたしは気がついた。あらゆる会話をオープンにしてフォロー可能にしたのは、人気になりつつあったこうしたシステムに基づいたものだったのだ」

ユーザーの要求によって「リプライ」機能が追加されたときも、リプライは公開される設定だった。そして、SMSや電子メールのように、ほんとうに私的な会話をしたいときは、ダイレクトメッセージが使えるようになった。しかし、ダイレクトメッセージと公開ツイートを絶対に間違えないようにするという仕組みはなかった。従って、Twitter歴の長いユーザーでさえ、この2つを間違えることがある――そしてウィーナー議員が自滅した原因はこの設定だった。

{この翻訳は抄訳です}

WIRED NEWS 原文(English)

[日本語版:ガリレオ-緒方 亮/合原弘子]