60歳以上は信用するな! 夏野 剛が若者に伝えたい、ワークスタイルの新フォーム -New Order【4】

【New Order ポスト・ジョブズ時代の新ルール】新たな価値創造に臨む各界のイノヴェイター10人が、時代の新ルールのあり方について語るWIRED.jpとWebマガジン「エンジニアtype」によるコラボ企画第4弾。スティーブ・ジョブズが遺したイノヴェイションを進化させ、新しいスタンダードを生むために乗り越えるべき壁とは何か? 2週間にわたって更新される変革者たちのヴィジョンを前に、あなたはどう動く?
60歳以上は信用するな! 夏野 剛が若者に伝えたい、ワークスタイルの新フォーム  New Order【4】
PHOTOGRAPHS BY MIKI KUWAHARA

夏野 剛

夏野 剛 | TAKESHI NATSUNO 慶應義塾大学政策・メディア研究科 特別招聘教授
1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京ガス入社。米ペンシルヴェニア大学経営大学院ウォートンスクールでMBAを取得。97年、NTTドコモに転職し、iモードの立ち上げに携わる。現在は慶應義塾大学で教鞭を執るほか、ドワンゴをはじめ、セガサミーホールディングス、グリーなど数多くの企業で役員や顧問を務めている。

インターネットの普及が、人類に3つの革命を起こした」と語り、自身もiモードによって世界に先駆けて個人をモバイルインターネットに結びつけてきた夏野剛。ジョブズ同様、人々のライフスタイルを革新的に変えるサーヴィスを世に投じてきた彼には、日本人のワークスタイルに関して、どうしても若者に伝えたいことがあるという。

──インターネットの普及によって、わたしたちのライフスタイルは大きく変わりましたが、さらなるWebサーヴィスの浸透は、今後どういった変化をもたらすのでしょうか?

インターネットが生活に影響を及ぼし始めたのが1998年前後。それからいままで、ネットの普及は3つの革命が起こしたとわたしは考えています。

まず1つ目が“ビジネス革命”。Web上にビジネスのフロントラインが拡がったことで、これまでの「商圏」と言う概念が取り払われてしまいました。

例えば、98年まで、国内線の航空チケットの売上は、コールセンターか旅行代理店からの受注によって占められていましたが、このころを境にWebからの予約販売が増え、いまやインターネット経由の売上が約70%を占めるまでに至っています。

松井証券がネットトレードを始めたのも同年ですし、楽天が創業したのこの前年。このころを境に、企業を取り巻くビジネス環境もリアルからヴァーチャルに拡大していったんです。これが最初の革命。

そして次に“検索革命”。奇しくもグーグルの創業も98年。それから14年あまりで、検索エンジンなくしては仕事にならないほど、日常に密着しています。これって一昔前ならとても考えられないことだと思いませんか?

ぼくが学生だった80年代なんて、何か調べものをしようと思ったら図書館に通う以外方法はありませんでしたよ。そのうえ、何日も苦労して探しても出てくるのは古い文献ばかりで使い物にならない(笑)。それがいまでは、一晩家にこもってググるだけで世界中の情報が入手できる時代になってしまった。

昨年の原発事故のときもそうでしたよね。事故直後から原子力の専門家でも何でもない普通の人が、世界中のWebサイトから論文や資料を入手し、少なくない数の人がメルトダウンを予測していた。この事実を3カ月後に認めた政府より、はるかに高いレヴェルの知識を一般人が得ていたんです。個人の情報収集能力が劇的に向上しているのは間違いありません。

インターネットは3つの革命を起こした。でも日本はまだ中途半端

こうしたソーシャル革命が引き起こしたのが、チュニジアやリビアの市民革命だとされています。ソーシャルにはひとつの政権を倒すほどに、個人の共振能力を高める力があることを示したのです。

それほど大きな革命の最中にいるというのに、日本ではこの状況を活用しようという動きがとても鈍い。それがもどかしいんです。

──例えばどういったところに、もどかしさを感じるんでしょうか?

わかりやすいところでは、会社組織がそうですね。ライフスタイルも仕事の進め方も15年前とはまったく違うのだから、当然組織のあり方も変わっていなきゃいけないはずなのに、相変わらずヒエラルキー構造のなかで仕事をしている。

個人の能力が圧倒的に強くなっているのに、その能力を生かすような仕組みに変えられていないんです。日本だけが古いやり方に縛られているように思えてなりません。個人的には中間管理職をなくして、社長、部長、あとは平社員で十分だと思うんですけどね。

会社組織にしても、政治や選挙システムにしても、インターネットをツールととらえてフル活用すれば、まったく新しいものに変えられるはずなんですよ。

それを阻んでいるのが60歳+−5歳の世代。彼らの大多数は、新しいITや事象に疎いし、同じ世代としか付き合いたがらない。そもそも新しいライフスタイルに適応できないと思っているので、ITに対する抵抗感が強い。

オジさんの言うことは、絶対に聞くな

だからそれまでの間、若者世代は自信をもって自分たちのライフスタイルを貫くべきです。高度なインターネットやITを使いこなすことによって、古い世代にパフォーマンスの違いを見せつけてやればいい。仕事でもボランティアでも構いません。やりたいことをやって、彼らにできないことを勝手に実現しちゃえばいいんですよ。

特にいまの20代は、50代の雇用を守るために苦しい思いを強いられている。こんな不公平がそのままであっていいわけがない。だから新たなアイデアをITを駆使することで実現し、彼らに対抗すべきなんです。

「信ぴょう性に欠ける」だとか、「犯罪の温床」だとか、いまだにインターネットに対して否定的な意見が多いのは、ネットユーザーである若者が悪いというよりも、社会がそれについてきていないだけ。雑誌だってテレビだっていい加減な情報があるじゃないですか? それと同じです。

だからぼくはいつも自分の生徒たちに、「オジさんの話を聞くのはいい。でも、絶対に言うとおりにはするな」って言っています(笑)。オジさんたちの体験は古くて参考にならないですから。

繰り返しになりますが、若者は自分でいいと思うこと、やりたいことをどんどんやればいい。先輩が止めようとするなら、振り切ってでもやるべきです。

──これからを担う世代に伝えたいことは?

ジョブズのすごさは、実現しうる技術が登場してくる前に「こんなものがあったらいいな」という、ある種ドラえもん的なヴィジョンを具体的に抱いていたことだと思うんです。あれこれ夢を抱いていたら、うまい具合に世の中の技術が発達してきて、iPhoneやiPad、Siriなど、優れたプロダクトやサーヴィスを生み出すことができた。

つまり、未来を切り拓くプロダクトやサーヴィスは、「さて、いま手元にある技術で何ができるか」という、技術ベースで生まれるものではなく、「こんなのがあるべきだよな」というヴィジョンありきなんです。

ぼくの経験で言えば、「おサイフケータイ」が同じようなプロセスで実現を果たしたケースでした。ぼくがドコモに入った1997年当時は、おサイフケータイを実現するための技術的基盤はなかったものの、iモードが実現する前から「ケータイとサイフが一緒だったら便利だよな」というイメージがありました。

カテゴライズが無意味になるこれから、問われるのは「個人」の思い

例えば、アメリカ人を口説きたかったら英語を学ぶのは当たり前でしょ? でも、もしその後で素敵なフランス人に出会ったらフランス語を学べばいい。「もう英語を学んじゃってるから、フランス人は口説けない」って嘆くのは絶対におかしいって思いませんか?(笑)。

それだと「口説く」という目的と、手段でありツールであるはずの「言葉」が逆転してしまっている。若いつくり手の人には、そうやって手段と目的を取り違えることなく、自分が勉強して身につけた技術で「何がしたいのか」よく考えてほしいです。

これだけインターネットが生活に浸透したいま、人は多様的なのが当たり前になってきています。そんな世の中で、文系か理系かとか、技術畑かビジネス畑だとか、既存の価値観でものごとをカテゴライズする意味がなくなってきています。将来的には、国境や国籍、過去のバックグラウンドなども、人を見るうえでさほど重要な問題ではなくなるはずです。

そんな時代に唯一問われるものがあるとすれば、それは個人の「情熱」です。インターネットという強力な武器を得たいま、これからどんどん自分に忠実に生きやすい時代になっていくでしょうし、またそうしていかなければいけないと思っています。

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TEXT BY TOSHINORI TAKEDA @ GRETAKE

PHOTOGRAPHS BY MIKI KUWAHARA