最近私はレコード会社や事務所の方から、これからメジャーデビューさせようと育成している新人アーティストのLiveを見てほしいというお誘いが良くありまして、Liveハウスに通う機会が増えています。

昨今の音楽業界はあまり業績が思わしくないことから、メーカーも慎重になっているようで、いろいろな意見を聞きたいということもあるのでしょう。

そんな若いアーティストの卵たちの歌を聞いていて良く感じることがあります。

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まっすぐ歌うボーカリストが多い

確かに今の若い子達はピッチやリズム感なんかはとても良いんですね。声の響きも存在感があります。しかしなんというかこなれ過ぎているのか、歌を聞いてもグッとくるものをあまり感じないのです。

そんな歌を聞いていて私が一番気になるのは、《節回し(しゃくり)が全く出来ていない、というかやっていない》ということです。歌の入りから語尾までまっすぐ歌っているのです。

どうしてそんな不自然な歌い方をするのでしょうか?

これは最近の音楽業界が作っているCDに問題があるのでは?と思えてなりません。

実際にデビュー予備軍のボーカリストに「どうして語尾も含めてまっすぐ歌うの?」と私が訪ねると、「私が好きなアーティストがそう歌っているから」と答えました。

愛情のない歌の直しがはびこっている

最近はDAWの発達でいとも簡単に歌を直せてしまうため、音楽制作者側が音程や節回しを直し過ぎている現状があります。せっかくナチュラルな良い節が入っている歌を、むやみやたらとまっすぐ線を引くように、直してしまうのです。

Auto-Tune 7 ピッチ修正画面

上の画像は業界標準の音程修正ソフト『Auto-Tune 7』のグラフィック画面で、ピッチ修正をかけた歌の波形です。(これはAntares社のサンプル画像)

元の歌は赤い波形で、音程を修正した歌が黒い波形です。

ピッチを修正した黒い波形は、入りの節を浅く、歌中と語尾の揺れをまっすぐに直しているのが分かると思います。

これはメーカーが提供しているサンプル画像なので、まぁ、これぐらいの直しはまだいい方で、音程をぴったり合わせるがために、もっとひどくまっすぐに修正している場合が実際には多いのです。

では何故そんなことをするのか?

以前【ボーカルエディット】の記事にも書きましたが、通常皆さんが聴いているCDは、ボーカリストが何本かレコーディングした歌の中で、良い部分を選んで、それをつなげて1本の歌にしているんですね。

歌選び(ボーカルセレクト)をきちんとした歌は、ピッチ修正やタイミングを直すより、とても良い歌に仕上がります

ただ、ボーカルレコーディングは通常6~7回は歌うので、当然膨大な量の言葉を聴き分ける事になり、かなり大変な作業になります。

つまり、何時間もかけてボーカルをセレクトするより、音程やタイミングをピッチ修正ソフトで直してしまった方が、手間がかからず作業が楽なんですね。

当然、機械的に音程や節を大幅に動かしていくと、歌のニュアンスである節や揺れが消えてしまうばかりはなく、歌声がシンセサイザーのような音質になります。

みなさんもそんな機械みたいな歌声にちょっと違和感を感じたことがありませんか?

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大幅に直された歌を、正しい歌だと思い込んでしまう。

大幅に(というか乱暴に)に修正された不自然な歌が世にはびこると、それが「歌の正しい姿、良い歌だ」とリスナーが思うのは当然です。

音楽を最も吸収しやすい若い年代に、そういったまっすぐな歌を聞いて育つわけですから、若いアーティストがそれをマネるのはごく自然の流れですよね。

人は普通に歌えば節(しゃくり)が入りますし、語尾は揺れて音程も下がっていくものなのです。鍵盤楽器のように《入りも語尾もまっすぐな歌》はどう考えてもおかしいと思います。