ダ・ヴィンチ×ほぼ日刊イトイ新聞 共同企画 中島みゆきさんとの、遊び時間。 『真夜中の動物園』をめぐる120分。
その16 強くなるってこと。
糸井 声をつぶしちゃったコンサートのとき、
喋りの声はちゃんと出たんですか?
中島 一応カスカスでも
出てりゃなんとかなりますからね。
糸井 声が出ないってわかったとき、
真っ白にはならないんだね。
気を確かに持っていたんだね。
素晴らしいですよね、それ。
中島 帰ろうとは思わなかったですよ、
とりあえずね。
糸井 よく言うセリフだけど、
「真っ白になった」
っていうのあるじゃないですか。
だいたいの失敗って、
真っ白になって失敗してるんですよね。
真っ白にさえならなければ、
なんとでも色々やり方が。
さっきの払い戻しも含めて。
中島 歌詞の真っ白はしょっちゅうですよ。
今まで覚えてるのに、ハーッて息吸ったら、
「まぁ、なんだったかしら」
みたいなのはしょっちゅうですけれど。
あのときは姑息なことにね、
「これで一本飛ばしたら、
 私いくら払わなきゃなんないんだろう」
って思いましたわ。
それよりもっと前に、九州でコンサート、
実際風邪引いて、お客さんが来る前にね、
中止にしたときがあって、
膨大な金額の損出をしたんですよ。
それが浮かびました。
払うくらいなら、なんとしてもこのまま
いっちまえ〜、と(笑)。
糸井 自分で声が出ないってことに気付かないで
ステージに上っている人って、
夢の中の話みたい。
中島 ステージをやると、ほんと、
てんこ盛りの話題ってあるもんですよ。
裏は裏、表は表で。
糸井 それ、経験したときは
なにかが強くなってますよね。
中島 ええ、そうですね。
きっと強くなれるわ(笑)。
学習はしないんだけど。
糸井 さっきのさ、いつまでもできないとか
完成しないとかっていうのと同時に、
強くなってるのは確かだよね、人って。
なにかしらは強くなってる。
強くなってるけど、わかりゃしないんだよ。
強くなるって、
どういう意味なんだかわからないけど、
いろんなことに対処できる
自分は作れてますよね。
中島 うん。
糸井 でも、ほんとに大事なことはわかってるかって、
わかってないですよね。
中島 めげれば誰かが助けてくれる、
かわいこちゃんの時代は終わったのよ。
糸井 とっくに。
中島 うん、メゲても誰も助けてくんないから、
自分でなんとかしなきゃなんないのよ。
で、「負けんもんね」なの(笑)。
糸井 『海馬』って本を出してる
池谷裕二さんっていう神経科学の方がいて、
久しぶりでお会いしたときに、
情報って、インプットのときには
なんにもなんないんだって教わったんです。
例えば「この道具は何々をするためのものです」
って、いっくらインプットしても、
なんにもならないと言うんですよ。
だけどその通りに使ったときに初めて、
「こうやるといいんですよね」っていうのを、
脳が憶えるんだと。だからいっぱい、
頭でっかちにいろんなことを知ってるってことは、
基本的にはなんにもなってない。
でもたくさんインプットしてなくたって、
「これってこうするんだよ」っていうのを
何回かやってみた人は、
そこの部分の能力が高まる。
使ったときに鍛えられるらしいんですよ。
中島 うんうん、そうですね。
糸井 強くなってるよねって言ったのも、
声が出なかった経験なんか
誰もしたことないんだから、
したっていうだけで。
中島 その前に色々やらかしてるのが、
瞬時に蘇りますもの。
階段を踏み外して
後ろ向きに落っこっちゃった瞬間とかね(笑)。
糸井 すごいね、それ(笑)。
中島 ああいうことがダーッと、
「あんとき、どうしたっけ?」みたいなのがね、
日ごろ考えられないようなスピードで
蘇るもんですよね。
糸井 素人のまんまで生きている、
みゆきさんと同じ遺伝子のかたが
もうひとりいらっしゃっても、
そのかたは中島みゆき環境の中にはいなくって、
中島みゆきとしての経験は全然ない。
ものすごく差が付いているんですよ、きっと。
“誰かさん”になるっていうことは、
要求されることがどんどん増えるぶんだけ、
答えを出すっていう経験をたくさんするから、
そこで鍛えられているものが、
ものすごくあるんでしょうね。
だから、かわいこちゃんでいるときには
経験しなかったものが、
自分でやらなきゃって言ってから、
どんどん伸びてるっていうか、
強くなってるっていうか。
“誰かさん”であることって、
“誰かさん”であるって言われた途端に、
もっと伸びるチャンスだったんだね。
“誰かさん”になっちゃったほうが、
すごいね、人生は。
濃くなるね、つらいけど。
中島 ははははは。
糸井 ということなんだろうね、きっと。
今、聞いてて、
「そんなやつぁいねーよ、他に」
と思ったもんね、やっぱり。
やっぱり料理の先生は、料理をいっぱい
憶えているんじゃなくて、作っているし。
だから中島みゆきをやってきたっていう経験は、
もっと中島みゆきを作っているんだろうね。
中島 名編集者とあとで言われるような人たちって、
みんな作家の人達から
ひどい目に遭ってますもんね。
裏口から逃げられたとか、
行きそうなところへゲタ持って追っかけたとか、
けっこう豪傑がいっぱいいますもんね。
ちゃんといろいろ食らってるんだ。
糸井 食らってるんだね。
うん。あと、訊かれることが
ものすごく増えるじゃないですか、
“誰かさん”っていう立場になると。
「なんとかですか? なんとかですか?」って。
考えてもいないことばっかり訊かれますよね。
つまり、「好きな花は?」でさえ考えてないですよ。
中島 ああ、そうね。
糸井 答える回数に合わせて、
そこの脳が作られますよね。
中島 そうね。一番困っちゃうのが、
もう答えを用意している質問ね。
こう答えることを想定してもう原稿ができていて、
なんとかそこへ持っていかなきゃ気が済まない
タイプの質問の人。
糸井 誘導されちゃうんだ。
中島 「ないって」って、なんぼ言っても、
「でもね」って、そこへ持っていきたいタイプ。
これ、困ったもんですよね。
糸井 それはどっちのためにもならないね。
中島 ならないですね、発展しない、なーんにも。
そんで脱走したことあったな。
糸井 脱走した?!
中島 うん、つまんないから帰っちゃった。
「トイレ行きます」って言って逃げちゃった。
糸井 それも一個の経験ですよね。
中島 最近なら、もうちょっと丸いやり方が
あると思うんですけど、
若いころはちょっと
トンガってたもんですから(笑)。
糸井 丸くてイヤミなのもあるからね。
中島 はーい(笑)。
糸井 丸いイジメ方。
中島 ああ、いいですね、目指したいですね、
はんなりと、グッサリと。
糸井 ほんまによう知ってはりますなぁ(笑)。
中島 うふふふふふふ。
── お時間もそろそろ。
糸井 ずーっと馬鹿話をしてたような気がしますけど、
『真夜中の動物園』、
ぼくはとっても傑作なアルバムだと思ってます。
中島 ありがとうございます。
糸井 ここからなにかまた始まる予感がありますね。
中島 個人的に好きなもんを
ベロッと出してみましたって感じですね。
糸井 やっぱりそういうことですか。
やっぱり着ぐるみだからかもしれないですね。
中島 そうですね。
糸井 面白かったです。ありがとうございました。
中島 ありがとうございました。
コンサートにぜひおいでくださいまし。
日々初心でやりたいと思います(笑)。

(おわり‥‥ですが、この下に、
 おまけがあります。どうぞクリックして
 読んでくださいねー。
 どうも、ありがとうございました!)
 
この対談のあと、中島みゆきさんから糸井重里に、
一通の手紙をいただきました。
そして、その返礼を、糸井重里も、書きました。
『ダ・ヴィンチ』誌にも掲載されたこの往復書簡、
ここに再録いたします。
(クリックしてどうぞ。)
2010-11-03-WED
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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN