乳腺外科医わいせつ事件、術後せん妄無罪判決を受けて | 空気を読まずに生きる

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弁護士 趙 誠峰(第二東京弁護士会・Kollectアーツ法律事務所)の情報発信。

裁判員、刑事司法、ロースクールなどを事務所の意向に関係なく語る。https://kollect-arts.jp/

2019年2月20日、私も弁護人の1人であった乳腺外科医わいせつ事件について無罪判決を得ました。

 

この事件についてはさまざまなメディアが記事を書いているので、詳細はそちらにお譲りすることとします。

 

一般に読める記事で非常によくまとめられているのは江川紹子さんの記事だと思いますので、そのリンクを貼っておきます。

「乳腺外科医のわいせつ事件はあったのか?検察・弁護側の主張を整理する」

https://news.yahoo.co.jp/byline/egawashoko/20190119-00111366/

「乳腺外科医への無罪判決が意味するもの」

https://news.yahoo.co.jp/byline/egawashoko/20190220-00115538/

 

今日の判決は、私たち弁護人が裁判を通して訴えてきたことをほぼ全面的に認める判決でした。

東京地裁刑事3部(大川隆男裁判長、内山裕史裁判官、上田佳子裁判官)は、弁護側の主張を的確に把握し評価し、検察の主張を正しく排斥してくれました。

今日の判決を聞きながら、私は率直に裁判官が弁護側の主張を正確に理解し、その上で極めて丁寧に判断してくれたことに敬意を表したいと思いました。それくらい、当事者の主張を網羅的にかつ正しく把握し、それに対して判断した判決だと思いました。

 

(弁護人というのは、ある意味では自分の立場で言いたいことを言えばいいという立場ですが、裁判官はそれらを逐一とりあげ、軽重を付けながら判断をするという作業が強いられる点で、当事者よりもはるかに粘り強い作業が必要であることを再認識し、自分には到底できない職責だなということを判決を聞きながら思いました)

 

私たちは一貫して、被害申告をしたAさんは、「被害者」だと言ってきました。術後せん妄の「被害者」です。今日の判決でも、彼女の証言は、迫真性に富み、具体的であると評価されています。

私はAさんの反対尋問を担当しましたが、(一部証言を誇張しているのではないかと思われた点を除けば)彼女の証言を弾劾することはしませんでした。

むしろ、彼女は当時、せん妄下にあったという医師の診断に合致する事実を引き出すことを心がけました。それは私たちは、彼女は意図的に嘘をついているのではなく、彼女が体験した事実もまた「現実」であると私たちも思っていたからです。

今日の判決もそうでしたが、彼女の証言が「迫真的」「具体的」であるとの評価は、彼女が「嘘」を言っていないとともに、それがせん妄の影響下にあったことをも示しているものです。

 

このような私たちの理解、意図を全く理解していなかったのが検察だと思います。

検察は、この事件を典型的な「わいせつ事件」ととらえ、医学的に妥当な行為をもすべてスケベ根性で捉え、「わいせつ行為」だと主張してきました。法廷の中で、唯一検察だけが、最初から最後までこの事件を「スケベ事件」と捉え、その方向での立証に終始し、科学的な知見を尊重しない態度を貫いたと感じます。このような検察の姿勢は、実に非科学的であり、大いに問題があると感じます。

そして、このような検察(あるいは警察)の態度は、彼女の被害感情をより固着化させたのではないかと思います。

 

この事件はじつに不幸な事件です。

事件ではなく、症例と呼ぶべきです。

この症例を広くあまねく共有することが、同じ被害を生まないための方策だと思います。