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「はやぶさ」カプセル回収結果の報告記者会見

日時
2010年6月14日(月)20:10〜
場所
主会場:ウーメラプレスセンター(JAZZA Complex)/テレビ会議接続:JAXA相模原キャンパス研究管理棟内会議場
内容
小惑星探査機「はやぶさ」カプセル回収状況について/質疑応答
登壇者
長谷川義幸執行役、國中均教授(月・惑星探査プログラムグループはやぶさプロジェクトチーム)、西田信一郎室長(月・惑星探査プログラムグループ研究開発室)(以上、ウーメラプレスセンター)/川口淳一郎教授(JAXA相模原キャンパス)

用語:RCC(Range Control Center)

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概要説明(長谷川執行役)


本日の流れを。(ウーメラ時間)8:24ヘリ発進、着陸許可取得。回収部隊が12:48にRCCを出発。13:23に回収地点から500メートルの距離に到達。16:38回収作業終了。17:30RCCに帰投。カプセル入りのコンテナをRCCクリーンルームに搬入17:40。今日の作業はここまで。

2枚のヒートシールドは13:45ヘリが出発し発見。回収はいまだなされず。

明日はカプセルの作業、ヒートシールドの回収など。

状況説明(國中教授)

ヘリコプターを2機手配、8:24地元地権者(アボリジニ)を載せて近傍着陸許可を得る。現地はアボリジニの聖地のため承諾を得る必要がある。ヘリがカプセルに近づきすぎると砂をかぶるなど汚染の心配があったため着陸できる場所を確保し許諾を得る。

もう一機のヘリでピストン輸送で豪州空軍リーダー、國中教授、豪州検疫官、カメラクルー2名etc..合計10名を輸送。

カプセルはリチウムイオン電池や火工品を使っているため防爆処置したコンテナを使う。

最初のフライトが終わったヘリで第3のフライト。カプセルの着地点からヒートシールドの場所を推定、5キロくらい離れているところと予想し探索、ジグザグの飛行を始めてすぐにホバリングヒートシールド発見)、もう一度ジグザグを始めたところまたすぐにホバリング(もうひとつのヒートシールド発見)。ヘリは高空へ(通信をしたいものと推定)、といった経緯。

ヒートシールド探索のヘリは帰投。カプセル回収隊は作業に入っている。回路などの爆発性のもの、可燃物などの検疫(宇宙物質で豪州を汚染する懸念をなくす)のためカプセルが破損していないことを確認、人員被害を防ぐため対爆装備で作業。

カプセルはひっくり返っていた(下であるべきほうが上を向いていた)。パラシュートはついたまま。昨日の発見から位置が変わっていないことなどを確認。

隊員により安全確認、写真、動画による記録。現状の記録ののち密閉できるプラスチックシールドを用い封印、コンテナ内へ。ショックアブソーバー処理をしヘリへ積み込み。土壌を採取:カプセル内部が汚染されていたとき、より分けるなどのため。

必要があれば化学滅菌をと考えていたが豪州検疫官よりそれは不要とされ行わず。砂礫の採取、カプセルの収容。RCCへヘリボーン。クリーンルームにコンテナごと保管。封印を実施(明日まで誰もいじらないように)。

明日の計画。

ヘリ帰投時、ひとつのヒートシールドの上を飛ぶことができ目視確認できた。明日回収。明日午後カプセルよりリチウムイオン電池の取り外しなどを行う。そして分離したカプセルを窒素パージするなどし空輸の準備。

「相模原から追加の説明はあるか」→「特にありません」

(質疑応答へ)

読売新聞:明日は空輸する?

ヒートシールド回収とカプセル類を安全にする作業。明日は空輸はしない。検疫官立ち会いのもと封印。

通関して飛行機に乗せるのは17日、18日。

NHK:國中教授へ:回収についての感想

(國中)いろいろ準備を行ってきたが強運なことに完璧なEDL(Entry,Descent,Landing)ができた。各方面に感謝。

はやぶさを見ての感想は)わたしは室内にいて自分自身は火球を見ていない。あとでビデオで確認した。

(どんなことを考えたか)火球が出ることはわかっていたし心配もしていなかった、予定時刻に火球が出ることは確実と思っていた。ビーコンがきちんと出るかは心配していた。ビーコン発生までの2〜3分は永遠に感じられた。

(ビーコンが出たときの感想は)ああ出たなと。すぐさま探索班が稼働、予定の場所の中心に見つかり感激した。(声をつまらせる)

カプセルを接近しつつ見たときの感想は

(國中)きれいに見えた。最初に遠巻きにしていて、許可が出て近づいていった。ヒートシールドはひっくり返されカプセルコンテナが。

ヒートシールド(の裏には?)断熱材が残っており、背面への熱入力はほとんどなかった。そういう見積もりではあったがすごいものを見たと感じた。

朝日新聞:きれいな状態のカプセルだが(聞き取れず)/楕円の範囲の中心だったということだがリハーサルは何パターン程度行ったのか

(國中)7年間の飛行を追えて帰ってきたのはたかだか40センチのカプセルだがそういう計画だったのでしごく当然、3年前に終わっているべきだったがそこは…だが、計画通り完遂できた。関係各方面の多大な協力でできたこと。

わたしは工学者なので工学者の観点でしか理解できないのだが、日本発宇宙経由オーストラリアへの輸入、前代未聞。新しい世界というものにみなふれたいだろう。宇宙経由の輸出入はその関係でも新しいこと。法律関係も今までにないことを考えることになった。日本から出て行っても7年後の輸入というのも新世界。とても新しいこと。昔の法律はこの新しいことに適合しないがそれをマッチさせるためにいろいろ行った。(電波途切れる)ほんとうによかった。(ここ、國中先生はとても生き生きと話していました)

異国のウーメラに50人規模を派遣、1か月の衣食住のロジスティクスは大変だった。行ってみたらうまくいかない、足りない、ということはいろいろあった。物資の手配、日本から持っていくもの、ここで調達するもの(生ものなど)、関係各方面のご協力に深く感謝。

リハーサルは問題なく遂行、心配はなかった。突然電波が消える、突然違うところで電波が発生、はるか遠いところで電波が発生などの状況を設けてヘリの移動などリハーサルを行った。

毎日新聞(?):7年間の結果としてイオンエンジンの精密な軌道制御ができたことについて

(國中)よく帰ってこれたなあと。TCM2以降はこちらにいたのでスタッフに全幅の信頼をおいてまかせてきた。後ろで見ている立場に徹してきた。TCMに入ってからもイオンエンジンはよく働いてくれた。

エンジニアとしてはもう一周してくれてもよかった。いけるところまでやってみたかった。

山田(作家):はやぶさのすばらしい帰還だった。満天の星と銀河が全天に見えて。はやぶさは真昼のように輝いた。その中からカプセルがすっと南十字星を横切った。まことにすばらしい演出だった。國中先生の演出とも思えた。どう見るか

(國中)自分自身は見ていないが色を聞くとそれはキセノンかな、そのときにはやぶさが分解したのかなとかそういう見方をしていた。

(美しく劇的だった)そうですね、はやぶさは強運。こんな快晴はこちらに来てからなかった。必ずどこかに雲が出ていた。雨が降ったり。快晴はあの昨晩だけです。

はやぶさの7年間を象徴している)そうですね、本当に強運です。

カプセルがひっくり返っていたとのことだが問題は

(國中)特にはない。落ちてきてぶつかってはねたのだろう。

カプセルが落ちた場所の状態、岩があるのか木があったのか、状況を

平らで地面はひび割れがあり乾燥しかかっている地肌。周囲は青い草が生えている。

(カプセルは黄金色に輝いて見えた)夕方なのでそのように。

(美しい姿だった)そのとおりです。

(相模原から)

日経新聞:カプセルの状況について、目視では損傷はないといっていいのか。背面の熱流入はなかったとのことだがカプセルの状態は良好か

(國中)カプセルに損傷はない。ふたの部分は全周についてクリアランスを保っていて問題はない。断熱も問題なく。ヒートシールドからも中が熱的な損傷を受けた兆候はない。

テレビ朝日:カプセルの中をすぐ知りたいと思うが結果はいつごろ?

(川口)カプセルのふた開けにはおよそ2週間、今月いっぱいといった見込み。中身については(昼も話したが)ものすごくなにかがあればひと月、しかし中身はおそらく微粒子であろうから数か月を見込む。

事業仕分けがあったがはやぶさ2をどのように進めていくか)

(川口)午前中に菅総理から激励の電話をいただいた。たいへん大きな快挙であると。それに応えたい旨伝えた。プロジェクト内にも伝えた。次世代へ伝え養っていくことが大切と強調されており「その通り」と答えた。

はやぶさ2(コピーではなくheritageを活かすという意味の後継機)をぜひ立ち上げていただきたい。仕分けとはいいものを抽出するべきもの。

余談だが:運用エリアはドアが閉まり電気が消えている。プロジェクトが終わるとはこういうこと。通信途絶よりも大きな暗転。後継者を養っていかなければぷっつりと切れてしまう。

次の計画立ち上げで続くがもっと大きな、後継者養成を行わないと切れてしまう。そういうことが大切だと強調してほしい。

東京新聞:國中教授へ:イオンエンジン木星が目標と伺ったことがあるが今回ので手応えは

(國中)宇宙技術はエンジンだけでは完成しない。長寿命であるとか燃費がいいなどが必要だが木星は非常に遠い。木星へ行ったものの多くは原子力電池だが日本がやるなら太陽電池だろう。イオンエンジンの性能向上だけでなく電源(太陽電池)の技術、大きなもの、パネル、さらにはソーラーセイルなど総合的な技術が必要。それぞれがそれぞれにシェイプアップしていくことが必要。

イオンエンジンという部分に絞れば糸口はつかんだ。

共同通信:公開された画像の内容について説明を

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(ウーメラから)

左下は15:20。カプセルの着地状況を示している。後方に見えるのはパラシュート。ライザーがカプセルにつながって見える。まだ誰もさわっていない状態。アンカーは外れているが金具は抜けていないため昨日からこの状態と推定できる。

左上は15:31。未発火の火薬があるかもしれないのでプロテクターをつけてカプセルを確認。JAXAの職員とカプセル製造関係会社のスタッフ。安全を確認し上下をひっくり返す。火工品がすべて作動したことなどを確認。

右下は15:36。安全確認がとれたため10人のメンバーが集まり様子をうかがっている。(以上ウーメラ時間)

サイエンスウィンドウ:國中先生、途中スラスターが壊れて中和器での姿勢制御、イオンエンジンのニコイチなど離れ業があったがその発想はどこから。

(國中)単にこけの一念だけです!(断言)

(止まったらどうしようと考えていたのか)なんとか往復航行を実証しなければならないためそれに向けて工夫をした。

イオンエンジンの超過運用に不安はあったか)3年延びたという言い方もできるが逆にいえば3年間猶予ができたということでもあった。イオンエンジンでのんびり帰ってきたという印象。

(無理に早く帰ってくるほうがよくなかった?)5年でミッションをするのは大変なことだと思っていた。行きの2年数か月からたいへんノルマがきびしく、イオンエンジン稼働率を確認、電力の調整など往路はたいへん苦しかった。

その調子で2005年から2007年の1年半で帰ってくるとなるとたいへんだなと当初から思っていた。

(もう一周あったらやったか)劣化もあったから実際は難しく、イオンエンジン単体ではもう一周と思っていたがはやぶさプロジェクトとしてはさらに3年はきびしかっただろう。

NHK:薬剤滅菌はなにを想定したものか/輸出入のこと。日本から宇宙経由でオーストラリアへとのことだが砂が入っていたらそれもそういうことになるのか

(國中)科学的にはわからないが、宇宙細菌の可能性を考えて化学的に滅菌を行った。カプセルの損傷はなかったため化学滅菌は必要なくなった。

宇宙物質は科学サンプルと認識され「科学免税」の措置が執られる。

(宇宙細菌を心配したのは豪州政府か。また薬剤は具体的には?)宇宙計画では国際機関としてCOSPA(?)などが隕石などと同等と考えられるものについては同様に考える。S型小惑星イトカワもあたる。なので持ち帰りは問題ない。

化学滅菌は万が一のことがあっても危険がないと示すための手順。薬剤は(商品名かもしれないが)豪州政府指定の「ベーコン」なる薬剤を使った。

(川口)補足する。COSPAという科学者会議があり、S型、C型小惑星からの持ち込みは科学サンプル以上の措置は必要ないと考えられた。滅菌の化学的根拠は豪州が納得する合理性のもと判断された。そのためJAXAは滅菌の化学的合理性をうんぬんする立場にはない。

火薬やリチウムイオン電池の使い道は。

(國中)火薬はヒートシールドを分離しパラシュートを開く一連のために。またパラシュートを分離するために。計4個搭載。

リチウムイオン電池は搭載の電気機械の駆動のため、また火薬の発火のため。ビーコンの発信など。

(ウーメラに戻します)

山根一眞:川口先生、最後のはやぶさとの通信はどんなものか

(川口)最後は…レーザー高度計の機能確認のための指令を送信。またカメラの画像の再生を指令。それは途中で果たせず途中で止まった:22:28:30(日本時間)のこと。

最後の送信コマンドはテレメトリのモード変更。22:25:30(日本時間)のこと。

(長いことごくろうさまというコマンドは打たなかったのですね)打ちたかった、そういう余裕はなかった

(キセノンはどのくらい残っていたか?)(國中)20キロくらい。

中身が入っているかどうかについて、振ってみたらカラーンとかはないか

(國中)ない。科学的にきちんと。夕方が迫っていたこともあり早く帰るべく淡々と作業。

(回収の山田先生には)ヤツもよくやってくれた。「みんな見つけてくれてありがとう」と言っていた。いつもはバカだなんだと言っていたがよくやりましたよ、ヤツも。

喜多:「どんなことがあろうとも持ち帰る」と準備したが結果的に必要なかった準備があったと思うが(流星観測とか)そういう担当の方へのねぎらいを

(川口)流星観測はちゃんとできたと思うがどうか

(國中)結果的にはビーコンが出てくれて1キロ内外に特定できた。ビーコンが出た時点で光跡での計測は必要なくなった。手順の正当性の考証などを進めたい。

サイエンスウィンドウ:はやぶさ突入時の明るさは当初予想より明るかったと思うが理由はわかるか

(川口)正確な話はお時間をいただきたい。マイナス4等というのはカプセルだけのことで、はやぶさ本体でそういう光点がたくさんあれば当然明るくなるだろう。その結果では。

(西田)やはり(当初計画では大気圏へ再突入せず宇宙航行を続ける予定だった)探査機本体の明るさが加わったためにマイナス4等よりずっと明るくなったのだろう。具体的な数値は分光観測などの結果を待って。

(満月の明るさと比べてどのくらいなどといった基準はあるか)近いところで観測した人は「自分の影ができた」と。少なくとも半月以上の明るさだったのでは。

ウーメラからの観測では静止流星ではなく少し光跡を引いた。

(以上)21:30終了