Facebookの勝敗の分かれ目

Facebookが来年あたり上場する予定として、その財務が一部公開されたらしい。9ヶ月の数字なので、2010年年間にすると、ざっと売上$2bil.、純利益$500mil.といったあたりになりそう。

Facebook could go public by April 2012 - SFGate

最近騒ぎになったゴールドマン・サックスによる私募で$50bil.の値がついたのは、「やっぱり高い、バブルだ」という友人と、ちょっと議論になった。もちろん、現時点での財務から見れば当然高いわけで、問題はこの先どこまで成長するか、どこまで儲かるようになるか、どこまで地位は安泰か、といった点になる。

当初からSNSは流行り廃りが激しく*1、FBもそのうち別に新しいのが出てきて廃れる・・と言われてはや3年。例えば第一次ネットバブル時に死ぬほどeコマースのサイトが出てきて、激戦の末アマゾンが勝ち残って今も健在、というのと同じで、淘汰が一巡してFBが勝ち残り、ネット企業で重要な「独り勝ち」ポジションを作るところまでは来た、と思っている。これが第一段階。

リアルの「地上げ」とネットの「独り勝ち」は少々違う。ネットで「独り勝ち」ポジションを得ると、「ネットワーク効果」のおかげで、そのサービスを使うと他のサービスよりもユーザーの利便性が高く、ある程度までいくと強い者がますます強くなる。FBでいえば、つながれる人の数が多い、FBマッシュアップで使えるゲームなどの外部サービスが多い、などがある。

Yahooの失敗は、初期にそのポジションに到達したのに、「ネットワーク効果」を発揮できる仕組みを作れず、旧来のメディア企業と同じビジネスモデルを追いかけてしまったこと。Googleは「コメのメシ」である検索技術や、ビジネスモデルである「検索広告のオークションシステム」にうまくネットワーク効果を組み込んで、自律的に拡大できる仕組みを作った。ネットオークションは「ネットワーク効果」が強力で、一つの場にたくさんのモノが売りに出ているほうが効果が高く、より多くのユーザーを集めることができるため、トップしか生き残れない構造になっており、アメリカではEbay、日本ではヤフオクがその位置にいる。Googleは、検索広告にその効果を組み込むことができたわけだ。検索技術についても、ユーザーがGoogleにインプットするデータが多ければ多いほど、正確な検索結果が返され、正確な検索ができればみんなもっと使うので、自律的に拡大する仕組みができている。

なので、FBの場合も、次のステップとして、ネットワーク効果を内在したビジネスモデルを確立できるか、というところがポイントとなる。


単に広告を売ってるだけだったら、いろいろな点で不安がある。クローズド+細分化の傾向があり、また(私の造語でいえば)ソーシャルグラフの「第一階層」*2向けサービスであるために、広告の扱いはかなり微妙という性格をもともと持っている。私は、以前にも書いた「コミュニケーション三分割モデル」における「新しい中間領域」(「赤」の部分)の代表例がFBだと思っているので、FBのビジネスモデルも「メディア」としての広告モデルだけでなく、「通信」的な利便性をマネタイズするようになっていくのでは、と考えている。

日本で一時騒ぎになったMixiの「メールアドレス検索」は、本来「第二階層」向けのSNSで、下の「紫」の性格が強いものに、上の「緑」を当てはめようとしたので無理が出た結果。逆に「実名」「リアル友人関係」をコアとした第一階層のFBは「紫」より「緑」の性格が強いので、ソーシャル広告「Beacon」がだいぶ以前に炎上するなど、広告に応用しづらい。なので、FBのビジネスモデルは、現在もすでにある広告に、ゲームなどのアプリやバーチャルグッズ販売と「通信」要素を加えたハイブリッドモデルが適切なのだろう。

通信屋の私としては、スマートフォン起爆剤に、「人と人との連絡」のインフラとしてFBが深く静かに浸透しているので、通信料金からFBにお金が還流する仕組みができてきたら面白いと思っている。大多数の人がFBを使ってより多くのデータを入れているほど、通信が便利になり、便利になるからもっとFBにデータが集まる、という仕組みである。それができるかどうかが勝負の分かれ目、ではないかと思っている。通信はもともと「ネットワーク効果」の高いサービスとして知られている。

この資料は2008年に作ったものだし、ここで引用している私の過去記事はだいたい2009年のもので、だいぶ前から言っている話ではある。ゆっくりこの方向に進行している感じはするのだが、さて果たしてどこまで行くものか。

<参考記事>
Facebookの“クラウド通信”,携帯通話の停滞の打破を期待 | 日経 xTECH(クロステック)

*1:Friendstar→MySpace→FBの変遷がよく引き合いに出される。参考→フェースブックに人生を翻弄される米国人 中高年インテリがなぜ依存症に?(1/4) | JBpress(日本ビジネスプレス)

*2:過去のレポートにおいて、ソーシャルグラフの「広がり」でなく「深さ」をもとに上下二つの階層に分け、「実名・リアル」を第一階層、「匿名・バーチャル」を第二階層のSNSと呼ぶことにした。こちらの過去記事参照→調査・出版情報 | KDDI総合研究所