iPhoneと駐車場「Times24」の意外な共通点

こんにちは。マーケティング担当の伊藤大地です。

いつもはネットやソーシャルメディアのネタが多いSix Apart ブログですが、今回はちょっと毛色を変えて、先月、翔泳社から出た『ビジネスモデル・ジェネレーション』という本で扱われているフレームワークをベースに、いろいろと遊んでみたことについて書きたいと思います。

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ビジネスモデル 9つの要素

ところで、ビジネスモデルという言葉は聞き慣れていますが、ビジネスモデルを説明するときに、必要な要素ってなに?と言われると、みなさんはどんなことを思い浮かべるでしょうか。お金の流れ? モノ/サービスの流れ? プラットフォーム? 顧客セグメント? いろいろな答えが出てきそうですね。

こういった複雑な要素を9つの要素にまとめて、ビジネスモデルをわかりやすく1枚の地図にして描いて考えよう! というのがこの本の内容になります。

この本では、ビジネスモデルを9つの要素に分類し、「ビジネスモデル・キャンバス」と呼ばれる一枚の地図に描いていきます。

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  • 顧客セグメント(CS=Customer Segments):文字通り、お客さんのセグメント分けですね。個人、法人、マス、ニッチ......
  • 価値提案(VP=Value Propositions):これは、企業が何をお客さんに提供するのかということです。モノ、サービスなどなど。
  • チャネル(CH=Channels):どうやって価値をお客さんに届けるのか、ということです。小売店、直営店、オンラインなどなど。
  • 顧客との関係(CR=Customer Relationships):どうやって顧客との接点を維持するか、ということです。この本では、個人ごと個別に対応するパーソナルアシスタンスや、顧客自身でサービスをコントロールしてもらうセルフサービスなどが例に挙げられています。
  • 収益の流れ(RS=Revenue Streams):お客さんに払ってもらう、お金の形態です。商品やサービスの代金のほか、手数料、購読料、ライセンス料、レンタル料、広告収入など。
  • リソース(KR=Key Resources):事業に必要なリソースを表します。人材、お金、知的財産、ビルや機器などがこれにあたります。
  • 主要活動(KA=Key Activities):企業がメインで行なう事業、つまりは本業ってやつですね。本では、製造だったり問題解決、プラットフォーム構築、が例として挙げられています。
  • パートナー(KP=Key Partner):事業をする際のパートナーのことです。サプライヤーや販売代理店、提携先などなど。
  • コスト構造(C$=Cost Structure):事業にかかるコストがどのようなものかを表します。固定費、変動費など。

これをまとめて、このマッピングに入る典型的な内容を入れてみるとこんなふうになります。

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iPodからiTunes StoreそしてiPhone アップルの進化

前置きはこのくらいにして。Appleファンの皆さん、おまたせしました。さっそく、Appleの変遷を見てみましょう。

iPod発売の頃

iPodの価値提案(VP)といえば、なんといっても「1,000曲がポケットに入る利便性」「Macとの連携」ということになるでしょう。収益の流れ(RS)は、iPodを販売することによって得られる販売代金ですし、チャネル(CH)は小売店、直営店ですね。パートナーは、製造メーカーなどが挙げられそうです。

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iTunes Music Storeができた頃

これが2003年にiTunes Music Store(現在のiTunes Store)ができたことで、大きく変わります。まず価値提案には「99セントで音楽が買える!」というものが入り、収益の流れも楽曲の販売代金が加わります。Appleの主要活動も、「音楽販売サイト運営」というプラットフォーム的な側面がでてきます。パートナーには音楽レーベルが含まれるでしょうし、コスト構造も著作権料の支払いが発生しています。

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iPhone以降のイマココ!

さあ、さらに進んで、iPhone以降をマッピングしてみましょう。

収益の流れが、飛躍的に多くなっています。音楽の販売代金だけでなく、アプリ、映画、電子書籍の販売代金や購読料、通信事業者とのレベニューシェア(iPhone発売当初)、iADを使った広告収入......。顧客層も、Macファンやガジェッターだけでなく世界中のケータイユーザーに広がりますし、コンテンツを作る開発者も端末を買う、という側面も見逃せません。パートナーもテレビ局、映画スタジオ、通信事業者など飛躍的に伸びています。

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すでにいろいろなところで言及されていることなので「こんなの常識だよ」と思われるかもしれませんが、こうやってマッピングすることによって、AppleがiMacのようなクールなハードを作っていた「メーカー」から、「かっこいいデバイスを軸にいろんなコンテンツ販売のプラットフォームまで持つ巨大企業」に大きく変化してきたことが、よりわかりやすく整理できます。

パーク24って、知っていますか?

次は、駐車場で有名なパーク24を見てみたいと思います。パーク24ってなにかって?黄色に黒の看板、Times24の駐車場を経営している会社、といえば、少しはおわかりいただけるでしょうか。

この会社を調べてみたきっかけは、この会社のカーシェアリングがとても便利だったこと。さくっとWebで予約して近所の駐車場からすぐクルマに乗れる。そういえば最近出てきたサービスだよなーどんな会社なんだろーと沿革を見ていたら、ちょっと面白い進化の仕方をしていたのです。あくまで沿革をもとにマッピングしたので、厳密なものではないことをお断りしつつ、見て行きましょう。

駐車場メーカーだった頃

パーク24のはじまりは、駐車場の機器メーカーだったようです。とすると、価値提案は機器の性能や価格、納期といったことになるでしょうし、主要活動も機器の製造と販売、顧客層は駐車場オーナー、収益の流れは販売代金と置くことができそうです。

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駐車場経営も始めた段階

パーク24は、駐車場そのものの経営もはじめます。一番大きく変わるのは、顧客セグメントですね。自ら駐車場オーナーになってしまったわけですから、お客さんはドライバーになります。価値提案は駐車場の立地や使いやすさといったところになるでしょうか。収益の流れも駐車料金が加わります。

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レンタカー会社を買収したあと

さらにパーク24は、マツダレンタカーを買収します。駐車場機器、駐車場、そしてクルマ。この3つのりソースを揃えたことによって、「無人駐車場でクルマをレンタル」という価値提案ができますし、顧客セグメントはドライバーからさらに広がって、クルマを持たない人にまで拡大します。収益の流れは、駐車料金、レンタカー料金、カーシェア料金と増えていくことになります。

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パーク24が最初、駐車場機器メーカーだったなんて、信じられますか?

両社の共通点を考えてみた

こうやってAppleとパーク24の変化をマッピングして考えてみると、いろいろな共通点が思いつきます。

共通点1 両方とも初期段階では「機器メーカー」であったこと

AppleはiPodを売っていましたし、パーク24は駐車場機器を売っていました。主な収益は販売代金だったことでしょう。

共通点2 ビジネスモデル拡大によって、広い価格帯の商材をもつようになった

AppleがiTunes Storeを始めたことによって、85円のアプリから十万円以上するMacまで扱う商材の価格帯は広くなりました。同様に、パーク24も、高価な業務用機器だけでなく、数百円の駐車料、数千円のカーシェア料金という収益の流れを作っています。

共通点3 顧客層をライト層・マス層に拡大した

初代iPodは、Mac専用でWindowsにも対応していませんし、ましてや、パソコンなしの運用などできませんでした。それが、Windowsに対応し、さらに今のiPhoneではパソコンすらいりません。ターゲットとする層は、もはやコアなAppleファンだけではなくなりました。

パーク24も、はじめは駐車場オーナーが顧客層で、いわゆるB2Bという分野です。それが駐車場を手にすることでB2Cに、さらにレンタカー会社を手にすることで、駐車場どころか、クルマを持たない層にまで自社のサービスを提供するようになりました。

共通点4 価値をバンドルして、複数の収入源を得た

Appleは、クールなデザインのハードウェアに、iTunesのようなソフトウェア、さらに使いやすく、品揃えのいい販売プラットフォームを組み合わせることによって、端末販売代金だけでなくコンテンツの料金、広告収入など収益の流れを複数化しています。

同じように、パーク24も使いやすい駐車場機器と、アクセスがよく、数の多い駐車場、そしてそこに停まっているクルマという価値を組み合わせて、収益の流れを増やしています。

でも、ビジネスの起点は違うのかも......

もちろん、似ていないこともいっぱいあります。たとえば、ビジネス拡大の基礎をどこに置くかという点です。Appleは、初期は機器メーカーでありながら、「ポケットに1000曲」「すぐに音楽が買える」など、どんなサービスを提供するかという、「価値提案」から全体を構築しているように見えます。

一方で、パーク24は、駐車場機器を売るお客さんである、駐車場オーナーに自らなり、さらにそのお客さんである「クルマ」も取り込む、という、自らの「リソース」をベースにしてさらに大きいサイズになるように変わっていく、というプロセスが見て取れます。

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企業として、どこを起点に置いてビジネスモデルを作っていくか、という点が重要である点はこの本でも強調されていて、出発点をベースに「価値主導」「顧客主導」「リソース主導」「コスト主導」に分類されています。

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ブレスト感覚で遊んでみると楽しい!

ここでは、本で書かれている、ほんの一部を切り出して、興味のある企業に当てはめてみて遊んでみました。会議室でうーん、とうなって考えるより、ランチでも食べながらホワイトボードやポストイットを使って、ブレインストーミングをすると、面白いのではないでしょうか。『ビジネスモデル・ジェネレーション』、興味のあるかたは、ぜひ読んでみてくださいね。

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