たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

アネキがかわいいのは、色々な人間関係があるからさ「鬼灯さん家のアネキ」2巻

鬼灯さん家のアネキは、もうキュートすぎるいたずら姉さんに翻弄される様が心地すぎる作品です。前回も書きましたが、姉好き+M属性の人ならまじバイブル。
基本エロラブコメ。ゲラゲラ笑いながらビクンビクンするといい作品だと思います。
 
が。
この作品ものすごく鋭い。
内容は確かに「アネキはいたずらものでかわいい、すげえかわいい! ちょっとエロっぽい!」の超一点突破な作品なんですよ。
しかしそこに必ず理由を見出している作品でもあります。
 
なぜアネキはかわいいのか?
なぜアネキはこんなにいらずらっ子なのか?
なぜアネキはエロいたずらを仕掛けているのに手を出さないのか?
 
エロラブコメと見せかけて何気にシリアスラブな「鬼灯さん家のアネキ」が熱い。

一巻で一番印象的だったシーン。
ここでは何も語られません。語らないのです。
だから「ゲラゲラ笑いながら、アネキに萌える」という読み方が極めて正しいと思うんですが、たくさんのことを想像し始めると泣けて泣けてならない。
この作品はシリアスなラブコメであると同時に、人間関係の細いロープをゆっくり渡る、すごく繊細な物語だと思います。
笑えるのも、かわいいのも、全部理由がある。
 

●語らないこと●

大前提として、このマンガはエロラブコメです。ギャグマンガです。
それはもう一番の前提。面白おかしくてちょっとえっち、これは一番のウリです。
かわいくてちっちゃくて、だけどわがまま放題で弟いじめまくり!そんな姉最高じゃん!

これが基本スタイル。
一巻二巻ともに、この「姉がとことん弟をいじくり倒す」「それに興奮するシスコン弟」という構図が基準値です。一切ぶれません。常時これです。なんてうらやましい。
これだけでもう、姉好きなら買う価値のあるバイブルなんですが、この本のすごいところは最初は理由を語らないところにあります。
 
実はこのマンガ、ものっすごい細かい設定がいっぱいあります。
多分今も明らかになっていないだけで、おそらくアネキ、弟、血縁の姉、そして水野さんあたりは深い設定がありそうです。
が、そういうの全然見せないんですよ。とにかく何も考えずに笑えるんです。
ところが、物語のパターン(上みたいな弟いじりですね)が重なっていくに連れて色々な感情や、裏の設定がほじくりかえされてきます。
 
そもそも、なぜ非血縁のアネキと弟が同居しているのか?
なぜ血縁の姉は別に暮らしているのか?
なぜアネキに弟はベタぼれなのか?
なぜアネキはえっちないたずらばっかりするのか?
なぜ絶対に一線を超えないのか?
 
なかなか明かしてくれません。二巻のラストの時点でもわかりません。
わからないんですけど、あるんですよ、理由。絶対に。
ほのめかしては寸止め。くだらないシモネタで笑わせておいたところに不意打ちのようにフックが入ってくる。
この構成力と、「見せないことで魅せる力」半端じゃない。
 
ちなみに、現時点で親の姿は見えていませんが、作中の断片をたどって考えるに。

・吾郎の親は血縁姉側の方に片方いる。そちらは鬼灯家ではない。
・「アネキ側の祖母」が出てきているので、二人の親が結婚して同居することになった可能性大。
・吾郎はアネキ側の家に来ている。つまり鬼灯家の親は普段家にいる。
・血縁姉は吾郎の親元から離れて一人暮らし中。つまり吾郎の親の家庭には今子どもがいない状態。
・今は親(どちらのかは不明)と吾郎は仲は良い。頻繁に家族で過ごす時間があるらしい。

ここまでは判明。あとは不明です。
 

●水野さんという大切な視点●

二巻でクローズアップされてきたのは、水野さんの存在です。

このクールビューティー黒髪ロングぱっつん少女です。
いやあ、ガンガンせめて来るアネキもいいけど、こういうガチっと拒絶するATフィールド感も……ゾクゾクするね……。
水野さんは、主人公の吾郎と最も近い、アネキ以外の女の子です。
もっとも吾郎はアネキ一筋な部分もあるドシスコンなので、最初のうちはテンションの低い同士でゆっくり話す程度の仲でしたが、とあることがきっかけでちょっとずつ仲良くなります。
仲良くなったと言っても見ての通り、吾郎が一方的に惚れているだけというのが面白いところ。
 
この作品、ハーレムマンガじゃないです。
男は吾郎しかいませんが、吾郎は全く全然ちっともモテモテではないです。(痴女一名除く)
吾郎が色々な女の子に興味をもって、振り回される作品、という非常に珍しいパターンなんですよね。しかもへたれだから、女の子たちに負けっぱなしという。
ある意味「ぎゃー、女の子こえー、まじこえー!」という、女の子に囲まれた感覚を味わえます。怖いけどかんじちゃう人は訓練されたMです。イエス、サー!

モテない男の子の妄想をよく描いておられる……吾郎が節操無くアネキも水野さんも好きになっているのがいいですね。決して立派な主人公じゃないんです。
そして相手にもしない水野さん。ナイスクールビューティー。
 
水野さんの存在は二巻において非常にでかいです。
吾郎くんのクラスメイトである水野さんの視点は、本当に吾郎くんに惚れていないので、すごい冷静なんです。
吾郎が凄まじいロリコンであることも、それでいて裏表のないいい奴であることも、自分にたいして変な好意を性欲と混同しつついだいていることも。
だから冷淡に接します。極めて立ち位置は鬼灯家と近いんですが、距離をわざと置いているんですよね。この水野さん視点があることで、クローズドな姉弟ブコメが瓶詰め地獄にならずに済んでいます。
同時に、「いたぶる」「いたぶられる」の関係に針を刺すのも水野さんの存在です。

この作品は「吾郎視点」「アネキ視点」「水野さん視点」の三つがメインにで進んでいきます。まあ時々京ちゃん視点なんかもエッセンスとして入りますが、それはおまけ程度。
この2つのコマだけで、その三つが盛り込まれているんです。
冷静に距離をとりつつ、色々考えながら接している水野さん、下心もありつつ、人間関係の輪が広がった内気な吾郎くん、それを見てモヤモヤとした不思議な感情にかられるアネキ。
一番最初にあげた、一巻のコマとここのつながりも大きいですね。
水野さんの存在によってアネキの心は揺れ動き始めます。嫉妬じゃないんです。むしろアネキは水野さんが好きです。
水野さんもまた、アネキと吾郎くんの気持ちをしっかり見て動いています。自分の悩みももちろんかかえつつ。
この作品の隠された設定を解く鍵になるのは、水野さん視点ではないかと踏んでいます。水野さん視点になるように全編を読み直すと、面白い部分がボロボロ出てきます。
 

●みんなの世界、二人の世界●

水野さんや京ちゃん、その他たくさんのおかしな女性達によって世界がクローズドにならず、人間関係が徐々に広がっていくのが面白いこの作品。
人付き合いが下手くそな吾郎くんから見た「女の子たちの世界」そのものを具現化したような構造になっています。その中で一際輝くアネキと水野さん。でも他にも沢山の人がいて、様々な関係をつくって、感情とか入り組んで複雑に世界はできている。それが1巻の最初の「姉弟」二人きりの世界から開けていく様子は、まさに吾郎くんの視野が広がっていることに他なりません。
 
しかし、姉弟二人の世界の魅力は貫き通されています。

肩車してたアネキが、覗き込んでくるシーン。
非常に象徴的です。
今、吾郎の顔の前にはアネキしかいない。つまり、世界のすべてはアネキなんです。
ところが彼女が顔を避けるとそこには満天の星空が広がっています。
 
アネキかわいいでしょう?
二人の世界ものすごく、お互い楽しいんですよ。
でも、顔をあげたとき、そこには無限の人間関係の世界があるんです。
さあ、どちらが幸せなんだろう?
 
2巻では、たくさんの伏せられた設定の一部が見え隠れしますが、特に最後の章で重大なことが判明します。

ネタバレを避けるためあまり書きませんが、この部分を読んでから1巻から読み直すと、エロいシーンなのにもう泣けてしまうんですよ。
おっぱいぽろりと見せているのに! 泣けちゃうんだよ!
 
これまで過ごしてきた時間、積み重なった二人の記憶。
今突然回り始めた他の人達との歯車。
水野さんの存在によって見えてくる現実。
「あんたらキモいよ」と言う(言ってくれる?)血縁の姉の存在。
 
今はすごく幸せです、アネキも、吾郎くんも。
でも、これからどうなるのか分からない、このまま二人の関係が続くとは思えない。
このループしない、徐々に全員が成長してじぶんの気持ちを手探りで確認していく様が、じわじわくるんです。
吾郎くんも、たくさんの女の子に囲まれて色々錯覚し、やべえ好きかも!とか、男の子の性欲発動だったりとかもするんですが、今後どうなるかわからないんです。アネキと今みたいにずっと幸せでいられたらいいなと願う彼の姿は真摯でもあります。
アネキはもうちょっと冷静です。吾郎をいじくりまわしながらも、吾郎が姉という最も近い異性を意識しているだけで、これから別のルートをたどって離れていく可能性も分かっているんです。
 
アタシの気持ちは、どこにあるんだろう?

これはなんの「どきっ」なのかは読んで確かめてください。
アネキはふざけっぱなしですが、だからこそ本心が見える時、心を深く揺り動かします。
 
ものすごく幸せで、エロ楽しくて、一線を超えない安心感があって。
ずーっとこのまま続けばいいのに。でも続かない。
変わりゆく未来を予感させる中で、隠された設定がどんどん明らかになっていく構成が本当に巧みなこの作品。ゲラゲラ笑い、「アネキかわいいいいいい!」と叫びつつ、泣きながら二人の関係とアネキの笑顔を見つめられるとんでもないマンガです。
 

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明るい話で締めよう!
エロくて最高なシーンを探して、京ちゃんと隠れるシーンをえらぼうと思ったのですが、あちらはネタバレになるのでこちらで。

吾郎くんの布団の中でオナニーをしてる痴女美咲さん。
布団ごぐしゃぐしゃに濡らすほどだったそうです。WAO。
他の子にはドン引きされまくりな吾郎くんですが、なぜか彼女にだけはめちゃモテ。しかしあんまりこの子にモテても嬉しくないというか怖いのは仕様です。
いやあ、潔いエロ担当ですね!
 
あとは個人的に、血縁姉のセックス後の部屋の換気をするときに赤面するアネキがかわいかったです。
やっぱりアネキ最高ですということで。
おしまい。
 

一巻で見え隠れしていたそれぞれの悩みが形になりながら、ハイテンションは保たれたままという傑作です。