ATMでお金をおろそうとしたら「暗証番号が違います」と言われた。あれ、うっかり押し間違えた気がする。じゃあこれだ。「暗証番号が違います」。
一度に3回間違えるとよくないことが起こりそうな気がする。このカードでお金をおろすのはいったんあきらめた。
暗証番号に限らず、なにかを度忘れしたときは思い出そうとあせるほど深みにはまっていく。忘れたという事実をいったん忘れてしまえば、次は難なくするりと出てくるものだ。忘れよう忘れよう。
次の日、無の境地でATMの前に立った。そうだ暗証番号はこれだ。こうなるともう迷うことはなく、正しいかどうか不安にもならない。果たしてちゃんとお金が出てきた。
それにしても最初はどうして暗証番号を度忘れしてしまったのか。考えたくないけれど老化現象か。ボケたらこうなるのか。
わかった。ATMの操作がちょっと変わって、「確認」ボタンを余分に押すようになっていたんだ。
カードを入れて暗証番号を押し金額を指定して「確認」。このカードを使い始めてはや×年、一連の操作が体にしみついている。その操作が変更されて流れが狂った。暗証番号を入れるタイミングで画面表示を読み「確認」ボタンを押すことになったから、いつもの操作でなくなっていつもの動きが出なくなったのだろう。ちょうど、自転車の乗り方を説明しようとしてうまく乗れなくなってしまうような状態に陥ったのだった。
一度度忘れするとしっかり覚えるようになる。ATMの操作の流れが変わったことも意識できるようになったから、多分もう間違えることはないだろう。次に間違えるのは老化が進んだときかもしれない。