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主要紙が三者協議を黙殺―PC遠隔操作事件・5か月目の報道検証(上)

楊井人文弁護士

いわゆるPC遠隔操作事件で、6月21日、東京地裁で第2回公判前整理手続があった。約1か月ぶりの、公判に向けた証拠整理のための裁判官・検察官・弁護人の三者協議である。この中で7月10日、すなわち2月10日の逮捕からちょうど5か月後を期限として、検察側が、片山祐輔氏が一連の事件に関与したことを示す書面を提出することが決まった。非公開協議の終了後、弁護団が司法記者クラブの会見で概要を明らかにした。

弁護側によると、検察側はこれまでに3度の起訴に応じて計3通の証明予定事実記載書面を提出したが、いずれも本件の主たる争点である「片山氏の事件への関与を示す根拠」には全く言及していなかった。これまでも検察側は「捜査中」「証拠隠滅のおそれ」を理由に、片山氏の事件への関与を示す根拠を明らかにせず、それらしき情報はマスコミを通じて断片的に伝わってくるだけだった。そうした経過からすれば、この7月10日の期限は今後の展開に非常に重要な意味をもつといえる。

また、この日の協議では10月25日の第6回公判前整理手続まで仮日程が組まれた。第6回までいかずに打ち切られる可能性もあるが、早くて第4回(8月22日)で打ち切られたとして、初公判はそれから1ヵ月以上先になるだろうから、逮捕から初公判まで7か月を超えることになる。第6回までだと9か月を超える。

比較対象として適切かどうかわからないが、4人の死者を出し、全面否認(黙秘)のため間接事実による立証が焦点となった、いわゆる和歌山毒物カレー事件(1998年)でも、初公判は逮捕から約7か月後。(*1) つまり、この日の協議では、初公判までの「異例、あるいは異常」な遅さも明るみになったといえる。なお、これも全く報じられていないが、片山氏は逮捕からいまだ接見禁止を解かれていない。

ところが、東京新聞の当日夕刊ベタ記事(共同通信の配信とみられる)を除いて、主要各紙はこの日の協議があったということすら紙面に記録せず、事実上”黙殺”した。5月22日の第1回公判前整理手続で、検察側が片山氏の事件への関与を立証しようとしないことに、裁判官が「異例、あるいは異常」と指摘したとされるが、この事実を読者に知らせたのも東京新聞だけ。対照的に、6月11日の「追送検」という”捜査動向情報”は、各紙とも足並みをそろえて伝えていた。

これが、「猫とカメラ」が決め手だと大々的に報じた逮捕劇から4か月を経た、報道の現状である。

しかも、6月21日の会見では、驚くべき記者の「認識」も明るみとなった。「送検」を「起訴見込み」と勘違いした記者がいたのである。(中―「送検=起訴見込み」という誤謬―に続く)

(*1) 逮捕は1998年10月4日、初公判の予定日が決まったのは166日後の3月19日、初公判は221日後の1999年5月13日。

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長を6年近く務め、2023年退任。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』を出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。翌年から調査報道NPO・InFactのファクトチェック担当編集長を1年あまり務める。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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