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急増する「社員発」炎上事件。その対応策と予防策

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 最近,企業の社員などの組織に属するメンバーが不用意な発言をすることで,大きな話題になるケースが目立って増えてきています.そのきっかけを与えているのはTwitter.キャズムを超えた/超えないの議論の余地はありますが,事例の増加は,利用者の裾野が広がっていることの証左でもあります.最近Twitterがきっかけで炎上した主な例を紹介します.

■ 社員発の炎上事例

(1)レストラン・サンパウ ー ウエイターの場合 
昨年12月,東京日本橋のレストラン・サンパウのウエイターがTwitterで次のような発言をしました.

 「今日勝間和代が来た。でも完全に浮いてた。軽く挙動不審だったしね。やっぱり大嫌いな有名人TOP3に入るわ。」

 勝間さんはご自身の名前が含まれるツイートをチェックされているようです.このため,ご本人に向けた@ツイートでないにも係わらず,本人の知るところとなりました.勝間さんは直ちに,クレームを込めた記事をブログに投稿,Twitterでも厳しくその発言を指弾されました.
 知名度があり,45万人を超えるフォロワーを持つ勝間さんです.瞬く間にネット上にその行動が伝播してゆきました.
 レストラン側はすぐさま支配人が勝間さんに謝罪.誠実な対応を勝間さんが評価し,ブログに謝罪を受けたことを掲載して一件落着.結果的にはレストランの知名度は上がりましたが,けして喜ばしい事件ではないでしょう.

(2)ウエスティンホテル ー レストランアルバイトの場合

 ホテル内のレストランのアルバイトがサッカー選手とグラビアイドルがホテルのレストランにやってきたことをツイートしました.スポーツ紙などにもとりあげられ,大変有名になりました.

「(サッカー選手名)と(タレント女性名)がご来店(タレント女性名)まじ顔ちっちゃくて可愛かった…今夜は2人で泊まるらしいよ お、これは…(どきどき笑)」

※ 拡散が目的ではないので,元ツイートから個人名を抽象化しました.

昔,ダイアルQサービスで,生活者がアイドルの目撃情報を報告しあう伝言ダイアルを運営していた経営者から「想像を超える量の目撃情報が集まり,大いに盛り上がり,大いに儲かった」話を聞いたことがあります.有名人のゴシップネタは何時の世も関心を集めずにはいられません.更に,この発言者が実名を公開していたため,発信した本人も大きな話題となりました.本人の氏名がgoogleのキーワードランキングで一時的に5位に入ったこともありました.また過去にも,他の有名人の訪問も複数件,暴露していたことが明らかになりました.直ぐ様,支配人が謝罪しましたが,信頼を大きく損ねました.

(3)ソニーエリクソン ー エンジニアの場合

 ソニーエリクソンの技術者と思われる人が,次のようなツイートをしました.

「任天堂はすごいと思うが(敵だから嫌いだが)、この岩田って社長は何もわかってねーなー。 ブーメラン投げ過ぎ。技術の何もわかってねーなー。」

 競合会社社長を誹謗するツイートです.これ以外にも,企業上層部の批判や開発中の端末の開発コードなども暴露しています.すでにアカウントは閉鎖されていますが,いまも2chほか至る所に「魚拓」が残されています.当人であるか否かを断定することはできませんが,実名が推測され,その人が発明者に名を連ねている特許の公開公報も明るみになっています.前出のウエスティンホテルの件も「一流ホテルなのに何やってんの?」などと,自らもブーメラン発言しています.
この件については,企業側は目立った対応はしていません.事実を認定する訳にもいかないでしょう.

(4)民主党 ー 元国会議員の場合

 民主党所属の元国会議員川上みつえ氏の不用意なツイートが話題を呼びました.

「宮崎の火山が噴火し続けている。牛や鳥を大量に殺処分して、命を粗末にしていることに宮崎の大地の神様が怒り猛っているように感じる。」

火山灰の被害者や畜産農家のかたや獣医師など口蹄疫被害の渦中の人々が嘆き,第三者もその見識に対しての疑問や怒りを次々と投稿します.泉谷しげるさんもご自身のブログで激しい憤りをぶちまけています.この件は,事後対応での不手際も炎上に拍車をかけることとなりました.川上氏のブログには現在,謝罪文が掲載されています.しかし,これは差し替えられた謝罪文で,前稿があります.差し替えられる前の謝罪文には,次のような内容が盛り込まれていました.

「今回、ネット上で、無名無数の方々から激しい罵りを受けました。
今も拡散していると思います。しっぺ返しでありながら、私も大変傷つきました。しかし私の発した言葉の方がより激しく、ナイフのように人の心を切り裂いてしまったのだと思います。 これからは日常生活で発する言葉、記す文字に今まで以上に十分配慮して参ります。 」


「自らも(バズに傷つけられた)被害者」と主張しているように受け取られかねない表現が,多くの人の不興を買い,拡散を増幅してしまいました.

■対策と準備

 上記のすべての事例とも,各人はこのような騒ぎになるとは思いもよらず,軽い気持ちでつぶやいたに過ぎないでしょう.友達と世間話をしている時に暴露話や上司の悪口を言った経験など,だれもがあるでことしょう.このノリをそのままTwitterに踏襲しているに過ぎません.
企業側では,どのような対策と準備ができるでしょうか?

【対策】 問題が起きた際のリアクティブ(事後的)な対応
 前出のレストラン・サンパウの事例では,支配人が勝間氏に謝罪を直接申し入れることで収束できました.もともとのバズ発信源が明確であったため,そこに一点集中した対処が可能でした.一方,川上氏の事例では対応した謝罪文が,炎上を広めた要因にもなりました.謝罪文は「簡潔に」「潔く(言い訳と受け取られかねない表現は避ける)」「誠実に」書くことが大切です.またコメントを書き込めなくして,意見を受け付けない姿勢も批判の的になりました.謝罪文や経緯報告をネットに掲載する際には,ネットの先の相手がどのような受取り方をするか不安にもなるでしょう.こんな場合には,世に公開する前に複数の人に目を通してもらうことをお勧めします.とりわけ積極的にソーシャルメディアを活用している人は,様々な炎上ケースを目にしているので,なかなか頼りになります.

【準備】 問題発生を抑止するプロアクティブ(予防的)な対応 
組織に所属している人の発言には,組織がもつブランドイメージやインフルエンス力が付加されていることを,自覚してもらわなければなりません.大多数の企業・組織でも入社教育などの研修機会はあるでしょう.カリキュラムに実際にソーシャルメディアで起った事例紹介などを組み入れることは,予防上大きな効果があると考えられます.しかし,ウエスティンホテル支配人の謝罪文には,「弊社では社員・アルバイトにかかわらず全ての従業員は、入社時にお客様情報の守秘義務等に関する研修を行った上、誓約書への署名をしております。」とあります.
一流ホテルです.当然しっかりとした研修が履行されていると思われます.にも係わらず上記のとおり問題が起きてしまいました.「教育」だけでは十分ではありません.他にも押さえるべきポイントがあります.「ソーシャルメディアの活用様態の把握」です.
 これまで,全くソーシャルメディアを使用していない人は,しっかり教育をすることで,炎上につながる行為に及ぶことは少ないでしょう.しかし,既に慣れ親しんでいる人は,往々にして上手に使いこなせる自負があります.新しく組織の一員になったことで「してよいこと」と「してはならないこと」の基準が変わることを理解し,実践できるか否かを採用基準として設定するべきでしょう.また,採用後も常に活用状況を把握・注意することで,予兆を察知できたり,リスクを最小化することに効果があります.ウエスティンホテルやソニー・エリクソンの例では,彼らの過去の発言内容を読んでいれば,尋常でないことは,かなり早い時期に判断できていたと思われます.
 ただし,社員の行動を逐一監視しているように捉えられる恐れもあります.オープンに,目的を伝えて運用するよう心がけましょう.米国赤十字社ではハンドブックの中で,ソーシャルメディアの統括部門が各支部のアカウントを監視していることを明記しています.個人アカウントを対象としているものではありませんが,宣言するにはよい機会です.

 スカスカおせち事件で有名になった,バードカフェ社長は3年前に自身のブログで当時食品偽装などで騒ぎを起こした「ミートホープ」や「船場吉兆」の批判記事を書いています.今となっては読者すら恥ずかしくなるような主張をしています.菅直人総理大臣は,9年前、国債がムーディーズで格下げとなった状況に,当時の総理や財務大臣を「脳天気」と切り捨てています
今の有様と矛盾する意見を掘り起こされることで,炎上を一層拡散する要因になっています.「口は災いのもと」常日頃から発言には,お互い注意しましょう.

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