ゴールデンウィークになると思い出す「人を騙すために産まれたかのようなゲーム」、その名は『キョロちゃんランド』

スタートボタンを押した瞬間に絶望を味わえるゲーム

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あれはゴールデンウィークのことだった。まだ幼い私はなんらかの理由で母に新しいゲームソフトを買ってもらえることになり(たぶんゴールデンウィーク中は出かけられなかったのでそれで遊べということなのだろう)、一緒にゲームショップへと行ったのだ。そしてひとつのゲームに目をつけた。

それが欲しいと母に伝えると、彼女は「本当にこれでいいの?」と何度も念を押した。母は今も昔もゲームには疎く、正直なところ今の私がどんな仕事をしているのかもよくわかっていない。そのくらいゲームに関しては詳しくないというのに、このときばかりはそのゲームソフトに対して疑念を抱いていたのだ。

 

それにしても子供というのは……いや、昔の私は馬鹿なものだ。自分が具体的に何が欲しいのかをわかってもいないのに、何かを目にすればそれが欲しい欲しいとねだるばかり。少なくとも、この件に関しては間違いなく母が正しかった。なぜなら私が手にしたのは、ファミリーコンピュータの『キョロちゃんランド』だったのだから。

『キョロちゃんランド』はタイトルからわかるように、森永製菓の菓子「チョコボール」のマスコットキャラクターである「キョロちゃん」が活躍する2Dアクションゲームだ(ちなみにゲームボーイ版も発売されていたようだ)。このころはキャラクターとしての人気も割とあり、「クエッ クエッ クエッ チョコボール」というCMのフレーズは聴いたことのある人も多いだろう。かつての私もそれに影響されて欲しがったのかもしれない。ゲームのパッケージはもはや持っていないが、それはチョコボールに似たデザインになっていたらしいので魅力だったのだろうか。

ゴールデンウィークになるといつも思い出す。『キョロちゃんランド』というゲームに出会ったときの衝撃を……。

『キョロちゃんランド』をはじめて遊んだときの「危険なゲーム」という感覚

ボタンを押すと一気に不穏な空気になる

『キョロちゃんランド』を起動させた瞬間はよかった。塔で足を滑らせているキョロちゃんがタイトル画面に表示され、楽しげな音楽が流れる。思ったより“ランド感”はないが、なんだかおもしろそうだ。

しかしボタンを押すと一気に不穏な空気になる。「デレデレデ~ン」という恐ろしげな効果音と共に、キョロちゃんがタワー・オブ・アイズに登ることがわかる。そのころは英語なんて読めもしなかったが、今になるとこれが本当に不思議だ。なぜキョロちゃんが、タワー・オブ・アイズなんて物騒なところに?

ゲームが始まると、本作がヤバいことが幼い私にもわかった。BGMは不穏なノイズ。チョコボールを蹴って攻撃するキョロちゃんはなんだかかわいくない(だいたい宣伝すべき商品を蹴り飛ばしていいのか?)。とりあえず右に進んでみると見えない落とし穴に落ちて即死……。「危険なゲーム」を掴んでしまったという感覚がそこにはあった。

 

新しいゲームとともに過ごす楽しいゴールデンウィークは、一瞬にして暗雲が垂れ込めることになった

「それでもきちんと遊べば楽しいはず」と思い、当時の私は幼いなりに頑張った。しかしこのゲーム、ひたすらに難しい。ただただ塔に登るゲームなのはいいにしても、敵はとにかく意地悪で初見殺しの場所ばかりなのだ。そしてジャンプ操作が難しいのでしょっちゅう足を踏み外すし、知らなければ避けることのできない落とし穴で下に落ちれば制限時間がどう考えても足りないので自死を選ぶことになる。このようにプレイヤーの精神も攻めてくるのだ。

そもそもなぜキョロちゃんはチョコボールをぶつけて敵と戦うのか? いや、だいたいなぜ目玉の敵の世界にキョロちゃんがいるのか? せめて「クエッ クエッ クエッ」と歌うべきではないのか? 新しいゲームとともに過ごす楽しいゴールデンウィークは、一瞬にして暗雲が垂れ込めることになった。

なぜ『キョロちゃんランド』はこんなことになってしまったのか

ステージクリア時はキョロちゃんが正面を向きながらタワーを崩壊させつつ下に降りてくる。かなり謎の演出であると同時に、正面姿のキョロちゃんが不気味すぎて恐ろしい。
ステージクリア時はキョロちゃんが正面を向きながらタワーを崩壊させつつ下に降りてくる。かなり謎の演出であると同時に、正面姿のキョロちゃんが不気味すぎて恐ろしい。

結論からいえば、幼い私は『キョロちゃんランド』をクリアすることができなかった。初見殺しが非常に多くて難しいのもあるが、とにかくタイトルからは考えられない重苦しい雰囲気に耐えることができなかった。新しいゲームを買ってもらい楽しく過ごせるはずだったゴールデンウィークも、これでは後頭部をハンマーで殴られたかのような気分で過ごさざるを得ない。

後々になって『キョロちゃんランド』について詳しく調べてみたところ、本作は『Castelian』という洋ゲーのグラフィックを差し替えたものだという。動画を見てみると確かにそのとおりらしく、もとは不気味なブタのようなカエルのような生命体が主人公であるため世界観にとても合っているのだ。

よそのゲームタイトルの権利を買い、主人公キャラクターのグラフィックだけを差し替えてキャラクターゲームとして販売するだなんて、あまりにも信じがたい行為だろう。ましてや当時は「洋ゲー=クソゲー」というような偏見があったため、そのガワを変えて売るのはほとんど客を騙している行為に近い。

当然ながらファミリーコンピュータの時期でも海外産の良いゲームはあるわけだが、ローカライズ技術もまだまだ未熟だっただろうし、この時期となれば玉石混交なのは仕方なく、なかにはこういうひどい商売をするメーカーもあったのだ。本作を発売したのはヒロという会社なのだが、あとで森永製菓に怒られたりしなかったのだろうか。

あらためて『キョロちゃんランド』をプレイしてみて

多くのプレイヤーが詰まったであろう場面。
多くのプレイヤーが詰まったであろう場面。

せっかく押入れの奥にあったこのゲームを引っ張り出してきたのだ。幼いころはクリアできなかったが、今になったらなんとかなるだろう。しかしそんな私の考えは甘いことを思い知らされた。

本作における最大の問題は、4面となるスリップリー・スライドに存在する。このステージ、ふつうにプレイしているとどう考えてもゴールにたどり着けないのだ。ルートはひとつしかないはずなのに、必ず行き止まりに到着する。いったいどうしたらクリアできるのか。答えはとある場所で特定のコマンドを入力すると隠しエレベーターが出るというものであった。

外へ行ってアリを潰したほうがまだ楽しい

おそらく幼い私はここで詰まったのだろう。ここまでにコマンド入力で進むという要素は一切なかったし、だいたい謎解きも急に思いついたかのようにここでいきなり現れるのである。アクションとして難易度が高いことはパスワードコンティニューがあることでなんとかなっているが、この理不尽すぎる謎をいきなり出してくるあたりはどうしても看過できないだろう。もはやキョロちゃんに対するネガティブキャンペーンともいえるゲームの作りである。

ちなみに塔をひとつクリアするとボーナスステージに突入できるのだが、こちらのほうがまだ“ランド感”がある。もっとも内容はチョコボールを追いかけてひたすらに集める単調なものなので、外へ行ってアリを潰したほうがまだ楽しいのだが。

ボーナスステージ。キョロちゃんはダメージを受けた時にもかなり奇妙な姿になる。
ボーナスステージ。キョロちゃんはダメージを受けたときにもかなり奇妙な姿になる。

初夏の季節というものは、『キョロちゃんランド』を嫌でも思い出す時期である。あの苦い思い出はいつまで経っても消えないが、しかしこの作品のおかげでビデオゲームという文化が確実に成長しているということもわかるのだ。

今ではわざわざこのレベルのゲームを海外から持ってくる国内パブリッシャーもまずないだろうし、キャラクター系ゲームという視点から見ても全般的に品質が上がっている。洋ゲーという大雑把すぎる区切りとして見てもレベルが非常に上がっていて、考えてみれば子供にも人気の『マインクラフト』だってそのひとつだろう。かつて幼かった私は『キョロちゃんランド』を遊び、今の子供は『マインクラフト』を遊ぶ。時代の差とはかくも恐ろしいものよ。

私にとってゴールデンウィークは、今のよさを噛みしめる期間なのだ。『キョロちゃんランド』のようなゲームを買ってしまい苦汁を味わう人が減っているということは、間違いなくよいことなのだと。

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