結局2013年夏の電力は不足するのか否か。

個人的にはもう目標つき節電令が出てない時点で電力不足の話はある意味終わった話だと思っていたけれど、電力インフラの予備率に関する会話 - Togetterなどまだ議論を行っている人がいる。今回は供給予備率について議論しているようだが、両者共にそれまでの電力需給検証委員会の議論の経緯を追っかけていないため、空回りしているように見える。

その議論では電力予備力として必要な予備力について経産省(電力需給検証小委員会)の「通常7〜8%程度必要」という資料を元に必要な電力が用意されていないのではないかというのが論点のようだ。

2013年度夏季の電力需給見通しについて
供給予備率の考え方
○電力需要は、常に上下最大3%程度の間で、時々刻々と需要が変動。これに対応するために、最低でも3%の供給予備率を確保することが必要。
1.計画外の電源脱落、2.予期しない気温上昇による需要増に対応するためには、更に4〜5%以上の供給予備率が必要と考えられる。
○よって安定的な電力供給には7〜8%以上の予備率確保が望ましいとされている*1


これに対し2013年度夏季の需給見通しを見ると西日本だけで約6%、東西日本でも6.3%と確かに望ましい予備率7〜8%が確保できておらず、電力不足の危険があるように感じる。

しかしながら2012年の電力需給検証委員会では必要な供給予備率について以下の通りの考え方で行けると結論づけている。

2012年夏需給検証委員会報告書
【これまでの予備率の考え方】
通常、瞬間的な電力の需要変動に対応するためには、最低でも 3%の予備率を確保することが必要である。更に、1.計画外の電源脱落、2.気温上昇による需要増を考えた場合には、5%前後の予備率が必要となる。特に前者については、当該電力会社の管内で一番大きな発電所の出力も参考となる。
通常、需要期の 1 週間前までは、計画外の電源脱落と気温上昇による需要増に備えて、7〜8%以上の予備率を見込んで計画を立てている。
その上で、1週間前から、温度に関する情報をもとに、より正確な需要を想定し、予備率を見直している。計画外の電源脱落については、いつ起こるかわからないものの、需要当日に近づくにつれ、発生の確率は減少することから、確保すべき予備率も調整している。需要前日段階で他の電力会社において需要ひっ迫が厳しい場合、自社管内で電源トラブルがなく気温も想定内との前提で、ぎりぎり 3%の予備率を残して融通することも可能としている。もしその状態で自社発電所にトラブル等が発生し、それが3%を超える影響がある場合は、他の電力会社からの応援融通を受ける、もしくは、他の電力会社への応援融通を取り止める等により対応する。(図3−1)
【今回の電力会社申告分の融通量の検証】
融通は、必要な供給予備力を超えた部分について、他電力に提供するものである。従って、瞬間的な需要変動分 3%程度は確実に必要である。また、計画外の電源脱落などについても、今夏に向かってその可能性は否定し得ず、現段階では、必要な予備力と考えられる。
他方、気温の上昇に伴う需要増加分に対応するための予備力 3%程度については、今回の需要想定において、2010 年という猛暑を想定していることを踏まえると、既に、そのリスクは見込まれていると考えられる。従って、その分は差し引いた 5%程度から、融通可能量を算出することが適切と考えられる。(図3−2、3−3参照)。

つまり夏の気温上昇による需要増として3%程度の供給予備力が必要だが、猛暑という想定の中ですでに織り込み済みということになる。2013年の供給予備力についても同様に猛暑想定のため折込済みの3%を加えると、西日本で約9%、東西日本で約9.3%と一般的に必要とされる分の供給予備率が確保されていることがわかる*2 *3
 
 

以下余談。
この議論を最初見たとき、2013年の夏の電力需給検証委員会の資料に何の説明もなく上記の「供給予備率の考え方」という図が入っているので、2012年と2013年で国家戦略室から経産省に取りまとめ担当が変わったこともあり、供給予備率の考え方に変更があったのかと自分は邪推してしまった。
しかし、明記されている部分はないが議事録を見る限り、2012年と同じ電力需給の考え方で良いようだ。この気温上昇による需要増として3%分というはもう関係者にとっては暗黙の了解のようなものになっているのだろうか。

総合資源エネルギー調査会総合部会電力需給検証小委員会(第3回)議事録
○江澤電力需給・流通政策室長
ここから、予備率が5%を超える会社、この5%というのは、暑い夏を想定しておりますので、大体夏が、これは猛暑を想定する分で3%ぐらいの予備率がありますので、予備率は基本的に8%を確保すればいいので、3の部分はもともと暑いことで見込んでいる部分ですので、今この現在5%を超える会社というのは、3を足すと、例えば中部電力であれば9.2%で、これが暑い分で3%上乗せになっていると12%程度の予備力がございます。

結論:経産省の資料の作り方が分かりづらいから勘違いする人がでてしまう。

追記(2013/07/11)
この記事を書いた後もtwetter上で続いたので一部引用。

前に火力発電所が壊れていくというデマについて - アナログとデジタルの狭間ででも書いたけれど、現場を知らないのに、電力が不足しているという自説を補強するために結果的に現場の努力を否定し馬鹿にする言動をするのはやめてほしいものだ。

*1:以後も含めて引用の太文字は引用者による

*2:まあ当然だが、政府も馬鹿ではないということだろう。

*3:文章でわかりづらい場合は図3-2を見てもらえればわかりやすいと思う。