国が公表しなかったホットスポットを明らかにしたNHK番組が反響を呼んだ。その番組の主役、科学者・木村真三氏は、今もフクシマ各地を精力的に飛び回り、放射能汚染の実態を調査し続けている。
本誌記者:阿部崇
子供には食べさせられない
6月18日の夜、福島県いわき市北部の山あいの町・川前町の志田名集会所に、住民がぞくぞくと詰めかけてきた。一人の若い科学者によるこの地の放射能汚染調査の結果を聞くためだ。
科学者の名を木村真三(43歳)という。北海道大学医学部の非常勤講師の木村氏は、おそらく今、最も多忙な放射線の専門家だ。福島第一原発の事故以来、放射能汚染の実態調査のためにたびたび福島県内を訪れ、車で走破した距離はおよそ5000kmにも及ぶ。事故後の平均睡眠時間は4時間足らずだという。
その木村氏が、最近集中的に調査を行っているのがいわき市だ。とりわけ、ここ志田名地区と荻地区は、地元の人々の手によって放射線量が高いことが突き止められていたが、報告を受けても行政は一向に動かなかった。そんな苛立ちを抱えていた住民の要請に応える形で、木村氏が詳細な調査を買ってでたのである。
集会所で木村氏の口から発せられたのは、地元の人々にとってショッキングな言葉だった。
「この地域の中には、チェルノブイリ事故の際に避難(特別規制)対象地域と設定された、汚染度が最も高いゾーンに匹敵する場所もありました」
チェルノブイリの避難(特別規制)対象地域の基準は、1480キロベクレル/平方メートル以上だった。この地区のある土地では、それをわずかだが上回る数値が計測されていたのだ。
沈黙ののち、住民からは質問が相次いだ。
「このままにしておいたら、田畑に作付け可能になるまでどのくらいの年月を要するんですか?」
「・・・ものすごくかかると思います。セシウム137の半減期は、30年ですから」
厳しい現実を突きつけられて聴衆の間からはざわめきと、あきらめ混じりの乾いた笑いが漏れる。
別の男性が質問した。
「作付けはどの程度ならできると思いますか?」
「若い人に食べさせないのなら、そこで作付けした作物は食べてもいいと思う。人体影響が出るのは20~30年後ですから、50~60歳以上の方々に何か影響が出たとしても、それはお年を召されたら身体に出てくる障害とほとんどかぶってしまう程度です。ただし、もちろん小さいお子さんには食べさせてはなりません」
質問した男性が聴衆に向かって声をかけた。
「みなさん、先生の言われていること分かりましたか?『ここには30年間は作物を作ってはダメ、作ってもいいけれどそれは自分の年齢を考えて食べてくれ』ということですよ。それが現実であるならば、ここにはわれわれの子どもたちは後継者として住めないということ。深刻な問題です」
重苦しい雰囲気が集会所に満ちていく。