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2011/1/21 10:00 · 技術解説

セルラーシステム、と言う言葉は日本ではあまりなじみがありませんが、海外では携帯電話そのもののことを「セルラー」と言うくらい、割と一般にも知られた言葉。今回はそのセルラーシステムについてのお話。

基本的には「携帯電話」と言ったときとほぼ同義と思ってもらっても良いのですが、しかし、無線システムを設計するとき「セルラー」か「非セルラー」かで、その思想がまるっきり違うんですよね。と言うことで今回は技術そのものと言うよりも技術思想についてのお話が中心になってしまうわけですが。

まず、電波を使った通信システムを作る、と考えるとき。その場合、電波の届く範囲がサービス提供エリアとなる、と言うのが基本ですが、では、どうやって電波を届かせるか?と言うのが最初の課題になります。

たとえば、富士山のてっぺんに超強力な送信機を置いて日本中どこでも受信ができるようにすることで日本全土をカバーした通信システムです、と言い張る、これは荒唐無稽ですが、確かに「アリ」な方法です。むしろ、電波を使ったシステムとしては当たり前のアプローチで、全ての電波通信システムの基本と思ったほうが良いです。

そしてこんな考え方は荒唐無稽とばかりも言えなくて、実はこの考え方のシステムは既に存在しますし、一線で活躍しています。たとえば、ドコモのN-Star。衛星から日本全土に電波を打ち下ろし、基本的にその唯一の電波源からの電波の届く範囲=提供エリア、です。

しかし、そうではないアプローチもあります。衛星とか富士山のてっぺんなんてことを言い始めたらいくらなんでもハードルが高いですから、たとえば、東京に一つ、名古屋に一つ、大阪に一つ、と言うように送信場所を設け、それらがあたかも一つのエリアであるかのように見せると言うアプローチもあります。大きなエリアを細かな部分に分割して全体を構成する、多細胞生物がそれぞれは独立した細胞でありながら集合として一個体を構成するかのようなアプローチであることから、細胞、つまり「セル」になぞらえてセルラーシステムと言うようになりました。

重要なのは、「あたかも一つのエリアであるかのように見せる」ことです。ある「セル」と隣の「セル」が端末や利用者から明らかに違って見えるような場合は、いくら電波の届く範囲が連続していてもそれはセルラーシステムではありません。もちろん、その境目を踏み越えた場合に何らかのギャップを利用者が経験する場合も、セルラーシステムとしては低級と言うことになります。

このようなものなので、セルラーと非セルラーはきれいに二分化されるようなものではなく、多くの場合は連続的にその中間にさまざまなシステムがカテゴライズされるようなもの、と考えたほうが良いでしょう。

たとえば、古いアナログ携帯電話(の多く)の場合、一つあるいは少数の「制御チャネル周波数」があらかじめ決まっていて、端末はその制御チャネルをまず見に行きます。その制御チャネルにネットワークからの通知シグナルが見つかればそこを「エリア」とみなします。これは隣のセルに行っても同じです。つまりどのセルにいても「同じ周波数」に「同じ通知シグナル」が見つかるため、端末からはあたかも「一つのエリア」のように見えるわけです。このようにしてエリアの連続性を見せかけています。

しかし、たとえば何らかの理由で隣のセルと異なる制御チャネル周波数を使わなければならないとします。そうすると、隣のセルに移動した場合、端末は同じ周波数で同じネットワークの信号を発見できないため、一旦無線機を切り替えて別の周波数をサーチする必要が出てきます。端末からはネットワークは一旦切断されたように見えてしまいますし、利用者視点でもそのサーチの間は着信を取りこぼすことになるため、連続性は失われてしまいます。こういう形で構成されたネットワークは「セルラー性がやや低い」と言うことになります。

逆にWCDMAなどの新しい方式では、と言うと、強力なデジタル処理によって、複数の基地局からの信号を同時に復調するようなことができてしまいます。WCDMAでは「コード領域」で隣との間の分離をしていて、つまり「コード間ギャップ」が生じているわけですが、これを端末が同時受信でごまかすために体感的なギャップはほぼ打ち消されているわけです。

LTEは、と言うと、これは非常にややこしい方式になるのですが、まずは、時間方向と直交周波数方向で共通信号が分散されていて、しかし直交周波数上の信号を一つの無線機で受信できるため隣のセルへ移った場合のギャップが小さく抑えられます。また加えて、既知の信号があらかじめ与えられていて、それがどのように見えているか、と言う情報から電波の「経路情報」を逆算し、その経路以外の経路を通った信号を「見なかったことにする」と言うことで隣の基地局の信号を分離しています。と言うことは、「見なかったことにする」相手を適宜変更することで、簡単に見えるセルを変えることができることになり、これによってもギャップは最小化されています。

では逆の極端、無線LANはどうでしょうか。無線LANは、一つのアクセスポイントを「一つのネットワーク」と考えます。別のアクセスポイントに移動した場合は、原則として「前のネットワークから退出」「新しいネットワークに参加」と言うことを行うわけです。上位ネットワークサービスで利用者からは比較的ギャップが小さく見えるようにしている場合もありますが、それはあくまでローミング、たとえばドコモを出てAT&Tに入ったけど同じように通話ができますよ、と言うのと同程度の見せ掛けであり、無線方式上は同一であるように見せかける仕組みはありません。

基本的には無線LANは異なるチャネルを使うことで隣と区別するため、アクセスポイントを切り替えるたびに大きなギャップがありますし、同じチャネルを使った場合には区別することができなくなるため干渉となって通信不可能となります。ポイントは「ある意味で区別はできるけど別のあるものは同一であること」で、つまり「区別と同一性の同居」がセルラーシステムには必須ということです。たとえば無線上の何らかのIDに対して、セルラーでは基地局が異なることを通知しつつ同じネットワークに所属していますよ、と通知する別の識別方法があるのに対して、無線LANではそれがありません。高度に「非セルラー」であると言えます。

困ったことに、WiMAXと言う方式は、セルラーか非セルラーかちょうど分からないくらいの位置にいます。一つは、もともとWiFiの拡張からスタートしたため、セルの間の移動が後付で性能が低いこと。もう一つは、セルラーで重要である「共通情報の分散化」がお粗末なことです。

先ほど書いた「区別と同一性の同居」、それは、「なるべく同じ属性のチャネルで」なおかつ「セル間でキチンと分離(分散)できていること」が重要です。WCDMAではセル拡散コードでの分散、LTEではOFDMA空間での拡散+経路分離で実現しています。またアナログ・PHS・GSMなど古い方式では周波数方向や時間方向で広域に分散しています。

しかしWiMAXでは、原則それがありません。お互いに干渉する共通情報が常に各フレームに含まれています。加えてTDDであるため常にフレームが同期しており、このため、同じ周波数上での時間分散はほぼ不可能です。周波数方向についても、原則全周波数領域にべったりと共通情報が載っているので常に干渉となり分散化できていません。「FFR」と言う仕組みで周波数領域での分散化の手法が後から追加されましたが、分散できる単位がMHz単位で分散する候補が非常に少ないためぶつかりやすく、効果が低くなっています。

と言うように、セルラーかどうかと言うことを考えると、まず「セル間のギャップが小さくて全エリアが単一エリアに見えること」を実現する必要があり、それを実現するためには「区別と同一性が同居」と言う条件を満たした共通チャネルが必要、と言うことになります。個人的には、ハンドオーバのスムーズ性よりも、この特性のほうがセルラーとして重要なのではないかなぁ、と考えています。また、この特性が強いほど、セルラーとして柔軟性の高いエリア設計ができます。もはや主流ではないのですが、PHSと言うシステムはこの特性が際立って強いシステムで、このためにオーバーラップしまくりの無節操なマイクロセル&多層化が実現できていました。

と言うことで、今回は、セルラーシステムとはなんだろう、と言うことを考えてみました。でわ~。

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2011/1/21 10:00 · 技術解説 · 1 comment
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1 Comment to “セルラーシステム”

  1. […] This post was mentioned on Twitter by 山田志門(Shimon Yamada), masakerry 2nd. masakerry 2nd said: システム設計論の考え方の一つとしてブックマーク☆ http://htn.to/k3BXGa […]

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