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平成19年度パソコンボランティア指導者養成事業

セミナー
障害者IT支援とパソコンボランティアの展望
報告書

講演2「ITのユニバーサルデザインの発展と国連障害者権利条約」

司会●

続きまして講演2としまして、DAISYコンソーシアム会長であり、そして国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所の特別研究員でございます河村先生に「ITのユニバーサルデザインの発展と国連障害者権利条約」についてお話をいただきます。2006年12月に国連障害者権利条約が採択されまして、昨年9月28日に日本政府においても署名をいたしました。その権利条約とITのユニバーサルデザインとの関わりといったことでお話をいただきます。

河村●

講演する河村氏

パソコンの画面が消えてしまいまして。ちょっとお待ちください。もう1回調整します。

……すみません。パソコンボランティアのサポートが必要なようで。私の手元の画面からも消えてしまって。どうも画面が合わなくて、ITにありがちなトラブルに巻き込まれたようです。それでは、ちょっと再起動しますので、その間お話をしながら進めせていただきたいと思います。

私の今日与えられました演題は「ITのユニバーサルデザインと国連障害者権利条約」ということでございます。私は順番といたしましては、最初に権利条約というものの中でユニバーサルデザインがどういうふうに取り上げられているのか。それがITとどう関わっているのかということを、まずお話を申し上げたいと思います。特に権利条約は私たちのこの社会にどういうインパクトを与えるのか。その中でIT、ユニバーサルデザイン、パソコンボランティアというのは、どういう新しい局面を迎えるのかという、私なりの読み方を申し上げて、皆さんにこれからのパソコンボランティアのあり方を考えていただければ幸いです。

特に今、権利条約。皆さん、条文をお読みになった方もいるし、お読みになってない方もいるし、読んだけどよく分からなかったという方もいると思うのですね。たぶん一番分かりにくいのが定義のところではないかと思うのです。第2条が定義です。この第2条の定義のところが、また悪いことに政府訳と、川島先生・長瀬先生が訳された訳とが、かなり違っています。そしてITボランティアには特に関わりの深い第9条。そこは標題からしてかなり違います。政府訳はAccessibilityを「利用可能性」というふうに訳しています。川島・長瀬訳は「アクセシビリティ」というカタカナで訳しています。「利用可能性」と訳す場合と「アクセシビリティ」と、私たちがパソコンボランティアに特に関わっている皆さんが考える言葉とは、随分ずれがあるのではないかなと思います。

もう一つ、実はこの権利条約は、定義のところを読んでも「障害って何だ」という定義はありません。定義のところに「障害」の定義が書いてないというふうに私には読めます。その代わり「何が障害者に対する差別なのか」ということが書いてある。というのが定義のところの特徴だと思います。

定義のところに「合理的配慮」という言葉が出てまいります。これは英語で言いますとreasonable accommodation。reasonableというのは「合理的な」あるいは「理にかなった」、同じ意味ですけれども。accommodationというのは、普通私たちが日常会話で使うときに、よく「accommodationは?」と英語で聞かれるのは「宿の手配、どうなっている?」ってことですよね。普通の日常の会話の文脈で出てくるaccommodationというのは「宿はどうなっていますか」。「Hotel accommodation」という言い方をします。reasonable accommodationというのが日本語だと「合理的配慮」。これはどちらの訳もそういうふうに訳されていますし、ずっと前から合理的配慮について学問的な研究をしておられる石川准先生も「合理的配慮」と訳しておられるだろうと思います。後でお話が聞けると思いますが。

この「合理的配慮」を政府訳では「否定することも差別に含まれる」というふうになっております。川島・長瀬訳では「合理的配慮」を「行わないことも差別に含まれる」と言っています。これ皆さん、同じだと思うでしょうか。私にはかなり違うと思われます。やはり障害に通じ、英語に通じている方が両方訳しているのだと思うのですが、片方では合理的配慮を「否定すること」が差別に含まれますよと言っています。もう片方は合理的配慮を「行わないこと」が差別になりますよと言っています。

私の言葉の理解では「否定する」というのは意識的な行為。知った上で「いや」というのが否定だと思うのです。「行わない」というのは知らなくて、「そういうことが必要だということがよく分からなくて行っていなかった」ということも含まれるように思います。無意識、あるいは無知、あるいはそういうことは誰も知らなかったということもあるかと思います。ひそかに困っている人がいて、それを実はよく知らなかったと。これは障害者団体の中でもあることだと思います。障害者団体と呼ばれる当事者の集まりの中でも、やはりお互いに違う障害を理解するのは大変難しい。「自分がある障害があるから障害全部が分かるか? そんなことはない」というのは常識だと思います。つまり言葉に出されて、みんながよく理解できている困難さ、難しさというものと、なかなか言葉にできない、共有できない、そういう困難さ、あるいは障壁というものが世の中にはやっぱり存在しているのであって、この解釈の違いですね。「否定」なのか「行っていない」ことなのか。それによって「行っていない」ということで差別なのだと。差別をしてはいけないのだということを法律上決めるということのインパクトが違ってくると私には思われます。

ですから、第2条の定義を読んでいるところから「うーん、これはどういうことになっていくんだろう」と、私には思われるわけです。

そしてこの第2条のところに「合理的配慮」という言葉が出てきますので、もう一回、じゃあ、そんなに重要な、これを差別なのか差別でないのか決め手とするような、しかも法律上根拠をもった概念となるとどういうことなんだろうと思わざるをえません。そのすぐ次の説明が、実は定義のところの「ユニバーサルデザイン」につながるのです。「ユニバーサルデザインとは?」というのは合理的配慮の次の定義の項目なのです。これは非常に重要だから、間違いがないようにここできちんと定義しておこうということで置かれているし、その順番も論理的な熟考された順番なのだろうと類推するわけです。また実際そうだと思います。

その「合理的配慮」というのは、実体は、調整や変更、そういったものなのですね。つまり普通にあるものだけでは足りない。だから環境を調整したり変更したりして、障害のある人が困らないようにしないといけない。そのために合理的配慮という考え方が導入されていて、実はこの合理的配慮というのは「過度の負担でない」ということが前提になっているのですね。非常に曖昧です。この「過度の負担でない」調整や変更というものは技術の進展によってどんどん変わっていくものですね。それからそこがどういう環境なのかによっても変わっていくわけです。

そういう意味で、非常に幅広く、その場その場の状況に応じて変わっていくようなボーダーライン、このボーダーラインをクリアしないと差別だよというふうに法律上定義していく。これは随分思い切った新しい考え方ではないかと思いますし、またそういった考え方は、ある実践に基づいているわけです。アメリカの中で障害者差別の禁止という法律的なガイドライン、あるいは政府が調達をするときに、物を買うとき、契約するときにガイドラインを設けていて、そこにこの「合理的配慮」という考え方が、ずっとこれまでアメリカの社会の中で揉んできていて一定の合意ができているという実績の上に、アメリカだけではないと思いますけれども、こういった考え方で国際的に合意しようということで、権利条約が非常に重要な鍵になる概念として取り上げたと考えていいと思います。

そこで、ではITあるいはユニバーサルデザインということが、この定義の中からどういう関係で読み取れるのかということに論を進めることにしたいと思います。

第2条のところにあります定義の「ユニバーサルデザイン」というのは、何の調整もなく最初から使えるものとしてデザインされている物、それがユニバーサルデザインだと。これは福祉機器や、固有の、その人の特別のニーズを満たすために、いろいろな物をそれにつなげる、あるいは付加する、そういうことで困難を解決することを妨げるものではないというふうにわざわざ言っています。この考え方は、実はこの権利条約の議論と並行して進められました「世界情報社会サミット」という国連のサミットがありますが、そのサミットの中で、初めて国連のサミットの文献として「障害者」あるいは「障害」という言葉が初めて取り上げられたときに同時に確立された考え方です。これからのITの開発を障害がある人たちにとって新しい壁を作らない、あるいは今ある壁を破っていく、そういう情報社会、ITがあまねく普及していく社会、それを展望するためには、どうしても、ユニバーサルデザインと、個別の障害による困難さを解決するための支援技術、支援機器といったものとが結びつけて開発される必要があるのだと。そういうふうにしないとうまくいかないのだという大原則が、基本文書の中でも合意され、さらに行動計画の中でも謳われているわけです。

その成果を受けて、最終的な合意に至った国連の障害者権利条約の中に、ITあるいは情報コミュニケーションに関わる部分というのは、非常に色濃く、その世界情報社会サミットに障害者のグローバルな参加があったということが反映されていると思われます。そこで「ユニバーサルデザイン」という、非常にこれまでなかなか技術の世界でも合意することが難しかったような概念が、そこで定義の中に登場してくるようになってきたと思われます。

そして結局、ITの世界でパソコンボランティア、IT支援ということで、私たち、今日集まっているわけですけれども、では、第2条の定義のところで書かれている、権利条約の、翻訳をしている人の間でも随分ニュアンスが違ってくる、論争にもなるぐらいのものが、なぜインパクトがあると思うのかということを次に申し上げたいと思います。

今、権利条約は署名した国が日本を含めまして125か国ぐらいあります。世界中200ちょっとの国ですから、1年弱の間に125の国が署名する国際条約というのは、非常に急速に署名されている条約と言って間違いないと思います。その次に「批准」といって、正式に法律的な効力を持たせるための作業がございます。日本はまだ批准をしていません。世界で今日現在で16の国が、この条約本文について批准をしています。これが20になり、その30日以内に発効させるということが決まっているわけですね。ですから国際条約として効力を有するのは、この批准が20か国に達してから30日後になる。私はこれは時間の問題であると考えています。(掲載者中:2008年4月3日に批准国が20に達し、5月3日に発効することとなった。)

そこで大きな変化、一番先に起こるのは国連そのものであろうと。機関としての国連そのものが大きな変化を受ける。つまり国連は発効した国際条約を遵守するという義務を当然負うわけです。これは国連への参加を障害のある人たちが考えるときに大きな影響を持ちます。障害者権利条約というのは、条文自体がものすごく難しくて、これが毎日の私たちの生活にどう影響するのかというのは、なかなか読み解くのは難しいです。ところがよく考えてみると、途中は省きますが、これは今までの障害のある人たちの困難な環境を逆転させる、つまりその困難が解消されて当たり前、解消していないのは差別になって違法であるというように、今までは、「あ、これができた。ありがとうございました。配慮されてありがたい」と思っていたことが逆になりまして、それを配慮していないということが法律に触れるというように、法律の体系を全部変えるということです。

具体的に言いますと、著作権法に関連することですが、今テキストをスキャンして、スキャンしたテキストは、いろんな形で使えます。先ほど鹿児島の方、畠山先生のプレゼンテーションに出てこられた方が、本を持って読むのはとても難しいと思うのですね。先ほどは風景が見えるということで世界が広がるとおっしゃっていたのですが、もう一つ、物を自分で選んで読む、そしてそれを自分で読み書きしてコミュニケーションを広げる、それはやはり世界の中で生きるということに不可欠なものですね。このときにテキストファイルさえ使えれば、いろんなことができるのです。ところが日本の著作権法は、テキストファイルについては一切著者の権利を制限していません。ということは、テキストファイルにしてアクセシブルにするということについては、原則できない形になっています。その代わり点字ならいいよ、音声ならいいよということになっています。

さあ、ここで権利条約です。合理的配慮というのは、ここではどういうふうに働くのか。例えば公共図書館は、その方がどこのどなたかということを聞かないで、自由に入ってきて、書架にある本を自由に読んで、まあ読まなくてもいいんですが、入ってきて楽しんで帰っていいという場所です。そのときに、障害のある方が入ってきて、障害のない人たちと同じように受け入れられているだろうか。受け入れられていないとすれば、そこに合理的配慮を要求していいのではないかということが課題になるわけです。当然合理的配慮を要求できるわけですね。私には書架にある本を選べない。例えば見えない、あるいは視力はあっても高次脳機能障害とか発達性の障害とかで読んで理解することが難しいのだと。それが音声になっていれば読めるという方も当然いるわけです。それから入り口のところが当然物理的にアクセシブルになっていなければ入ってもこられないわけですね。

そういうあらゆる面で、「これでは自分は他の人と同じように使えない、合理的配慮を要求します」ということに法律的な根拠が生ずるということは、主に公共機関である図書館は法律に則って運営をしなければいけないということになるわけです。

そこで、ではアクセスを可能にするためにどういう方法があるのかというときに、今までですと録音図書とか点字あるいは対面朗読といった方法があります。当然これらも必要です。でもあちこちで、どんどんそういう事例が増えていったときに、ずっと対面朗読で対応できますか? それから新刊本が出たときすぐに、あちこちの図書館に大勢の人々が「新刊本だから読みたいのです。これすぐ録音してください」と言ったときに対応できるのでしょうか。つまり出版界から図書館、あるいは学校ですと当然すぐに出た教科書を含めて発行された情報というのが、アクセシブルになっていなければ授業そのものに参加できない。職場ではそういった情報に対等にアクセスできなければ仕事をすることができないということになるわけですが、これすべてに合理的配慮を要求できるという法律的根拠ができるとしたら世の中は大きく変わります。それを実現していないことが差別で違法であるということになるのです。

そのための準備、そのための設計というものは、そう簡単に一朝一夕にできるわけではありません。ただしこの権利条約の中でも、第9条その他のところでユニバーサルデザインに触れているところがあります。ユニバーサルデザインというのは、最初の計画、最初のニーズ把握、そこからデザインのプロセス全体を通じて初めて実現できるよと。そういうプロセスを経ることによって、障害者の参加ということが保障されるのだと。政府はそういうユニバーサルデザインを、そういうプロセスとして捉えて大いに推進すべきであると言っています。つまり合理的配慮ということで、それを実現しないのは差別になると言った上で、ユニバーサルデザインがすぐ次につながっているというのは、障害のある人たちの幅広い参加を前提にしてユニバーサルデザインを進めることによって、合理的なコストで世の中の仕組みを変えていくことができるという重要な示唆が、すぐ次にユニバーサルデザインが来ているということで示唆されていると私は読んでいます。

同じ論法は、先ほど申し上げました「世界情報社会サミット」の行動計画の中でも、同じロジックが使われています。特にITの世界では、設計可能である、ITの世界を、ユニバーサルデザインを本当に障害のある人たちも参加して作っていくのだというのは可能であると確信を持てたからこそ、サミットの行動計画にも含まれ、さらにそれが障害者権利条約にも反映されてきちんと含まれたのだと考えるわけです。

ここでパソコンボランティア、ITボランティアというのが、ではどういう役割を果たすのだろうということになってくるわけです。おそらく膨大な作業、先ほど「天と地がひっくり返る」というたとえで申し上げましたが、差別をするのは違法だということになる。ではどうやって合理的配慮を実現するの? というところが無数に必要になります。至るところでです。そのときにやはり世界中で今どういうふうな、特にITの世界ではグローバルなスダンダードというのが非常に重要ですので、世界中でどういうふうに今進めているんだろう、どういう問題があるんだろう、次はどういう方向へ行くんだろうという視野は世界中に広く持ちながら、でも手元の現場で、この難しさ、この困難をどうやって解決するのかということが結びつかなければ、ITのユニバーサルデザインは進展しないでしょうし、また、この権利条約を現実に毎日の生活の中に実現していくということも、実現は難しいと思います。

そういう意味で、まだ制度になっていないところで先行して、障害者がもっとも戦略的に参加しなければいけないところ、それは計画から実施に至るまでのプロセスに参加するということだと思います。ユニバーサルデザインというのは、最後に出てくる製品のことだけを指すわけではなくて、このプロセスを変える、仕組みを変える、制度を変える、それがユニバーサルデザインだと理解するならば、日々、「私はこれに困っている」という人が、ではその困っていることは、どういう道筋をたどれば実現するのか、解決するのか、それをその人の暮らしている生活空間の中で、参加していって発言していって、そしてそのプロセスに参加することによって自分の問題を解決するのだと。つまり障害のある人自身もここで頑張らないといけないのです。でも頑張るときに支援が必要なのですね。少なくとも情報は共有しなければいけない。それから自分が発言しようとするときに発言ができるチャンスが保障されないといけない。そういったあらゆる場面にITというのは非常に重要な役割をこれから果たしていく。それがユニバーサルデザインに基づく障害者差別のない社会を漸進的に、一歩一歩積み上げて目指していくという、そういう権利条約のこれからの普及の過程に、ITボランティア、パソコンボランティアがとても重要な役割を果たすと私が考える所以であります。

以上、視覚的なプレゼンテーションがなくて本当に申し訳なかったのですけれども、実際に画面に出そうとしていたのは世界地図でした。世界地図で、どの国が今批准をし、どの国が署名をし、どの国が署名をしていないかということが、「UN-Enable」というWebサイト(http://www.un.org/disabilities/)にございます。その地図を見ながら一緒にお話をしたかったのですけれども、「UN-Enable」というWebサイトにその地図がございますので、後でご覧いただければ幸いです。以上をもちまして私のプレゼンテーションを終わらせていただきます。

司会●

ありがとうございました。残念ながら、スクリーンのほうには映すことができなかったのは世界の地図なのですけれども、実は私ども、「DINF」というWebサイト(http://www.dinf.ne.jp/)がございまして、その中で権利条約に焦点を当てたページがあるのですが、そこに、今何か国が批准をしているかというページへのリンクが張られていますので、そこからどこが批准して署名しているかのところをお探しいただければ簡単かと思います。よろしくお願いします。