捜査員 「高橋克也の捜査をしています。協力してください」
男 「はい。

私が高橋克也です」

 こんなやりとりで、17年間の逃亡生活に終止符を打ち、オウム真理教の地下鉄サリン事件の殺人容疑などで逮捕された高橋克也容疑者。15日の午前9時過ぎ、約3時間滞在していた東京・蒲田のマンガ喫茶前で逮捕されることとなったが、その直後から、同店には報道陣が殺到した。

「第三者から『2日前にその店で見た』と通報があり、同日早朝に捜査員が急行。顔を確認したところ『似ていない』との見解だったが、アルバイト歴10年の男性店員が高橋容疑者が入店時から『怪しい』と目星をつけ、わざわざネットなどでその特徴を検索。もみあげの形で確信を持ち、同容疑者が退店の手続きを済ませてトイレに入った際に捜査員に告げ、結果、それが逮捕につながった。逮捕のニュースが流れ、店内になだれ込んで来た報道陣には店長が対応したが、お手柄を立てた男性店員は決して報道陣と接触させず、そのうち、対応できずに臨時休業にして店を閉めてしまった」(現場で取材した記者)

 店長のコメントをとったメディアはまだマシなほうで、後から同店に駆けつけたメディアはそのままではいわゆる“手ぶら”の状態。

「付近に集まった住民ややじ馬は取材攻勢にさらされたが、せいぜい、同店の利用者や、同店でアルバイトしていた人間を捕まえられたぐらい」(同)。マスコミ陣はそのまま帰るわけにはいかず、たちまち同店を取り囲んでしまった。

「同店が入居しているビルのほかのテナントから『商売にならない』と苦情が殺到し、管理会社も対応に苦慮。そんな時、各メディアの怒りの火に油を注ぐ番組が放送された」(同)

 同日放送の『情報ライブ ミヤネ屋』(読売テレビ)で、なんと同店内からの生中継が放送され、スタジオにいる宮根誠司アナと店内にいる中山正敏リポーターが約30分にわたって男性店員にインタビューする映像が流れたのだ。結果的には同番組の独占スクープとなったが、出し抜かれた他メディア、とくにテレビ各局の怒りは尋常ではなかったという。

「店の扉を無理やりこじ開け、『開けてください!』と店内に向かって叫んだり、『突入だ!』と穏やかならざる剣幕の記者もいたが、動じることなく店内からのスクープ映像が放送され続けた。

放送が終わると、現場はいっそう殺気立ったが、そんな時、突然、店長が店から出てきた。すると、各メディアは店長を取り囲み、さらに蒲田駅方面へ逃げようとする店長を追跡。店長に向かって『オウムで人が死んでるんだよ!』『なんで1社だけ取材に応じたんですか?』など、お門違いのことを叫ぶ記者もいた。身の危険を感じた店長は自分の携帯で警察に通報したが、警察は出動せず、結局、メディアをまいて店に戻り、その後、顔出しNGで会見し、店員から聞いたことを洗いざらい話し、店内の撮影にも応じた。どうやら、『ミヤネ屋』の番組関係者に店長の知り合いがいて、取材に応じただけだったようだ」(現場にいた別の記者)

 警察に通報するほどだっただけに、店長はメディア・スクラムの恐怖を十分に味わった様子。しかし、各メディアはそんなにパワーが有り余っているなら、独自に高橋容疑者の逮捕までの足跡を追うなど、違う方面にエネルギーを注いだほうが健全だったような気がしてならないのだが……。