琵琶湖で確認されている泥とガスの噴出。その横には琵琶湖西岸断層(北部)が走っている。はたして、その関連は?

写真拡大

 今年2月、琵琶湖の湖底から「泥やガスの噴出」という奇妙な現象が観測された。それが意味するものとは何か。

 滋賀県琵琶湖環境科学研究センターで水中探査ロボット「淡探」を開発し、湖底調査を続けてきた熊谷道夫氏(現在は立命館大学教授)が次のように解説する。

「私は20年以上前から琵琶湖の湖底環境を調べてきましたが、最初に噴出現象を観測したのは2009年末でした。琵琶湖の北西の1ヵ所で、直径約2mの泥と気体の噴出を見つけたのです。それが1年後の2010年末には9ヵ所に増え、さらに1年がたった今年初めには、数えきれない場所に広がったことを確認しました。それ以降も琵琶湖の水中透視度は低下し続けているので、泥の噴出は一層強まっていると考えられます。しかも、『淡探』で撮影したエリアだけでなく、湖底全域で同じ現象が起きているようなのです」

 浅い川や沼の底では、たまった腐泥からメタンガスがわき上がることは珍しくない。だが今回の観測では、70〜100mという、高圧・低温の環境の湖底から泥やガスが噴き出している。その原因は?

「琵琶湖は、地殻変動によって400万年前頃に三重県伊賀市の辺りで生まれ、その後、100万から40万年前頃に今の位置へ北上してきました。この移動は、太平洋側から日本列島の下へ潜り続けるフィリピン海プレートが、さらに下のマントル層へ落ち込んでいったからだと考えられます」(熊谷氏)

 このプレート移動運動は、琵琶湖全体の地殻を下へ引き込むだけでなく、東西両方向からも強い力で押し縮めている。この圧力が一定の限界を超えると、湖底の地層内部にたまったガスと地下水が、堆積した泥を巻き込んで噴出する。こうした「ベント(強制排出)」が、特殊な地殻構造の琵琶湖では過去に何度も繰り返されてきたようだと、熊谷氏は説明する。

 プレートの移動運動と聞くと大地震を想起しがちだ。過去、琵琶湖を中心とした近隣地域での大地震には、701年「丹波地震」、1185年「元暦地震」(震源:近江・山城・大和、M7.4)、1662年「寛文地震」(震源:琵琶湖南西部、M7.6)などがあり、いずれもM7、8級。

 今回の泥・ガスの噴出は2009年から確認されており、東日本大震災が直接的な影響を及ぼしたわけではない。だが、活動が活発化するひとつの要因だったとしたら……今後も注意が必要だ。

(取材/有賀 訓、ボールルーム)

【関連記事】
富士山、駿河湾周辺で“磁気異常”が発生。東海地震の前兆か?
房総半島で方位磁石の南北が逆転する怪奇現象“磁気異常”が多発
群発地震発生直前、富士山の東側斜面で巨大“噴気”現象が発生か
クジラ漂着が頻発する原因は、海底岩盤のヒビ割れで発生する「磁気異常」
“音のデザイナー”小久保隆「ケータイの緊急地震速報音は3キロヘルツ周辺に音を集約させています」