●知財高裁第3部が出した進歩性についての判決の更新

 知財高裁第3部(裁判長裁判官 飯村敏明)から進歩性について、幾つか出されていましたので、『●知財高裁第3部が出した進歩性についての判決』を更新しておきます。

(1) 2/9の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20110209
● 『平成22(行ケ)10122 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」平成23年01月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110131155400.pdf)


・・・『すなわち,一般に,当該発明の容易想到性の有無を判断するに当たっては,当該発明と特定の先行発明とを対比し,当該発明の先行発明と相違する構成を明らかにして,出願時の技術水準を前提として,当業者であれば,相違点に係る当該発明の構成に到達することが容易であったか否かを検討することによって,結論を導くのが合理的である。


 そして,発明の相違点に係る構成に到達することが容易であったか否かの検討は,当該発明と先行発明との間における技術分野における関連性の程度,解決課題の共通性の程度,作用効果の共通性の程度等を総合して考慮すべきである。


 この点は,当該発明の相違点に係る構成が,数値範囲で限定した構成を含む発明である場合においても,その判断手法において,何ら異なることはなく,当該発明の技術的意義,課題解決の内容,作用効果等について,他の相違点に係る構成等も含めて総合的に考慮すべきであることはいうまでもない。』、等と判示。


(2) 2/7の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20110207
●『平成22(行ケ)10260 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟直噴エンジン平成23年01月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110201093821.pdf)について取り上げます。


・・・『しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,出願に係る発明における特許請求の範囲と先行発明との間で,技術的な性質を同じくする発明特定事項について,出願に係る発明の方が先行発明より,広範な範囲を対象として規定しているような場合には,特段の事情のない限り,その発明特定事項に関する相違点には当たらない。したがって,相違点を看過したことにはならない。』、等と判示。


(3)2/1の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20110201
●『平成22(行ケ)10075 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「換気扇フィルター及びその製造方法」平成23年01月31日 知的財産高等裁判所 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110131153408.pdf)

…『(1) 容易想到性判断と発明における解決課題

 当該発明について,当業者が特許法29条1項各号に該当する発明(以下「引用発明」という。)に基づいて容易に発明をすることができたか否かを判断するに当たっては,従来技術における当該発明に最も近似する発明(「主たる引用発明」)から出発して,これに,主たる引用発明以外の引用発明(「従たる引用発明」)及び技術常識等を総合的に考慮して,当業者において,当該発明における,主たる引用発明と相違する構成(当該発明の特徴的部分)に到達することが容易であったか否かによって判断するのが客観的かつ合理的な手法といえる。


 当該発明における,主たる引用例と相違する構成(当該発明の構成上の特徴)は,従来技術では解決できなかった課題を解決するために,新たな技術的構成を付加ないし変更するものであるから,容易想到性の有無の判断するに当たっては,当該発明が目的とした解決課題(作用・効果等)を的確に把握した上で,それとの関係で「解決課題の設定が容易であったか」及び「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であったか否か」を総合的に判断することが必要かつ不可欠となる。


 上記のとおり,当該発明が容易に想到できたか否かは総合的な判断であるから,当該発明が容易であったとするためには,「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」ことのみでは十分ではなく,「解決課題の設定が容易であった」ことも必要となる場合がある。すなわち,たとえ「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」としても,「解決課題の設定・着眼がユニークであった場合」(例えば,一般には着想しない課題を設定した場合等)には,当然には,当該発明が容易想到であるということはできない。


 ところで,「解決課題の設定が容易であったこと」についての判断は,着想それ自体の容易性が対象とされるため,事後的・主観的な判断が入りやすいことから,そのような判断を防止するためにも,証拠に基づいた論理的な説明が不可欠となる。


 また,その前提として,当該発明が目的とした解決課題を正確に把握することは,当該発明の容易想到性の結論を導く上で,とりわけ重要であることはいうまでもない。』、と判示。


(4)1/13の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20110113
●『平成22(行ケ)10110  審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「エレベータ」平成22年12月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101228140647.pdf)

・・・『以上のとおり,本願発明は,異常事態が発生した場合に,巻上ロープをトラクションシーブに食い込ませ,シーブとロープとの間に十分な把持力が得られるようにして,エレベータの機能及び信頼性を保証させるものであり,異常事態が発生したときにおける,一時的な把持力の確保を図ることを解決課題とするものである。


 また,引用文献1記載の発明2も,本願発明と同様に,何らかの原因よって高摩擦材が欠落するような異常事態が生じた場合を想定し,その際,ワイヤロープがU字形またはV字形のトラクションシーブ溝の接触部で接触し,この部分で摩擦力を得ることによって,エレベータ積載荷重を確保させることを解決課題とする発明である。


 これに対して,引用文献2記載の技術は,上記のような異常事態が発生した場合における把持力の確保という解決課題を全く想定していない。


 そうすると,本願発明における引用文献1記載の発明2との相違点に関する構成に至るために,引用文献2記載の技術を適用することは,困難であると解すべきである。』、と判示。


(5)1/8の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20110108
●『平成22(行ケ)10229 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「プラスチック成形品の成形方法及び成形品」平成22年12月28日 知的財産高等裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101228154841.pdf)。

・・・『刊行物1記載の発明を,従来周知の事項に適用することによって,本願発明の相違点に係る構成に想到することが容易であるとの説明をしていると理解される。


 そうすると,審決は,刊行物1記載の発明の内容を確定し,本願発明と刊行物1記載の発明の相違点を認定したところまでは説明をしているものの,同相違点に係る本願発明の構成が,当業者において容易に想到し得るか否かについては,何らの説明もしていないことになり,審決書において理由を記載すべきことを定めた特許法157条2項4号に反することになり,したがって,この点において,理由不備の違法がある。


 これに対し,被告は,審決では,本願発明について,当業者が刊行物1記載の発明,及び,従来周知の金型に基づいて容易に発明をすることができたと判断したと理解されるべきであり,刊行物1記載の発明と上記従来周知の金型とを組み合わせて1つの発明を構成するに当たり,刊行物1記載の発明を上記金型に適用しても,上記金型を刊行物1記載の発明に適用しても,組み合わせた結果としての発明に相違はないから,理由不備の違法はないと主張する。


 しかし,被告の上記主張は,採用の限りでない。


 すなわち,仮に,審判体が,本願発明について,当業者であれば,金型に係る特定の発明を基礎として,同発明から容易に想到することができるとの結論を導くのであれば,金型に係る特定の発明の内容を個別的具体的に認定した上で,本願発明の構成と対比して,相違点を認定し,金型に係る特定の発明に,公知の発明等を適用して,上記相違点に係る本願発明の構成に想到することが容易であったといえる論理を示すことが求められる。


 金型に係る特定の発明を主引用例発明として用い,これを基礎として結論を導く場合は,刊行物1記載の発明を主引用例発明として用い,これを基礎として結論を導く場合と,相違点の認定等が異なることになり,本願発明の相違点に係る構成を容易に想到できたか否かの検討内容も,当然に異なる。


 そうすると,刊行物1記載の発明を主引用例発明としても,従来周知の金型を主引用例発明としても,その両者を組み合わせた結果に相違がないとする被告の主張は,採用の限りでない。』、と判示。


(6)1/7の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20110108
●『平成22(行ケ)10187 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「伸縮可撓管の移動規制装置」平成22年12月28日 知的財産高等裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101228153609.pdf)。

 ・・・『本願補正発明が,特許法29条2項所定の要件を備えているか否かを判断するに当たっては,本願補正発明とこれに最も近い特定の引用発明とを対比し,本願補正発明の相違点に係る構成(技術的事項)について,当業者の出願時の技術常識等に照らして,引用発明から出発して容易に到達できたか否かを検討することによって判断される。ところで,以下のとおり,引用発明には,本願補正発明が目的としている技術的事項(「解決課題」及び「課題を達成するための手段」)についての記載は全く存在しないから,引用発明を基礎として,本件補正発明に至ることはないというべきである。

 ・・・省略・・・

(1) 事実認定

 ・・・省略・・・

 特許法29条2項への該当性を肯定するためには,先行技術から出発して当該発明の相違点に係る構成に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の相違点に係る構成に到達するためにしたはずであるという程度の示唆等の存在していたことが必要であるというべきところ,刊行物1の段落【0040】の記載は,刊行物2に記載された技術を適用することについて,「相違点に係る構成に到達したはずであるという程度の示唆等」を含む記載ということはできない。』、と判示。


(7)5/28の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20100528
●『平成21(行ケ)10361 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「耐油汚れの評価方法」平成22年05月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100527145701.pdf)

・・・『しかし,本願発明は,引用刊行物Aと解決課題や発明の技術思想において異なるものであり,これに,同様に本願発明と解決課題や発明の技術思想の異なる引用刊行物Cの技術事項の一部を適用して本願発明に到達することはないと解すべきである。その理由は,以下のとおりである。

 ・・・省略・・・

 以上を総合すると,引用刊行物Cからは,耐油汚れの評価に当たって,時間,労力,価格を抑え,手順を簡略化しようとする本願発明の解決課題についての示唆はない。


 引用刊行物C記載の発明における,「乾燥工程を経由しない滴下」という操作は,本願発明における同様の操作と,その目的や意義を異にするものであって,引用刊行物C記載の発明は,本願発明と解決課題及び技術思想を異にする発明である。


 前記のとおり,引用刊行物A記載の発明は,擬似油汚れについて特定量を滴下し乾燥工程を設けないとする相違点(い)に係る構成を欠くものである。同発明は,本願発明における時間,労力,価格を抑えることを目的として,手順を簡略化しようとする解決課題を有していない点で,異なる技術思想の下で実施された評価試験に係る技術であるということができる。


 このように,本願発明における解決課題とは異なる技術思想に基づく引用刊行物A記載の発明を起点として,同様に,本願発明における解決課題とは異なる技術思想に基づき実施された評価試験に係る技術である引用刊行物C記載の発明の構成を適用することによって,本願発明に到達することはないというべきである。


 本願発明は,決して複雑なものではなく,むしろ平易な構成からなる。したがって,耐油汚れに対する安価な評価方法を得ようという目的(解決課題)を設定した場合,その解決手段として本願発明の構成を採用することは,一見すると容易であると考える余地が生じる。本願発明のような平易な構成からなる発明では,判断をする者によって,評価が分かれる可能性が高いといえる。


 このような論点について結論を導く場合には,主観や直感に基づいた判断を回避し,予測可能性を高めることが,特に,要請される。その手法としては,従来実施されているような手法,すなわち,当該発明と出願前公知の文献に記載された発明等とを対比し,公知発明と相違する本願発明の構成が,当該発明の課題解決及び解決方法の技術的観点から,どのような意義を有するかを分析検討し,他の出願前公知文献に記載された技術を補うことによって,相違する本願発明の構成を得て,本願発明に到達することができるための論理プロセスを的確に行うことが要請されるのであって,そのような判断過程に基づいた説明が尽くせない限り,特許法29条2項の要件を充足したとの結論を導くことは許されない。


 本件において,審決は,上記のとおり,本願発明と引用刊行物A記載の発明と対比し,擬似油汚れについて特定量を滴下し,乾燥工程を経由しないで水洗するとの構成を相違点と認定している。


 しかし,審決は,本願発明と,解決課題及び解決手段の技術的な意味を異にする引用刊行物A記載の発明に,同様の前提に立った引用刊行物C記載の事項を組み合わせると本願発明の相違点に係る構成に到達することが,何故可能であるかについての説明をすることなく,この点を肯定したが,同判断は,結局のところ,主観的な観点から結論を導いたものと評価せざるを得ない。


 以上のとおり,審決の示した理由を,結論を導く論理過程において十分な説明がされているとはいえない。その他,被告は,縷々主張するが,いずれも採用の限りでない。』、等と判示。


(8)9/29の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20100929
●『平成22(行ケ)10036 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「医療用器具」平成22年09月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100928161230.pdf)

・・・『 発明の特徴は,当該発明における課題解決を達成するために採用された,当該発明中これに最も近い先行技術との相違点たる構成中に見いだされる。


 したがって,当該発明の容易想到性の有無を判断するに当たっては,先行技術と対比した,当該発明の課題を達成するための解決方法がどのようなものであるかを的確に把握することが必要となる。


 そして,当該発明が特許されるか否かの判断に当たっては,先行技術から出発して当該発明の相違点に係る構成に至ることが当業者において容易であったか否かを検討することになるが,その前提としての先行技術の技術内容の把握,及び容易であったか否かの判断過程で,判断の対象であるべきはずの当該発明の「課題を達成するための解決手段」を含めて理解する思考(事後分析的な思考)は,排除されるべきである。

 
 そして,容易であったか否かの判断過程で,先行技術から出発して当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという程度の示唆等の存在していたことが必要であるというべきである(知的財産高等裁判所平成20年(行ケ)第10096号平成21年1月28日判決参照)。』、等と判示。


(9)今年の8/11の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20100811
●『平成21(行ケ)10164 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「携帯型電子計算機のキャリングケース」平成22年01月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100128171116.pdf)

・・・『ア 前記(1)イのとおり,甲3発明の目的,作用効果は,収容すべき物品の形状に制約されることなく種々の形状をもった物品を容易に収容することができること,及び不要時には小さくコンパクトにまとめることができることの両者である。


 そうすると,仮に,甲2発明の周回状枠材(保持すべき携帯型電子計算機を枠内空間に納める大きさの周回状をなす線材よりなる枠材)を甲3発明に適用するならば,カバン本体の大きさ,形状が,周回状枠材によって規制されることとなるから,上記の目的,作用効果を達成することができなくなる。


 したがって,甲3発明に甲2発明の周回状枠材を採用することには,阻害要因があり,これを当業者が容易に想到することはできないというべきである。』、等と判示。


(10)2/1の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20090201
●『平成20(行ケ)10096 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「回路用接続部材」平成21年01月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090129104737.pdf

・・・『(1) 特許法29条2項が定める要件の充足性,すなわち,当業者が,先行技術に基づいて出願に係る発明を容易に想到することができたか否かは,先行技術から出発して,出願に係る発明の先行技術に対する特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断される。


 ところで,出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。


 そして,容易想到性の判断の過程においては,事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならないが,そのためには,当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって,その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。


 さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるというべきであるのは当然である。』、等と判示。


(11)3/26の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20090326
●『平成20(行ケ)10153 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「任意の側縁箇所から横裂き容易なエァセルラー緩衝シート」平成21年03月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090326100032.pdf)

・・・『(ア) 容易想到性の判断について

 特許法29条2項が定める要件の充足性,すなわち,特許発明について,当業者(その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者)が同条1項各号に該当する発明(以下「引用発明」という。)に基づいて容易に発明をすることができたか否かは,通常,引用発明のうち,特許発明の構成とその骨格において共通するもの(以下「主たる引用発明」という。)から出発して,主たる引用発明以外の引用発明(以下「従たる引用発明」という。)及び技術常識ないし周知技術(その発明の属する技術分野における通常の知識)を考慮することにより,特許発明の主たる引用発明に対する特徴点(主たる引用発明と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として,判断されるべきものである。


 ところで,特許発明の特徴点(主たる引用発明と相違する構成)は,特許発明が目的とした課題を解決するためのものであるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,特許発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,特許発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。


 そして,容易想到性の判断の過程においては,事後分析的な思考方法,主観的な思考方法及び論理的でない思考方法が排除されなければならないが,そのためには,特許発明が目的とする「課題」の把握に当たって,その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。


 さらに,特許発明が容易想到であると判断するためには,主たる引用発明,従たる引用発明,技術常識ないし周知技術の各内容の検討に当たっても,特許発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,特許発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であると解するのが相当である(知的財産高等裁判所平成20年(行ケ)第10096号事件平成21年1月28日判決参照)。』、等と判示。


(12)4/1の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20090401
●『平成20(行ケ)10305 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟ヒートシール装置」平成21年03月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090326103240.pdf)

・・・『ウ 容易想到性の検討

 本願発明と引用発明の相違点は,「本願発明は,合成樹脂溜まりを形成し得る溝が,シール帯域の外側に隣接して設けられているのに対し,引用発明ではシール帯域の端部に設けられている」点にある(争いない)。


 本願発明と引用発明との相違は,合成樹脂溜まりを形成する「溝」の設置場所のみであって,その構成における相違点は,一見すると,極めて僅かであるとの印象を与える。


 しかし,上記のとおり,「溝」の設置場所の相違点によって,本願発明においては,シール帯域から流出した合成樹脂で容器内側に波打った溶融樹脂ビードが形成されないようにする解決手段を提供するのに対して,引用発明においては,シール帯域からの合成樹脂の流れ出しを規制してシール帯域の樹脂量を確保する解決手段を提供するものであるという点で,解決課題及び解決手段において,大きな相違があるというべきである。


 そこで,引用発明を出発点として,周知例(甲2,甲3)を適用することによって,本願発明が容易に想到することができたか否かを検討する。


 引用発明は,シール帯域内に合成樹脂溜まり部を設けて,熱融着に寄与するポリエチレン樹脂の量を確保することにより,「接合強度を維持」するようにしたものであるから,単に,「溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部を非溶着の熱シールされない部分とする」ことを開示する周知例(甲2,3)を指摘することによって,その周知の技術を適用して,引用発明とは異なる解決課題と解決手段を示した本願発明の構成に至ることが容易であるということはできない。


 引用発明は,接合強度維持を目的とした技術であるのに対し,周知技術は,接合強度維持に寄与することとは関連しない技術であるから,本願発明と互いに課題の異なる引用発明に周知技術を適用することによって「本願発明の構成に達することが容易であった」という立証命題を論理的に証明できたと判断することはできない。』、等と判示。


(13)5/3の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20090503
●『平成20(行ケ)10121 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「切替弁及びその結合体事件」平成21年04月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090427160338.pdf)

・・・『まず,そもそも,審決は,本願発明に係る容易想到性の判断に関しては,単に,「引用発明と引用文献2に記載された発明は,蛇口に連絡する切換弁において,水路切換機構を回動させる手段である点で共通するものであるから,引用発明において,回動伝達部にラチェット機構を用いることで相違点イに係る本願発明の構成とすることは,当業者に容易である」との説示をするのみであって,引用発明2に着目した実質的な検討及び判断を示していない。


 特許法157条2項4号が,審決に理由を付することを規定した趣旨は,審決が慎重かつ公正妥当にされることを担保し,不服申立てをするか否かの判断に資するとの目的に由来するものである。


 特に,審決が,当該発明の構成に至ることが容易に想到し得たとの判断をする場合においては,そのような判断をするに至った論理過程の中に,無意識的に,事後分析的な判断,証拠や論理に基づかない判断等が入り込む危険性が有り得るため,そのような判断を回避することが必要となる(知財高等裁判所平成20年(行ケ)第10261号審決取消請求事件・平成21年3月25日判決参照)。


 そのような点を総合考慮すると,被告が,本件訴訟において,引用発明と引用発明2を組み合わせて,本願発明の相違点イに係る構成に達したとの理由を示して本願発明が容易想到であるとの結論を導いた審決の判断が正当である理由について,主張した前記の内容は,審決のした結論に至る論理を差し替えるものであるか,又は,新たに論理構成を追加するものと評価できるから,採用することはできない。』、等と判示。


(14)5/4の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20090504
●『平成20(行ケ)10261 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「上気道状態を治療するためのキシリトール調合物事件」平成21年03月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090326102834.pdf)

・・・『特許法29条2項が定める要件は,特許を受けることができないと判断する側(特許出願を拒絶する場合,又は拒絶を維持する場合においては特許庁側)が,その要件を充足することについての判断過程について論証することを要する。


 同項の要件である,当業者が先行技術に基づいて出願に係る発明を容易に想到することができたとの点は,先行技術から出発して,出願に係る発明の先行技術に対する特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断されるべきものであるから,先行技術の内容を的確に認定することが必要であることはいうまでもない。


 また,出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,当該発明が目的とした課題を解決するためのものであることが通常であるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。


 そして,容易想到性の有無の判断においては,事後分析的な判断,論理に基づかない判断及び主観的な判断を極力排除するために,当該発明が目的とする「課題」の把握又は先行技術の内容の把握に当たって,その中に無意識的に当該発明の「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことのないように留意することが必要となる。


 さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等の存在することが必要であるというべきである(知財高等裁判所平成20年(行ケ)第10096号審決取消請求事件・平成21年1月28日判決参照)。

 ・・・省略・・・

(イ) この点について,成分や用途に係る医薬品等に係る発明が存在する場合に,その投与量の軽減化,安全性の向上等を図ることは,当業者であれば,当然に目標とすべき解決課題といえるであろうし,そのための手段として格別の技術的要素を伴うことなく,課題を解決することができる場合もあり得よう。


 しかし,そのような事情があるからといって,審決が,本願発明の相違点1の構成は,引用例2の記載内容から容易であるとの理由を示して結論を導いている場合に,その理由付けに誤りがある以上,上記のような事情が存在することから直ちに審決のした判断を是認することは許されない。


 けだし,審決書の理由に,当該発明の構成に至ることが容易に想到し得たとの論理を記載しなければならない趣旨は,事後分析的な判断,論理に基づかない判断など,およそ主観的な判断を極力排除し,また,当該発明が目的とする「課題」等把握に当たって,その中に当該発明が採用した「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことを回避するためであって,審判体は,本願発明の構成に到達することが容易であるとの理解を裏付けるための過程を客観的,論理的に示すべきだからである。』、等と判示。