米グーグル、フェースブックへの情報提供中止
「Gメール」アドレス帳使えず、利用者に不便も
【シリコンバレー=奥平和行】インターネット検索最大手の米グーグルが5日、同社の電子メールサービス「Gメール」用のアドレス帳情報をSNS(交流サイト)最大手、米フェースブックのサービスを通じて利用できないようにすることが明らかになった。米メディアが報じた。グーグルはかねてフェースブックに情報開示を要求してきたが受け入れられず、自社の情報の提供中止という"報復"に出た格好だ。
グーグルはサービスの利用規約を変更した。同社は従来、利用者が登録した情報を外部に持ち出し他社のサービスを通じて利用できるようにしていたが、今回の変更により持ち出し先を「利用者情報の持ち出しを許可しているサービス」に限定した。フェースブックはこうした持ち出しに対応しておらず、フェースブックを通じてGメール用のアドレス帳情報が使えなくなる。
フェースブックは人脈構築や情報交換をサービスの中心に据えており、サービスを使い始める際にはGメールなどのアドレス帳情報を使って友人を探すのが一般的だ。Gメールのアドレス帳情報を利用できなくなることにより、主にGメールを使っている利用者にとってはフェースブックの使い勝手が悪くなる恐れがある。
グーグルが"実力行使"ともいえる手法を採った背景には、フェースブックの急成長がある。米ハーバード大学の学生だったマーク・ザッカーバーグ氏(現フェースブック最高経営責任者=CEO)が2004年に始めたサービスは今年7月に全世界の利用者が5億人を突破。ネット利用者は検索やポータル(玄関)サイトなどよりもSNSを使う時間が増えている。
フェースブックは蓄積した利用者の人脈に関する情報の一部を外部にも提供、こうした情報を利用するサービスが相次いで登場し、「フェースブック経済圏」とも呼べる仕組みを作り出している。だが、インターネット広告で競合関係にあるグーグルには十分な情報を提供していないのが実情だ。
グーグルは「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスして使えるようにすること」を使命として掲げており、フェースブックのような新興勢力が情報を囲い込むことによってできる"ブロック経済"は受け入れがたい。
エリック・シュミットCEOが「検索エンジンがアクセスできない情報が増えることに対する懸念がある」とかねて発言するなど不快感を示してきた。米報道によると、今回の規約変更に際しても「多くのサイトでは利用者が情報を簡単に持ち込んだり持ち出したりすることができるが、フェースブックなどは利用者を袋小路に置き去りにしている」(広報担当者)と、その閉鎖性を批判した。
より現実的な問題としては広告事業への懸念もある。検索キーワードに応じて適切な広告を表示する検索連動広告がグーグルの収益の柱で、広告収入は売上高の9割以上を占める。グーグルは検索連動という仕組みを導入することで情報を必要としている利用者に効果的に広告を届ける道を開いたが、フェースブックにはそれを上回る可能性がある。
「ジーンズの無料クーポンはもう品切れです」――。5日朝、米シリコンバレーにあるアパレル大手ギャップの店頭では、行列を作った来店客にこうわびて回っていた。ギャップはフェースブックがこのほど始めた高機能携帯電話(スマートフォン)を使ったクーポン配信の仕組みを利用。各地の店舗に利用客が押し寄せた。
仕組みはこうだ。フェースブックのスマートフォン向けサービスを使い、自分の居場所を友人に伝えるために「チェックイン」と呼ぶ登録手続きをとる。ギャップなどあらかじめ手続きを済ませた店舗でチェックインすると、画面上にクーポン券が表示されて料金の割引などの優待が受けられる。
フェースブックは利用者の氏名、性別、住所、略歴など多面的な情報を持つ。なるべく多くの情報を登録した方が人脈を拡大するチャンスが広がるため、利用者は情報を積極的に提供する。フェースブックにとってはこうした情報がきめ細かい広告配信の基礎となる。
さらにクーポン券配信などにより位置情報も手に入れることができれば、小規模な商店やレストランなども近所にいる人だけに比較的少ない費用で効率的に広告を配信できるようになる。同様の仕組みを考えているベンチャーが米国で相次いで登場しているが、5億人超という会員数は大きな力となる。
もちろん、グーグルもフェースブックが会員獲得や収益拡大で成功を収めていることを指をくわえて見ているわけではない。今回の措置などによりフェースブックに圧力をかける一方、自らもSNSを通じて遊ぶソーシャルゲームや仮想通貨などを手掛けるベンチャー企業を相次いで買収して技術や人材の獲得を積極的に進めて次の展開に備えている。
「ソーシャル化に対応するため、今後5年間であらゆる産業は姿を変えざるを得ないだろう」。フェースブックのザッカーバーグCEOはこう予言する。ネット検索で圧倒的な勝利を収めたグーグルはどうこうした流れに対応するか。同社の戦略、そしてSNS最大手であるフェースブックとの"対立"から当面、目が離せない。