亡き後見通したジョブズ氏の先見
クイックVote 解説と結果
「宇宙船みたいで美しいでしょう」
5日に世を去るわずか4カ月前の6月7日。アップルCEO(最高経営責任者)だったスティーブ・ジョブズ氏は、本社があるカリフォルニア州クパチーノ市のホールで、市民らを相手に熱のこもったプレゼンテーションを行いました。
「域内にいる1万2000人の全従業員を収容できる建物がどうしても必要なのです」。現状の倍近い6000本の木を敷地内に植えるなど環境配慮型の施設であることを切々と訴えながら、建設に理解を求めました。
新本社は、遠くない死を予感していたジョブズ氏が、最後の力を振り絞って実現を目指したプロジェクトでした。
「形は円形。どこもかしこも曲面で、割高ですがガラスも曲面で作ります」
自分が去った後も、従業員が同心円のなかで結束してほしい――。ジョブズ氏は、ビルの形状にそんな思いを込めたのではないでしょうか。
カリスマという求心力が去った後、勢いを失った企業や組織は多々あります。死期を悟って以降、ジョブズ氏は与えられた残り少ない時間の中で、歴史を繰り返さないための手立てを着々と組み立てていったようです。自ら生み出した様々なヒット商品と同じような緻密さで。
今回のクイックVoteではジョブズ氏という希代の経営者の資質や、アップルの代表的な商品について読者のご意見を伺いました。
経営者としての能力では「革新的な商品の企画力」をもっとも評価する声が全体の4割を占めました。「先見性」も2割超が挙げました。
印象深い商品についてはパソコンの「マッキントッシュ」が4割弱でやや優勢。比較的若い世代の読者を中心に携帯音楽プレーヤーの「iPod」やスマートフォンの「iPhone」を支持する人も多く、票が分かれました。
ただ、全体的にはジョブズ氏のオールマイティー(全能)ぶりを指摘する声が目立ちました。30代男性は「経営者としてほぼ全てが秀でていた」とコメント。50代男性は「iTunesなどのソフトとiPhoneなどのハードウエアの力を絶妙に組み合わせた商品のとりこになった」といいます。
回答総数 | 2376 |
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男性 | 90% |
女性 | 10% |
20代 | 9% |
30代 | 22% |
40代 | 33% |
50代 | 23% |
60代 | 10% |
70代 | 2% |
ジョブズ氏のこだわりや行動力と密接不可分、表裏一体の商品が投入され成功を収めるたびに、余人をもって代えがたいカリスマ像が形成されていったのでしょう。
ジョブズ氏のアップルからの"一時追放"に関与したとされるジョン・スカリー元アップルCEOは昨年末のインタビューで「ソニーが商品化できたはずのiPodは、ジョブズを体現する商品」と指摘。「ジョブズは(音楽コンテンツも含め)一気通貫で全体を見渡せる経営者だった」と認めています。
2015年ごろに竣工する新本社は、ジョブズ氏の存在証明としてアップルのよりどころとなりますが、未来の保証はアップルといえども、ないのです。絶対的なリーダー不在の中で競争に生き残る術を、すべての企業が模索する時代に入ったといえるのではないでしょうか。
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