“政治影響力”方程式:チャンスなのにね。

よく話題になる「世代別投票率」についてみておきましょう。

下表は直近の日本の人口(10歳刻みで集計)と、直近の投票率です。これを見ると、20代の人数は40代とか60代の人数と同じなので、特に少ないわけではありません。ただ、投票率はかなり低くシニアの半分以下です。

若い人にしてみれば自分の周りは誰も選挙に行っていないから、「んなもん誰が行ってんの?」って感じかもしれませんが、「実はあなたたち以外はみんな行ってます」という感じです。

年齢区分 人口(万人) 構成比 投票率
9歳以下 1,143 8.9%  
10代 1,243 9.7%  
20代 1,533 12.0% 35.9%
30代 1,892 14.8% 49.0%
40代 1,568 12.3% 60.7%
50代 1,924 15.1% 69.2%
60代 1,577 12.3% 76.2%
70代 1,223 9.6% 73.5%
80代 560 4.4% 49.9%
90代 112 0.9%
100歳以上 3 0.0%  
合 計 12,777 100.0%

一番右の欄は、直近の衆議院議員選挙の投票率です。*1


さらに選挙への意味合いをだすため、選挙権のない19歳以下を除いて集計してみたのが下記です。

“世代小計構成比”として(赤字青字のところ)には、20代と30代の小計、40代と50代の小計、60歳以上の人の小計を計算しています。

年齢区分 人口(万人) 人口構成比 世代小計構成比 投票人口=票の数(万票) 投票人口の構成比 世代小計構成比
20代 1,533 14.9% 550 9.0%
30代 1,892 18.4% 33.3% 928 15.1% 24.1%
40代 1,568 15.3% 951 15.5%
50代 1,924 18.7% 34.0% 1,332 21.7% 37.2%
60代 1,577 15.3% 1,201 19.6%
70代 1,223 11.9% 898 14.6%
80代 560 5.4% 32.7% 279 4.5% 38.8%
合 計 10,275 100.0% 6139 100.0%


真ん中の赤い数字をみると、「もし投票率の差がなければ、この3世代の“政治影響力”は、ほぼ拮抗している」とわかります。現時点では、全体数ではまだ若者は負けていないのです。
・20代+30代
・40代+50代
・60代以上の頭数は、
ほぼ3分の1ずつに分かれていますよね。


ところが、表の右半分の方を見てください。今度は人口に投票率を掛け合わせ、「投票にいく人数」を出したものです。すなわち、ずばり「票の数」*2ですね。

これをみると・・・60歳以上だけで4割近い票が手にはいるとわかります。39歳以下の有権者のことなんか切り捨てて、40代以上の人だけのことを考えてれば75%の票が手にはいります。

こんな数字を見れば、政治家や選挙対策スタッフがどう考えるか、一目瞭然です。


★★★


ちょっと上の表から離れて、「政治影響力」を要素分解してみると、こんな感じでしょうか。


( 人口 × 投票率 )×( ニーズの画一性 × 結束力 )=「政治影響力」


前半はさきほど書いた話です。後半の「ニーズの画一性」は、世代のニーズが画一的だと、票がまとめやすいだろうと思って加えました。

全員が経済的な豊かさを目指していた高度成長期だと、大半が(共産党や社会党ではなく)資本主義を守ると公約する自民党を支持します。けれど豊かになると「格差に反対」の人と「格差があるのは当然」という人に分かれてきます。

一般的に、経済的に豊かになると個々人のニーズが細分化され、政治影響力が分散します。今まで若者が政治影響力を持ちにくかったのは、この理由(大きな流れとして、昔より皆豊かになり、ニーズが多様化したこと)も大きかったと思います。

ただ、最近の若者は経済的に恵まれてないので、再度「ニーズが画一化」し始めています。反対にシニア層はここに来て格差が一気に拡大しているので、若者は相対的に有利になりつつあるのかもしれません。


「結束力」は、いわゆる「組織票」へのつながりやすさを表しています。これまでの中高年は、都市部では企業や労組、地方では農協や共同体を通じて、盤石の結束力を誇ってきました。一方の若者、特に都会の若者は全く連帯しないので、この点ですごく弱かったと思います。

ところがこれも傾向が変わってきました。特に若者がネット上で結束するきっかけが得られるようになったのは大きな変化でしょう。


この式に基づいて、若い世代の政治影響力を向上させようとすれば、これら4要素のいずれかを上昇させればよいということになるのですが・・、

人口は簡単には増えません。ニーズは、「社会に虐げられている若者」(世代間格差問題)というコンセプトで少しはまとまりはじめています。

後は投票率と結束力を上げることが必要です。本当はこのふたつは、若者が得意なITやウェブの活用が効果的な分野です。


携帯電話から指紋で個人認証をして選挙に投票できるようになったら、若者の投票率は大きく変わるはず。いろんな政治課題に関して“イエス&ノー”で答えていったら、「あなたが投票すべきはこの候補者です!」と表示される選挙ゲームもおもしろそう。

他にも、小選挙区ごとにリアルな年代別の有権者数が入力されたプログラムを作り、「○○地域では、20代の有権者のうちあと○%、すなわち、○○人がこの人に投票したら結果が変えられます!」みたいなシミュレーションソフトもいいですよね。そういうのがあれば、「おっ、だったら(選挙)行ってみるか」みたいになるかもしれない。


ちきりんが思うに、若い人が政治に求めるべきことは雇用対策やら福祉、景気対策ではなく、ただただ「電子投票制度の導入」と「ネットによる選挙活動の解禁」にその主張を集中させて実現させることだと思います。ここさえ突破すれば若い人の政治力は2倍にできるかもしれないのです。

今でも20代の人の10%が選挙にいけばそれだけで150万票・・・場所によるけど10人とか20人を当選させられる票数です。

けれど急いだ方がいい。次の何年かが最後のチャンスです。もう一回一番上の表を見てください。人口は急激に減りつつあります。若者が「投票率をあげれば勝てる期間」(=持ち時間)は限られているのです。

画面の右上に「残存Time」がちかちか点滅してて、どんどん減っていく。そういう運動を始めても実現までに数年はかかるから。



早くやったら?



そんなん言うならちきりんがやれよって?


やです。


だってちきりん若者じゃないもん。



じゃね。

*1:投票率は総務省のデータ: http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/data/touhyouritsu19/index.html 5歳刻みのデータだったので中間値を採用してます。80代のところに書いてある投票率は90歳以上等を含む数字

*2:90歳以上の人は投票率ゼロと仮定