なぜ“ロリポップ”ではなく“ハードキャンディ”なのか?

ハードキャンディ』鑑賞。ローズ・マッゴーワン(a.k.a.片足マシンガール)がでてるヤツじゃない方。

32歳のカメラマンが出会い系サイトを通じて、14歳の少女と出会う。人当たりがよく、さらに口がうまい彼は見事に彼女を自宅に連れ込むことに成功。ところが、二人でお酒を飲み出したとたん彼は意識を失い倒れてしまう。意識を取り戻すと彼はイスに縛り付けられていた……

前からレンタル店でパッケージなど見て気になってはいたのだが、今回2週間レンタルで100円という格安料金だったために借りて来た。ビデオ1ありがとう。

日本で起きた女子高生の親父狩り事件にヒントを得て作られたらしいが、ビジュアルからしてやはり話は現代の赤ずきんちゃんだろう。ところが今作での赤ずきんちゃんは可愛い顔して狼を罠にはめ牙を向く。

正直、かなり怖かった。実際に中学生に酒を飲ましてレイプしようとしたなんて事件もあったが、今作ではそれを完全に逆手に取り、男にとってのホラー設定に仕上げている。赤ずきんちゃんをベースにしてるだけあって寓話性もあり、キャラクターの背景などはあえてまったく分からないようにしているが、徹底的に男目線で描かれるため、変態の性癖を持つ男が得体の知れない恐怖に襲われる感覚というのがとにかくすさまじい。

低予算映画ということで、映画のほとんどが室内。出て来るのは二人の登場人物。『ソウ』をベースに、『オーディション』のクライマックスと『レザボア・ドッグス』の耳切りシーンがずっと続くような作品で、白昼堂々青空の下で恐怖体験が起こるという設定もかなり新鮮。エレン・ペイジ(a.k.a.ジュノ)とパトリック・ウィルソン(a.k.a.ナイトオウル)をキャスティングした時点で勝利は見えていたようなもんだが、特に『ダークナイト』のジョーカーや『ノーカントリー』のシガーのような“動機なき復讐者”であるエレン・ペイジの怪演が見事で、彼女とパトリック・ウィルソンのやりとりを見るだけでも充分に価値はある。

ただ、設定や役者の演技は素晴らしいのだが、この作品、演出がかなりヘタクソである。低予算なのは仕方ないにしても映像的には役者の顔のクローズアップが延々に続くだけで、それ以上の広がりがない。ここぞってところで早回しのチャカチャカ映像になるが、それもアップを多用したりと、とにかく画面全体を何かのアップが覆いまくるのである。例の中盤でのなにがしのシーンではそれを多用しても構わないんだけど、その他のシーンでは引き絵でじっくり撮るべきだったはずだ。その辺初監督作ながらタランティーノはよく分かっていたし、『ソウ』も室内のシーンではローアングル気味でしっかりと絵を抑えていた。『ハードキャンディ』もしっかりとこの辺をキッチリ撮っていればよかったのになぁという印象が残ってしまった。

ちなみに“ハードキャンディ”にはそのものずばりのキャンディの意味も含まれるが、他に「ギンギンにおっ立ったおち○ち○」とか「ヘロイン」の意味もあり、このタイトルが見事に作品を象徴するようになってて、その辺の計算もうまい。何故『ハードキャンディ』なのかは観てからのお楽しみであるが、個人的にこの手のシチュエーションものだったら『ソウ』よりもこっち。スクリュードライバーを飲みながら観ると恐怖感が増すこと必至だ。あういぇ。