高校野球注目の早稲田実業・清宮幸太郎選手がプロ入りを決断した。9月22日に学校で行われた記者会見には、50社130人の報道陣が詰めかけたという。
それだけのマスコミ関係者を前にしても、この高校生は緊張する様子もなく、堂々と自らの目標を語った。
「やはり、早実の先輩である王貞治さんのように、いずれは868本を目指せるような選手になりたい。王さんの記録は目標となる数字なのかなと思います」
王さんについては、
「早稲田の先輩ですし、むしろ目指さなきゃいけない使命感がある。やるからには王さんのような人間、野球人になりたい」
そして、プロ入り前からメジャーリーグへの思いを口にした。
「夢はメジャーで活躍すること。そこは変わっていません」
清宮選手の進路については、不肖青島もこの夏から新聞、雑誌、テレビなどの取材を数回受けた。
尋ねられたことは、
- 現実的な選択肢には何があるのか?
- 彼はどんな道を選ぶのか?
これに対して、以下の①~⑤までのメリットとデメリットを挙げて、それぞれの可能性について言及した。
- ①真っすぐプロ野球に入る
- ②早稲田大学に進学する
- ③早稲田大学の通信制を受講しながらプロ野球に挑む
- ④アメリカの大学に進学して野球をする
- ⑤いきなりメジャーリーグに挑戦する
先輩の斉藤佑樹投手も「大正解」とエール
結論から言えば、「彼が選ぶのは、プロ野球ではないか…」あるいは「真っすぐプロ野球に行くべきだろう」というようなコメントをしてきた。
予想が当たったなどと大きな顔をするつもりは毛頭ない。もとより、これだけの可能性を秘めた選手の進路に「どうすべき!」などと第三者が口を出すのもおこがましいことで、どんな道であれ彼が決めることがベストな選択になるだろうと思っていた。
そして彼の出した結論が高校からの「プロ入り」だった。
人生の岐路に立ってする決断が、正しいかどうかは誰にも分からない。しかし、私はこれが「正解」だと思った。
というのは、もうすでに多くの野球ファンが彼のプロ野球での活躍を楽しみにしているし、迎えるプロ野球側も最大限の評価で彼のプロ入りを待っている。何事にも、順な流れというものがあるだろう。それに逆らって自らの道を行くのも人生だが、その大きな波に乗っていくのも王道な選択と言えるだろう。
私はこう思っていた。もし清宮選手が高校3年生の今の時点で、野球以外の人生にも興味があるのなら大学に進むべきだと思った。そこにはいろいろな選択肢があるし、プロ入りを考えるにせよ時間的な猶予を確保できる。そうした「プロ入りへの迷い」のようなものが少しでもあるのなら、大学に進むほうが良いだろうと考えていた。
しかし、彼に迷いはなかった。
「大学へ行くにしろ、自分の夢はプロ野球選手。野球に集中できる環境ということでプロを選んだ」
清宮選手の決断に早実の先輩・斉藤佑樹投手(日本ハム)がコメントを寄せているが、斉藤投手の見解が正論だと思った。
「彼(清宮)は、1年生の時から3年間結果を残してきた選手。僕は3年の夏だけ。境遇が違います。彼の判断は大正解だと思う。早実のOB として、頑張ってほしい」
当時の斉藤投手には、まだ迷いがあった。だから大学へ。
これだけの成績を残している清宮なら迷うことなくプロに行くべきだ…というのが斉藤先輩からのアドバイスでありエールなのだ。
自らの意志で決めた「プロ入り」
こうした清宮選手の進路をめぐる報道を苦々しく思っている人も結構いるのかもしれない。高校生の一野球選手が、どんな選択をしようがいいじゃないか。まだプロ野球でホームランの一本も、ヒットの一本も打っていない前から騒ぎ過ぎだ…という意見にも筋がある。私にもどこかにその感覚はある。
ただ、客観的に見てこれだけ注目を集めてプロ野球に入れる選手は滅多にいない。入団前から清宮選手には人気者になるためのアドバンテージがあるのだ。もはや日本中で知らない人はいない。であるならば、これを生かす選択が「正解」といえるだろう。
そして最も大事なことは、「プロ入り」という決断を清宮本人が考えて、自らの意思で決めたことだ。父親の清宮克幸氏(ラグビートップリーグ・ヤマハ発動機監督)もそこを評価している。
「本人の気持ちが一番大事。何をしたい、こういうことがしたいということに関しては、本人の意思を尊重することを教育方針としてやってきました」
私たちもさまざまな場面で、いろいろな決断に迫られる。正解は誰にも分からない。ただ、自分で決めたことには「覚悟と責任」が生まれる。その思いを抱ける道が、多くの場合「正解」となるのだろう。
臆することなく大きな夢を語った清宮幸太郎選手。その会見は清々しかった。
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