Superchunk / I Hate Music

アイ・ヘイト・ミュージック

アイ・ヘイト・ミュージック

 

音楽が好きだ。メロディーに乗せて歌詞を歌う、そんな音楽が好きだ。美しいメロディーを聴ければそれだけでも気分は高揚するし、美しい歌詞を読めればそれだけでも心は動く。だけど、美しいメロディーに美しい歌詞が乗った音楽に出会った時におぼえる気持ちは、美しいメロディーを聴いた時の高揚と美しい歌詞を読んだ時の感動を、足しても掛け合わせても、到底かなわないほどに大きいんだ。そんな音楽に出会いたくて、僕はこれまで音楽を聴いてきたし、これからも音楽を聴いていくんだ。

 

メロディーにのせて詩を書くことも 意味がないからやめた。

僕が高校2年生の頃、車谷浩司というミュージシャンが、そんな歌詞をメロディーに乗せて歌っている曲を収録したアルバムを出した。今でも時々思い出したように聴くそのアルバム、サウンド面ではUSオルタナ・シーンからの影響が大きいらしいということを音楽雑誌で知って、そっち方面には疎かった僕も、何枚か聴いてみた。彼らスーパーチャンクの1997年作「Indoor Living」も、その中の1枚だった。

 

彼らほどのキャリアを持つ彼らのような音楽性のバンドが新作を発表すると、「キャリアを重ねてもいつまでも変わらない」「まるで新人バンドのような」「エヴァーグリーンなサウンド」といった称賛の言葉が、まるでお題目でもあるかのように並ぶ。勿論それらの言葉がまったくの的外れというわけでもないし、彼らのキャリアを逐一追っているわけでもない僕も、この新作を実際に聴いて「ああ、いつもの彼らだな」とすぐにわかったような、そんな美しいメロディーが揃っている。

だけど、今作の肝があるとすれば、それは決して「いつまでも変わらない」「まるで新人バンドのような」「エヴァーグリーンなサウンド」と言った言葉だけでは届かない、そんなところにあるのだと思う。端的に言おう。今作をこれらの言葉でのみ称賛する人たちは、はたしてしっかりと今作の歌詞を読んだのだろうか。

 

I hate music - what is it worth?

Can't bring anyone back to this earth

Or fill in the space between all of the notes

But I got nothing else so I guess here we go...

本作タイトルにもなった1節を含む、「ME & YOU & JACKIE MITTOO」の歌い出し。ここで歌われているのは、明らかに徹底的な無力感だ。少なくともこの言葉をそのまま読んで、そこから何らかのポジティヴィティを掬い取るのは、僕には至難の業だ。そしてこの無力感は、決してここだけにとどまらない。「OVERFLOWS(決壊)」「VOID(空白)」「BREAKING DOWN(壊れていく)」。曲名を書き出すだけで、少しは推し量ってもらえるだろうか。

そんな無力感に溢れた歌詞が乗るメロディーは、だけど、あの頃と変わらず、「パワーポップ」でも「USインディーの良心」でも「泣きエモ」でも何でも良い、いつもの称賛の言葉でもういい加減使い古されてるはずなのに、決してカビは生えない、そんないつもの彼らのメロディーだ。美しいメロディーだ。

 

車谷浩司の言葉をきっかけに初めて手に取った頃の彼らは、当時の僕の英語力の稚拙さを考慮に入れる必要はあるけれど、「意味がつかみがたい歌詞が美しいメロディーに乗る」こと で、何らかのマジックを体現していたようにも思えた。それが日本人が洋楽を聴く素晴らしさだと思って聴いていた部分は、間違いなくあった。それを今になって撤回するつもりもない。そういう素晴らしさを持つ音楽も、確かにある。

だけど、それとは違う素晴らしさを持つ音楽も、確かにある。美しい歌詞を美しいメロディーに乗せることで、それらを足しても掛け合わせても到底かなわない素晴らしさを生み出す音楽。部屋で1人膝を立てて読みたくなるような歌詞を、思わず立ち上がって体を揺らしたくなるようなメロディーに乗せて歌う、そんな音楽。オリジナルメンバーで結成から20年超、自主レーベルを運営、そんな、それこそ手放しで称賛したくなるようなキャリアを持つバンドが、「音楽なんて大嫌いさ ― なんの価値がある?」なんて歌詞を、そんなキャリアを感じさせない瑞々しいメロディに乗せて歌う、そんな音楽。

 

美しいメロディーが好きだ。美しい歌詞が好きだ。美しいメロディーに美しい歌詞が乗った、そんな音楽が好きだ。

美しいメロディーに美しい歌詞が乗った、「I Hate Music」が、好きだ。

 


Superchunk "Me & You & Jackie Mittoo" - YouTube