クックパッドが釣り情報サイト｢ウミーベ｣買収—— CEOは｢32歳の元音楽家｣

クックパッドは8月24日、釣り情報サイト｢ツリホウ｣などを運営するウミーベを買収したことを明らかにした。ウミーベの渡部一紀（通称、カズワタベ）CEO（32）は、クックパッドで新規事業を創出する。

渡部さんは、Business Insider Japanの取材に｢クックパッドが手を出していない領域を扱いたい。食にまつわるところで、大きな課題を見つけて解決したい｣と話している。

ウミーベは、2014年に福岡市で創業。累計で1億円の資金調達をしている。渡部さんは、月間200万回以上閲覧される｢ツリホウ｣を、わずか4日間で作り上げた。

クックパッドは、そんな渡部さんのサービス開発の手腕を評価し、今回の買収に至った。買収額は非公開。

コミュニティによる課題解決サービスの｢大先輩｣

ウミーベは、従業員9人の釣り分野のスタートアップ。釣り好きの渡部さんが、2014年に福岡市に移住して起業した。ツリホウと釣り人の交流アプリ｢ツリバカメラ｣を運営する。魚の臭いを消臭するハンドソープも発売。300店舗の釣具店で販売され、2017年9月の発売開始から累計で1万個以上を売り上げている。

渡部さんは、クックパッドの新規事業担当の福崎康平さんを通じて、クックパッドと接点を持った。福崎さんは2013年にクックパッドが買収した、マッチングサービスのサイタの元社長。渡部さんが2018年6月に福崎さんと再会し、クックパッドの傘下に入った経緯などを聞くうちに、自社の子会社化の話に後々発展した。

（関連記事：クックパッドがC2Cに本腰。26歳最年少部長が震災で取り憑かれた原体験）

渡部さんにとって、クックパッドは｢大先輩のような存在｣だった。クックパッドとウミーベは、ユーザーのコミュニティで課題を解決する点が共通し、｢いつかはクックパッドのようなサービスに｣と目標にしていた。

クックパッドは、ウミーベが｢釣りを、やさしく。｣というビジョンを、サイトやアプリでわかりやすく体現している点を評価し、その手腕をクックパッドで生かしてほしいと、買収に至ったという。渡部さんは、新規事業を担当し、｢クックパッドの手の届いていないところで、食にまつわる大きな課題を見つけて、解決したい｣と話す。

音楽家から起業家、そして初の会社員へ

渡部さんは、9月からウミーベのCEOを兼務しながら、クックパッドの新規事業の分野に配属になる。渡部さんにとって、今回は初めての会社員経験になる。｢32歳にして新入社員です｣と渡部さん。｢スタートアップは（バックオフィス業務など）足りないところばかりなので、大きな組織を内側から見てみたい｣と組織のマネジメントを学びたいという。

渡部さんはこれまでに起業家、音楽家、フリーランスを経験してきた。音大出身で、クラブジャズバンドの活動を24歳まで続けた。

音楽を志したのは｢芸術系には正解がないから｣。自身は高校生の時から、｢みんなが同じ正解に向かうのが苦手だった。例えば、センター試験は何十万人が同じ答えを書いている。なぜ、自分も同じことを書かなくてはいけないのか｣と、ふと疑問に思うタイプだった。

音楽活動を終えた後、2011年にTwitterで知り合った仲間とGrowを創業。個人のブログやサイト上で、｢いいね｣をするように、個々にチップを送り合うサービスを運営していた。その後、フリーランスを経て、ウミーベを創業した。

起業の願望は中学生の時からあったが、特にWebサービスに興味を持ったのは、ミクシィがきっかけだった。渡部さんの大学時代はミクシィの全盛期。｢大学の学内のパソコンルームに行くと、みんなの画面が全部、ミクシィのオレンジ色だった｣、ネット上でコミュニティが広がる流れを目の当たりにした。

渡部さんはミクシィを引き合いに、｢今のクックパッドは、料理という領域で当時のミクシィに似た立ち位置になっている｣と捉える。

クックパッドの月間ユーザーは5500万人を超え、日常のプラットフォームに成長しているからだ。

｢クックパッドには、サービスの開発、運営のノウハウがクックパッドに蓄積されている。子会社と親会社の関係性で、ダイレクトにそれを吸収したい｣と、クックパッドの“新入社員”として、期待に胸を膨らませている。

（文・撮影、木許はるみ）