説明すること事態が不適切?
2018年3月、東京都内のある区立中学校で行われた性教育の授業が不適切だとして、自民党の古賀俊昭都議が都議会で質問し、それを受けて都教育委員会は、関係者への調査・指導を進めるという答弁を行いました。
では「問題」とされた、その授業は、どのようなものだったのでしょうか。
それは、中学3年生を対象に、「思いがけない妊娠をしないためには、産み育てられる状況になるまで性交を避けること」とした上で、避妊について伝えたものでした。授業の事前アンケートでは、「高校生になったらセックスしてもよい」と答えた生徒が44%いたことをふまえ、高校生になると中絶件数が急増する現実や、コンドームは性感染症を防ぐためには有効だが、避妊率では9割を切ることなどを取り上げたと言います。
その中学校がある地域では、10代での思いがけない妊娠・出産や、そこからつらなる貧困の連鎖も目の前の現実として悩みの種になっており、高校に進学しても、すぐに中退してしまうケースなどもあったことから、生徒と保護者のニーズに応じて、この授業を実施したものだったといいます。
しかし、都教育委員会では、この授業について、「性交」「避妊」「人工妊娠中絶」といった言葉を使って、こうした内容を説明した点が 「中学生の発達段階に合わない」 とし、課題があったと指摘しています。
つまり、これらの言葉が「中学校の保健体育の指導内容を定めた、国の学習指導要領にない」という理由で、「中学生の発達段階に合わない」というのです。
また、「学習要領を超える内容は事前に保護者全員に説明し、保護者の理解・了解を得た生徒を対象に個別やグループ指導を実施すべき」であるとして、すべての区市町村の教育委員会に「再発防止」を周知する、ともしています。
いかがでしょうか。みなさんは、この授業を「不適切」だと感じますか?
困っているのは子どもたち、という現状
筆者は、性の健康教育についての講演や勉強会、情報発信を行う非営利団体・NPOピルコンの代表です。
外部講師として依頼を受け、中学校でも性教育講演をさせていただくこともあるのですが、実際、学校側から「性交」「避妊」という言葉を使わないように、とリクエストを受けることもあります。その場合は、「性交」ではなく、中学校の保健体育の教科書にも載っている「性的接触」という言葉を使うのですが、「性的接触は避けよう」とだけ伝え、具体的な避妊方法は扱わないことで、子どもたちが将来、思いがけない妊娠や性感染症を防げるか、不安に思うこともあります。
というのも、中絶を経験した女性の避妊の状況を調べた調査(2007~2008年度厚労科研、876名の中絶患者への調査)では、その約半数が「避妊をしていた」と答えている実態があるからです。なぜ避妊をしたつもりなのに、思いがけない妊娠に至ったかといえば、膣外射精を避妊法として使ったり、コンドームを使用したけれど、その使い方が間違っていた、という事例が少なくありません。
私自身も、講演依頼を受けた高校の生徒を対象に、性の知識を問うアンケートを行ったところ、「膣外射精は有効な避妊法である」(答え:×)、「月経中や安全日の性交なら妊娠しない」(答え:×)などの避妊についての質問の正答率は3割程度にとどまりました。
ピルコンが行っているメール相談では、「生理がきません。まだ高校生で妊娠していないか不安です。将来の夢もあるので学校を辞めるわけにもいきませんが、だれにも相談できません」といった妊娠不安の相談は、日々届きます。「正しい性の知識がないために子ども・若者たちが困っている」という現状をまざまざと感じているのです。