読んでて飽きない辞書「日本語 語感の辞典」

2010年12月20日(月) 18:04:01

日本語 語感の辞典読んでいて飽きない辞書に巡り会えた。

「日本語 語感の辞典」(中村明著/岩波書店/3000円)

今日、東京駅前の丸善(オアゾの中)に行ったのだが、平積みになっていて偶然見つけた。11月25日第一刷だから出て1ヶ月か。知らなかったなぁ。やっぱりたまには本屋に行かないとなぁ。こんないい辞書が出ているのに気づかず生きていくところだったぜ。

表題通り「語感」を読み解いた辞書である。
帯に書いてある例で言うと、たとえば「発想・着想・思いつき」は意味はほぼ同じである。でも言葉には微妙な「語感=語のもつ感じ」の違いがある。そのニュアンスを約1万語にわたって解説した辞書である。なんと、中村明氏の単著。すごい労作だ。

ボクも、ブログとはいえ毎日欠かさず文章を書いているし、本も10冊以上書いている。まぁ読みやすいだけが取り柄の文章ではあるが、それでも「ボクの気持ちにぴったりの言葉」を探せなくて困ることはしょっちゅうだ。普通の国語辞典では探し出せないことも多い。「逆引き広辞苑」や「類語辞典」なんかも駆使して言葉を探すが、用例も少ない上にニュアンスの違いが書いてないから迷うことも多い。その点この辞書は違う。ニュアンスだけでなく類語にも用例にも言及してくれている。編集者の苦労も計り知れない。

たとえば拙著「明日の広告」のタイトルは、「あした」と読ませるつもりで書いたし、本文内にはルビもそう振ってあるのだが、3割くらいの方が「あす」と読む。一方で「みょうにち」と読む方には会ったことがない。では、「あした」と「あす」と「みょうにち」ではどんなニュアンスの違いがあるのか。その方にとって「明日の広告」は「あした」なのか「あす」なのか「みょうにち」なのか。そんなこともちょっとわかるよ(笑)

あとがきで中村明氏はこう書いている。

ばらも桜もコスモスも「花」であり、お茶もコーヒーも酒も、池も川も海も要するに「水」である。「雨」にも春雨・さみだれ・夕立・しぐれ・ひさめといろいろある。「梅雨」もその一種だが、さらに菜種づゆ・走りづゆ・戻りづゆと分ける人もある。感じ分けるのはそういう言葉を知っているからだ。語彙が豊富になるにつれて認識が繊細になり、人生をきめ細かく味わうようになるだろう。同時に、用語に悩むという贅沢な悩みも増える。
「感じ分けるのはそういう言葉を知っているからだ。語彙が豊富になるにつれて認識が繊細になり、人生をきめ細かく味わうようになるだろう」。…嗚呼そうありたいな。毎日文章を書いている分、少しは認識が繊細にはなってきているとは思うが、もっともっと語感の世界に遊びたいボクである。

ま、それはそれとして、「新しい辞書の紙の匂い」ほどシアワセなものはない。
そう思わない? まぁボクが本の匂いフェチということもあるのだけど、デジタルにはこのシアワセ感がないんだよなぁ。このいい匂いも含めて「買い」である。本当に読み飽きない。年末年始の暇つぶしにもってこいである(個人的には執筆地獄なので暇はないが)。オススメ。


※巻末問題:次の問いに答えよ。

この文章の中で、筆者は、「辞典」ではなく「辞書」、「書店」ではなく「本屋」、「香り」ではなく「匂い」、「幸せ」ではなく「シアワセ」を使用した。なぜその言葉を選んだか、語感に言及しながらそれぞれ140字以内で答えよ。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

アーカイブ

同カテゴリーの他記事