あの頃トリビュートムービー 『SUPER 8/スーパーエイト』

どうでもいい話だが、俺は(特定の世代向け)コンピレーション・アルバムというのが嫌いである。最近でも70〜80年代の懐かしのヒット曲を無節操に寄せ集めては、「あの頃」に青春時代を送り、現在は生活に余裕もある大人達から、安易に小銭を掠め取るセコい商売が横行している。この手の商売を見るにつけ、「けっ!つまらん懐古趣味なんて糞食らえ!」と、普段から憤慨しとるわけだ(生活に余裕がない者の僻みでは決してない。決して)。
一方で、トリビュートアルバムやカバー曲なんかは好きだったりする。こちらは元々、一定の評価を得ている楽曲をに対して、影響を受けたアーティストが元曲に賞賛・尊敬を捧げつつ、オリジナルのアレンジを施す。真っ向から挑んで玉砕する者、変化球で勝負する者…。そこには只のノスタルジーではないプラスアルファがあり、アーティストの力量次第で、元曲以上の超名曲や、愛すべき迷曲が楽しめる事もある。





で、『SUPER 8/スーパーエイト』(ネタバレ満載です)




前評判の通り『未知との遭遇』や『E.T.』、『グーニーズ』、『グレムリン』等の一連のスピルバーグ監督・製作作品への敬愛。他にも『スタンド・バイ・ミー』を代表とする少年冒険映画、ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』を始めとする同年代のホラー映画への敬意も含まれている。後、直接的な影響は無いかも知れないが、同じくスピルバーグフォロアーであるジョー・ダンテ監督の、映画愛に満ち溢れた名作『マチネー 土曜の午後はキッスで始まる』に通じる雰囲気も感じられた。
と、ストーリーや映像の端々に「あの頃の映画」のテイストと深い愛情を残しながらも、善くも悪くも「只の寄せ集め映画にはしない」という監督の気概が垣間見え、「あの頃」の世代の観客への琴線に触れるノスタルジックな魅力に溢れながら、それらを知らない「現代」の観客にも楽しめる良質のトリビュート映画だ。
例えば、主人公の少年ジョーとヒロインの美少女アリスが、ひょんな事から見つめ合うシーン。これは定番の「内気な少年が、自分の得意分野に夢中になってる内に、密かに想いを寄せる女の子と目と目が通じ合って…」というボンクラ憧れ必死のシークエンスだが、監督は、これを「ゾンビ役の演技指導」というユニークな見せ方で表現する。
他にも、幼馴染みの太目の少年チャールズがアリスに対する淡い恋心を、恋敵になるジョーに告白するシーン。大概の少年映画に於いて、恋の鞘当てを演じるのは「内気な心優しい少年(主人公)」と「ちょい不良少年(ライバル)」だ。一方「太っちょ君」はコメディリリーフ、道化役の「恋愛部外者」に回される事が多い。だが、誰だって恋はする。それが高望みだったとしても。今作では、普段の映画なら「恋愛部外者」役になるチャールズに、叶わぬ恋心の苦しい胸の内を独白させる。これは全国の「モテキ無縁の野郎ども」必見の名シーンだ。俺たちの声を代弁してくれた!この告白シーンをチャンク*1に見せてやりたかったよ。
そして、彼等が遭遇する謎の生命体のフォルム。一般的に少年と異星人の遭遇・交流を描いた作品の場合、その造型は「愛嬌のある異形の怪物」や「人型の知的生命体」の姿形で描かれる事が多いが、今作では、まんま『クローバーフィールド』に出てくるクリーチャーの16分の1モデルのような、感情移入のし難い醜い怪物として描かれる。この辺りにも、今に通用するリアルさを感じる(でも、ちょっと目はつぶら)。
と、ここまでは監督の拘りの感じられる画作り、ツボを押えたストーリー展開、その上でひと捻りを加えた演出(と、半端無く可愛いエル・ファニングたん*2)に心をときめかせながら鑑賞していたのだが…




だが、一点だけ、どうしても解せない部分があったんだよ!
クライマックスのシークエンス。ジョー達が謎の生命体が潜む地下洞窟に侵入し、囚われのアリスを救出しようとする。そこで、遂に謎の生命体の姿を目の当たりにするのだが…。そこで、監督は悪趣味にも、クリーチャーが捕獲した人間をバクバク喰らってる姿を子供達に見せつける。……いやいや、ソレ映したらダメじゃね?いや、それまでも老若男女問わずで人間共を捕獲してたし、軍隊に対する破壊行為も繰り返してたし、「おそらく補食しているのであろう」と、匂わすくらいはいいと思うんですよ。一応、その生命体が人間に敵意を向けるようになった理由も説明されていたし。でも、直接的にそのシーンを見せる必要はないでしょう!そんなの見せられたら、幾らその後、主人公が謎の生命体に理解を示し、「君の気持ちは判るよ」と心を通わせても「いや、坊ちゃん。そう言いいますけど、アイツ、人間喰ってましたよ?千切れた足首ブラブラさせてましたよ?もしかして、あれクラスメイトの足首かも知んないっすよ?いいんっすか?」と、複雑な想いになってしまって、最後、謎の生命体が無事、宇宙船を完成させ故郷の星へと旅立っていっても…、俺の心のモヤモヤは晴れませんでした。
断っておくが、俺はどちらかと言うと残酷描写は大好物なタイプで、普段なら、この手の殺戮シーンは嬉々として観てるのだが、今作にそのテイストは求めてないんだよな。いや、判ってるのよ。「僕らの味方」だった頃のゴジラだってガメラだって、あんだけデカいんだから、移動中に人間共をプチプチ踏みつぶしてただろうし。でもさあ!そこは「推して知るべし」じゃないの!わざわざ惨いシーンを見せつけなくても良いんじゃないの!そこは夢を見せてよ!せめて、映画の中だけは!
だったら、あの生命体が人間に敵意を示すように至った経緯を、もっと詳細な描写で見せてくれたらなあ。孤独な異星人の感情も理解できただろうに。
と、まあ最後の最後に消化不良になってしまいましたが、それでもラストのシークエンス(親子の和解、少年の決断と成長、美しく光を放つ宇宙船)は、全てが輝きに満ちており、思わず、ウルウルしました。てか、タイトルで「アンブリン」のロゴが出てきた時点で、既にウルウルしたんだけどね。贅沢言えば、あの後に昔のワーナーロゴが出てきたら最高だったんだけどなあ。(今作はパラマウント映画です)

*1:グーニーズ』のおデブさん。スロースと仲が良い。

*2:ゾンビ史上、最大級の可愛さ