「航空業界が失敗から学ぶ仕組みを構築している」話

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TJO @TJO_datasci

「航空業界が失敗から学ぶ仕組みを構築している」話、もうちょっと詳しく書くと航空事故はどの国でも独立した事故調査委を置かねばならず、刑事・民事係争に利用されないという免責のもとで、必ず真実に迫り事故を再発させないというただその一点のみのために全ての努力が注ぎ込まれるようになっている

2018-07-01 22:21:02
TJO @TJO_datasci

これは言い換えると「その努力をしない国の飛行機は自由に地球の空を飛ぶことすら許されない」。例えば、一時期事故調査体制が破綻してたインドネシアのエアラインはその間EU圏内飛行が禁止されていた。「いつ落ちるか分からない上に落ちても原因究明をやらない国の飛行機はEU圏内を飛ぶ資格がない」と

2018-07-01 22:23:50
TJO @TJO_datasci

だがそれらの国際的な事故調査体制の確立までには多くの犠牲を伴った。1960年代はまだブラックボックス搭載が義務化されていなかった。コメット連続墜落事故で検証のための大掛かりな再現実験の必要性が広く認識された。大韓航空機撃墜事件のように国際政治の取引にされたことすらあった

2018-07-01 22:25:56
TJO @TJO_datasci

1977年のテネリフェ島衝突事故ではスペイン・オランダ両国の事故調査報告書が対立した。DC10がパリで落ちた時はその前にFAAとメーカーとの癒着があって防げる事故を防がなかったと糾弾された。そういう多くの「あの時こうしていれば…」を積み重ねた結果として、現在の国際的な航空事故調査体制がある

2018-07-01 22:29:30
TJO @TJO_datasci

こうして、現在の飛行機は「必ず昨日よりは今日はより安全に飛ぶ」ように不断の努力がなされている。B737のラダーリバーサルによる連続墜落事故は、3機目が辛うじて生還した際に即座に調査が入ったことで原因究明が成り、その後B737に乗った多くの人命を守った。この構図は今も変わらない

2018-07-01 22:31:43
TJO @TJO_datasci

過去には「機体洗浄時にピトー管を塞ぐシールを貼ったまま剥がすのを忘れた」だけで落ちた飛行機もいれば、「与圧弁を整備士が開けっ放しにしたのを忘れたまま飛んで飛行中に酸欠になって」落ちた飛行機もある。どれほど愚かしく下らない理由で落ちたとしても、その教訓は全世界に共有される

2018-07-01 22:34:23
TJO @TJO_datasci

例えば、機体洗浄時にピトー管をシールで塞ぐ場合にはそのシールに直立する旗が付くように改められた。これにより、剥がし忘れはなくなったという。エールフランス機がピトー管凍結によって失速して落ちた時は、当該ピトー管のメーカーの資格自体が取り消され、ピトー管凍結は減ったそうな

2018-07-01 22:37:38
TJO @TJO_datasci

空中衝突防止に使われる航空電子機器のTCASについても、静岡沖でJAL機同士の危険なニアミス(一説には20m差だったと言われる)があるまでは、TCASの警報と管制官の指示が食い違った場合は「管制官に従え」が絶対基準だった。だがこの一件以降「管制官は間違え得るのでTCASに従え」が国際基準になった

2018-07-01 22:41:02
TJO @TJO_datasci

この教訓が報告書としてまとめられる直前に、スイス上空で悲惨な空中衝突事故が起きてしまった。子供多数が乗ったチャーター機と貨物機が出会い頭空中衝突し全員死亡。これもまた管制官が間違え、TCASに片方の飛行機が従わなかった結果だった(なお間違えた管制官も後年犠牲者の遺族に刺殺された)

2018-07-01 22:43:46
TJO @TJO_datasci

このように、数え切れないほど多くの悲劇と屍を積み重ねた上に、現代の空の旅の安全は成り立っている。単なる乗客であっても、気付いたことはためらわず乗務員に申し出るようにと推奨されているそうなので、何か気になることがあったら是非どうぞ

2018-07-01 22:46:20
TJO @TJO_datasci

というのは、飛行機の天井の大半が吹き飛びながらも辛うじてほぼ全員が生還したアロハ航空機の事故では、乗客の1人が搭乗時に天井に入った大きなヒビに気付いたものの、事故になるまで誰にも言わなかったことが記録されている。この乗客が指摘していたら、また結果は違ったかもしれない

2018-07-01 22:48:31
TJO @TJO_datasci

中には迷宮入りした事故も多い。近年だと失踪したマレーシア航空機がその代表だろう。1996年に落ちたTWA800便もそうなりかけていた。だが米運輸安全委(NTSB)は諦めなかった。比較的浅い海に散らばっていた破片を全て集め、莫大な時間をかけて組み合わせ機体を復元するという大変な取り組みを完遂した

2018-07-01 22:53:25
TJO @TJO_datasci

その結果、機内の中央燃料タンクが「内側から」花開くように爆発していたことが判明した。これでテロやミサイルと言った可能性はなくなった。だが普通は燃料タンクが自ら爆発するなどということはあり得ない。NTSBはあらゆるデータを集めて残りの可能性を探った

2018-07-01 22:54:55
TJO @TJO_datasci

当時掴めていたのは「中央燃料タンクの配線内にショートしている箇所があった」こと。だが灯油系のジェット燃料は常温で火を付けても引火しない(ナショジオの検証番組で実演していたが、ジェット燃料に直接火の付いたマッチを落としてもマッチの火が消えるだけ)。これでは中央燃料タンクは爆発しない

2018-07-01 22:58:15
TJO @TJO_datasci

だが、NTSBの調査でさらに詳しいことが分かった。「当時中央燃料タンクはほぼ空っぽだった(両翼の燃料タンクの分で大西洋を渡れたため)」「当該機は直前に真夏の炎天下で長時間エアコンを付けたまま駐機していた」「エアコンは中央燃料タンクの真上にあった」これらを組み合わせて分かることは…

2018-07-01 23:00:10
TJO @TJO_datasci

エアコンの熱で温められた中央燃料タンクの中身がほぼ空っぽなら、灯油系ジェット燃料であっても気化している(=引火可能)かもしれない。そこで全く同一の条件の廃棄予定の飛行機を用意し、そこで中央燃料タンク内の配線にショートする箇所を作って電流を流したら…物の見事に爆発した。これで確定

2018-07-01 23:02:26
TJO @TJO_datasci

結局、事故から6年後に最終報告書が出て、その中で「燃料タンクは燃料が不要であっても空っぽにはしない」「タンク内配線の絶縁状態は細かくチェックする」などの対策が提言され、全ての航空機メーカーとエアラインはこれに従った。これ以後中央燃料タンクが爆発するという大事故は一切なくなった

2018-07-01 23:04:46
TJO @TJO_datasci

航空事故の歴史は悲しい話が多いが、一方で国際的な航空事故調査体制は「一度起こした事故は二度と起こさない」ことを常に目指しており、基本的には実際に一度起きた事故は二度は起きないように努力されている。その取り組み方には、他業界の人間であっても学ぶところは多大であるように思う

2018-07-01 23:08:30
TJO @TJO_datasci

ああそうそう、最後に一つだけ嫌なことを書いておくと、遥か昔から繰り返されてきたのに未だに起きる航空事故は、"CFIT" (Controlled Flight Into Terrain) つまりパイロットの勘違いや過信などで真っ直ぐ山や地面に突っ込む事故。そしてもう一つ最近多い事故は。。。

2018-07-01 23:24:06
TJO @TJO_datasci

「若手パイロットに対する手動操縦の訓練不足で、ちょっとした異常時にパニクって間違った操縦をして落ちる」事故。代表的なのがエールフランス447便とシンガポール付近で落ちたエアアジア機の事故(失速時は機首下げしなければならないのに誤って副操縦士が機首下げ操作し続けてそのまま落ちた)

2018-07-01 23:26:34
TJO @TJO_datasci

最後はやっぱりヒューマンエラー、というわけで航空業界こそ「人工知能による完全自動操縦」が期待されているらしいですよ、という話を付け加えておきます

2018-07-01 23:27:41
TJO @TJO_datasci

ただし、1994年に旧名古屋空港で中華航空のA300が落ちた時は、ヒトの操作よりも機械の操作をヒューマンエラー防止のために優先する仕組みが災いし、双方の操作が干渉した結果空港上空で失速して真下に落っこちるという大事故になった。ヒューマンエラーは機械を優先したからと言って防げるものでもない

2018-07-01 23:32:54
TJO @TJO_datasci

「人工知能」が飛行機の操縦を主に担う時代になった後であっても、国際的な航空事故調査体制による不断の努力は連綿と続けられていくのだろうと思うし、そうあり続けるよう願っている。いつでも、より明日は、皆がより安全に飛べるように

2018-07-01 23:34:22
TJO @TJO_datasci

おっと、最後の最後にもう一つだけ。航空無線には今でも音質の悪い昔ながらのAMが使われる。理由は簡単で、同じ周波数帯で複数人が同時に発信するとピュー?というスキール音という混信を示す音が鳴る。これで誰かが助けを求めていたらすぐ分かるというわけだ。こんなところにも安全上の工夫がある

2018-07-01 23:48:42
TJO @TJO_datasci

ところが。1977年のテネリフェ空港衝突事故ではそのスキール音のために最後に正面衝突を回避することにつながり得た交信が阻害され、互いに「だろう運転」を誘い、正面衝突して550名以上の犠牲者を出してしまった(未だに史上最多)。安全のための取り組みが時に牙を剥く、それが航空事故の歴史なのだ

2018-07-01 23:51:57