国立大学職員日記
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国立大学職員日記:記事一覧




■はじめに
 国立大学事務職員という職種は有名では無いにしても、言われてみれば「あぁ、そういうことやっている人達も当然いるんだよね」くらいには思い付いてもらえるものと思います。しかし具体的にどういうことをやっているのかと聞くと、これは同じ大学にいて日常的に接している大学教員ですら実はよく分かっていないのではないでしょうか。
 よく国立大学事務職員の採用試験パンフレット等に「事務職員の1日」みたいな項目があって事務職員の仕事内容が紹介されているのを見かけます。別に嘘は書いていないと思いますが、いかんせん広報向けにまとめたデータなのでインパクトが弱いというか、実際の業務内容についての具体的なイメージをつかむのには不十分な気が前からしていました。
 そこで本エントリーでは、過去に自分がつけていた業務内容の実録を3ヵ月分、表にしてまとめて見ました。あくまで「自分の場合」の記録なので、これでもって全国立大学事務職員が「普段何をやっているのか」が分かる訳ではありません。しかし、これから国立大学事務職員を目指す方々や、国立大学事務職員が普段何をやっているのか知りたい方々に、具体例の一つとして参考になれば幸いです。

■データについて
 下記に紹介するデータは、自分が平成21年6月から8月までの約3ヶ月分に取った実録の業務処理記録です。ちょっと古いデータで恐縮なのですが、現在はもうこのような記録を取っていないため、当時の記録で勘弁してください(今から考えると当時何を思ってこんなものを記録していたのか、自分でもよく分かりません)。
 また自分の場合、平成21年は「採用4年目」にあたります。もう「新米」とは言われないにしても、まだいろいろと業務内容を覚えている最中、という感じでしょうか?今から見直すとかなり恥ずかしい部分もあるのですが、雑感は別にまとめるとして、とりあえずご覧ください。












■表中の業務についての説明

(旅行命令簿)
 いわゆる「出張」の処理のことです。自分のいる大学では旅行申請は全てネットワーク上で処理をするため、自分はシステムにログインして新たに上がってきた申請をチェックしていました。当時の部署では、たしか年間2,500件くらいの旅行申請が上がり、これを全部自分が内容確認していました。またこの2,500件とは別に500件くらい「学外機関が支弁する出張」なんかもあり、これは紙媒体で処理しなくてはならないため、非常に面倒臭かった記憶があります。
 「出張の内容確認」と言っても、事務の修正が一つも入らないような申請はほぼありません。用務内容、用務期間、用務先の建物名称や市町村名、支給内容の妥当性、使用する財源での注意事項、等々、「たたき台を各先生(あるいは研究室)に作ってもらって、それを使って事務が旅行命令を完成させる」と言った方が適切だったと思います。当然毎日でてくる申請をその日の内に捌ききることも出来ず、多いときで120件くらい未処理案件を貯めてよく怒られていました。

(兼業処理)
 ちょっと意味は変わりますが、兼業は一種の「アルバイト」と思ってください。例えば学会での研究発表などは業務として従事しますが、謝金などを受け取って講演会で公演をするような場合は「兼業」に該当し、それに従事してよいかを部局長に諮らなければなりません。
 この「兼業」の委嘱期間や従事日・従事時間、報酬額、どのタイプの兼業に該当するか、等を調べて決裁にかけるのが自分の仕事でした。これも自分のいる部署では案件が多く、その総数は不明でしたが細かいのまで入れれば旅行命令簿並みにあったはずです。
 また兼業の性質上、この処理は外部組織に報酬額等を確認することが多かったです。外部組織とはあまりやり取りをしたがらない職員さんもいますが、自分はむしろそういう風に他機関と話ができる業務がなぜか好きだったので、これはあまり苦にならなかった記憶があります。ただし、量の多さには辟易していました。
 あと兼業の処理は内部規則が複雑で、これを間違えてやっぱりよく怒られていました。

(大学院調整手当)
 大学によってはこの名称ではないところもあるかもしれませんが、大体どこの国立大学にも存在する手当のはずです。早い話が「大学院の講義を担当していたり大学院生の指導を担当している教員」に対して支給される手当です。これは業務自体は大変ですが、年度に一度しか行わない、いわゆる季節業務のようなものです。
 手当支給の基となるデータは学務部署に作ってもらうのですが、それを元に手当額の基礎となる区分に分けたり、決裁につける証拠資料を作るのが自分の仕事でした。支給額も大きく、ミスが出来ない割にほぼ全員の教員について調書を作成しなければならない等、かなり大変な業務でした。一度やりきってしまえば次からはかなりスムーズに処理が出来ますが、自分はこの時期は初めての処理だったため、もうかなり大変でした。
 自分の場合は該当ありませんでしたが、この手当はよく「○○年から支給していなかった」とか「○○年から止めるべきところを止めていなかった」等が発見されて大騒ぎになります。「支給していなかった」であれば、当の支給される先生も思わぬボーナスが出て喜ぶくらいなのですが、「支給を止めていなかった」の場合はひどい時には「誤支給した分を返納してもらうので、次の月からしばらく給与が出ません」みたいなことになります(実際には「支給0円」は出来ないので、「毎月○万円×○ヶ月」で返納してもらうことになりますが)。もうこの場合は事務長と一緒に先生に頭を下げに行かなくてはならず、この手当の処理はそういうことが起こりうるという恐怖のもと、調書の作成よりも間違いが無いかのチェックの方に膨大な時間がかかりました。
 また「支給していなかった」「止めていなかった」のどちらの場合は、「過年度処理」といって一度決算してしまった財源の内容を変えることになるため、財務の方にも謝りに行く必要がありました。こんな重要な処理なのになんで担当部署が一括処理しないで各部署の若い連中が処理をしているのか、いまだに腑に落ちないところもあります。

(健康診断)
 これも一種の季節業務です。春と秋の定期健康診断、がん検診、特定健康診査、等々、開催の通知や受講希望者の照会、問診票の配布、受診資格者の調書作成等を行います。時間はかかりますがゴールはしっかりしているので、一度でも通年して処理を行えば、以後はケアレスミスをチェックしながら過去の経験を元にやっていける業務であると思います。

(倫理)
 これはちょっと特殊な処理で、自分のいる部署特有の業務でした。詳しい内容は省きますが、いわゆる「利害調整」というものの処理です(この「利害調整」は大学の「倫理規程」に載っているので、通称「倫理」という名称で処理していました)。
 例えば大学がある入札等を行っている場合で、その入札に参加する業者から大学教員に「兼業」の依頼等があった場合はこの「倫理」の処理が必要になってきます。具体的にはその「兼業」の内容を、「兼業」の処理の時以上に詳細に調べ、「その委嘱が入札に参加する企業から職員へ不適切に高額な報酬等を支払うことによって見返りとして特別な便宜を求めるものではないこと」等を予め明らかにしておくものです。委嘱された教員にも、その委嘱によって入札の際に便宜を図ることが無いような確認を取ります。
 処理事態は難易度「中」くらいなのですが、自分の場合は前任者がこれを放置していたため、その尻拭いでそりゃあもう泣きそうになったと言うか、実際に何回か家で泣きました。でもまぁ、この一件があってからは「例え親切でないにしても、引継ぎ事項を一通り教えてくれる前任者」はただそれだけでありがたい存在なのだと、ちょっと他人に優しくなれたので、それだけは収穫でした(という事に自分の中ではしておいています)。

(その他、全体的なこと)
 基本的にやっていることは「決裁作り」です。「決裁って何?」と思う方もいるかも知れません。「決裁」とは乱暴に要約すると、上司に「この事務処理をこんな風にまとめましたけど、これで処理していいですか?」と確認する作業のことです。
 なぜこんなことをするのかと言うと、「自分のやった事務処理を上司の名義で発信するため」です。多くの事務処理はどこかからか依頼や通知があって開始されますが、その通知の宛先はほとんどが「部局長」や「部局事務長」宛です。そこで本来は「部局長」や「事務長」が処理そのものをしなければならないのですが、それを全てやっている時間は無いため、「事務分掌」によってその具体的作業を末端事務職員に割り振り、事務職員はその事務処理を行って「決裁」にかけて承認を得ることにより、それを「部局長名」等で回答できる訳です。

■雑感
 当時はその係に配属された1年目だったこともあり、「来た球を打ち返すだけで精一杯」という状況でした。まだ総務系業務の全体像も分からないでいつにどのような業務がくるのかの見通しが立たず、年休の取得タイミングも「もっと閑散期にまとめて取ればいいのに」と今なら思ってしまいます。また繁忙期には残業が多い部署でもあり、日常生活で精神的に落ち込むこともあったことなどは今でこそ冷静に受け止められますが、当時は中々つらかった記憶があります(特に自分は根性が無い方だったので)。
 またこの時期を通してその後に気が付いたこととして、「事務職員は担当業務に対する処理方法に一定の裁量と責任が与えられている」ということがありました。これは要するに、例えば10月1日までに回答を求められている通知が9月1日に来たとして、その場合に事務職員には「1ヶ月の間に回等を行えるよう、ある程度自由に事務処理を行ってよい」権限が付与されている、ということです。また逆に、「1ヶ月の期間を与えているのだから、その期間に処理を出来なかった場合には担当事務職員には責任が生じる」とも言えます。
 当たり前のことかも知れませんが、こういう意識を強く持つことは、自分の中では大きな転機でした。それ以前にはどこか心の中で「仕事というのは単に規則とか他人の指示に沿って処理を進めること」という考えがあったように今では思えるからです。
 「裁量と責任」の話は行過ぎると独断専行になる恐れもあると思いますが、「裁量を放棄して既存のやり方に従うから結果について自分に責任を負わせないでほしい」と「結果について責任を負うからやり方について自分に裁量を与えてほしい」を両極とする「軸」は、常に自分の判断材料となっています。例えば「○○年代の日本」はこの度合いがどちらに近づいていたのか、日本と海外ではこの度合いに違いはあるか、等のような「一般的な疑問」から、この業務はどちらの度合いを強めたほうが良い類型の業務か、この人はどちら側を好む職員だろうか、等のような「個別的な疑問」まで、いつかこれらの判断を統一的に処理できる理論が出来上がればいいなぁと思っています。

■おわりに
 たまに古いデータを取り出すと、当時のことを思い出してついたくさん書きすぎてしまいました。ほんの3年前のデータでしたが、なんだか随分と昔のことのように思えてしまいます。今から3年後も、今考えていることが遠い昔のことに思えるほど、自分の考えは変わっているのかどうか、このサイトがまだ続いていれば、また見返してみようと思います。

コメント ( 10 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
これらの仕事はごく一部ですね (masa)
2012-09-24 10:14:28
内容から察するにこれらの仕事はいわゆる「総務」の仕事ですね.大学には,これ以外に「会計」と「学務」という二つの大きな業務があって,内容もまた負担もかなり違うと思います.可能であれば,これらの仕事についてもご説明いただけると,大学の事務方の仕事の基本がつかめるように思います.

ところでいつも思うのですが,国立大学法人によって仕事の進め方はけっこう違いますね.大学間でもっと人事交流をしていただいて,お互いによいところを広め合う工夫があるといいのに,とよく感じます.またもっと学生の多い私大では,徹底したIT化を進めてコスト削減をしているようです.そういうところにノウハウの導入も進めるといいですね.
 
 
 
質問させていただけますでしょうか (はま)
2012-09-26 17:19:45
はじめまして。こちらのブログを参考に大学法人に合格いたしました。
現職の方に、質問させていただきたく書き込みさせていただきます。
私は、社会人として勤務しているのですが、職歴換算には「在職証明書」などの提出を求めているのでしょうか。また、フォーマットは指定されているのでしょうか。
正直に申し上げますと、鬱による「病気休暇」が30日以上連続してあります。「休職」でなく「休暇」であっても、記載する項目はあるのでしょうか。
大学法人により、取り扱いが異なると思いますが、参考に教えていただけないでしょうか。よろしくお願いいたします。
 
 
 
Re:はまさん (管理人)
2012-09-26 20:05:58
正規職員として採用するなら、職歴の証明として前職の在職証明書は求めると思います。様式の有無は大学にもよるでしょうが、在職期間など必要な項目の記載があれば任意様式でも良いとする大学が多い気がします。

さすがに「病気休暇」の有無まで聞かれるとは思いません。「休職」や「退職事由」、「懲戒の有無」等はなんとなく調べてたような気がしますが、自信がありません。このあたりは大学特有の処理というよりかは、採用人事の世間一般のやり方と大して変わらないと思うので、民間でもやってるような前職の確認方法を、大学でもとっていると思います。
 
 
 
ありがとうございます (はま)
2012-09-26 21:36:42
お仕事おつかれさまです。すぐ回答いただきありがとうございます。
やはり、源泉徴収だけではなく、きちんと在職証明書を提出するのですね。
勤務すべき日数のうちある一定の日数を休暇などにより出勤しなかった場合、公務員の場合は号俸に影響するような気がしたので、休暇も記載させているのかなと考えていました。
まあ、実際は来てみないとわかりませんよね。なんとなく「鬱で休職」ということは後ろめたいため、あまり公にしたくないなあと感じております。
 
 
 
はまさん (りゅう)
2012-10-15 19:46:48
国立大学に勤務している者です。
わたしも民間企業での勤務経験がありましたが、採用の際に在職証明などの提出はありませんでした。
大学によって異なるのだと思います。
転職組は特に、人それぞれ色々な事情や過去があると思います。過去は過去ですからあまり気にせず、前向きに頑張ってください。
自分は気にしていても、周囲から見れば大した問題ではないかもしれませんよ。
 
 
 
Unknown (no name)
2012-11-11 15:29:13
以前国立大学に勤務していました。「いかにも公務員」な人間ばかりで嫌気がさして辞めました。辞めてよかったです。法人化されても親方日の丸意識が抜けない人ばかりじゃないでしょうか?
 
 
 
教えて下さい (コアラ)
2013-02-21 11:11:32
大学事務の臨時(1年)の求人募集を見ました。
私は中高年なのですが、1年契約でもいいから、大学事務のお仕事をしてみたいと思い、応募してみたいと思っています。 派遣会社の私大事務の仕事に応募したら30代までなのでと断られてしまいました。
募集要項には年令不問だったのに、ショックでした。
私大だからでしょうか?それとも、大学事務のフルタイムパートは40代はご遠慮下さい。となるのでしょうか?
 
 
 
Re:コアラさん (管理人)
2013-02-21 20:11:56
私大はどうなのか知りませんが、少なくとも自分のいる国立大学では、国立大学だからといって特殊な採用の仕方はしていません。採用したい人が応募してくれば、特に年齢に関係なく採用します。現に自分のいる部局の非常勤職員さんの年齢はバラバラです。

とは言え、高齢になると体力的な制限もありますし、全く同じ条件なら若くて元気のある方を、と考えるのは一般的な傾向かも知れません。しかしいずれにしろ、大学に固有な現象とは考えにくく、また大学としても無理に若い人ばかりを取るメリットは特にありませんので、年齢不問とあれば気にせず応募するのが良いと思います。

不採択になる回数が多いかもしれませんが、それは単純に倍率がかなり高いことに由来するものと思われます。
 
 
 
お返事ありがとうございました。 (コアラ)
2013-02-22 11:55:57
管理人 様

 早速のご返事ありがとうございました。
さすがに、国立大学勤務の方ですね。文章から、心の広い優しさを感じとれました。

 私は40歳半ばで学歴も高卒です。それが引っかかりなかなか応募資格さえもない大学事務仕事。やっとの事で見つけた派遣会社経由の大学事務(フルタイムパート)の仕事で珍しく高卒以上・年令不問とあったので勇気を出して電話しました。しかし、対応がひどかった。「いくつですか?」から始まり、冷たく厳しく言われたり、笑い飛ばされました。応募要項は書面上クリア出来てたから電話をしたのにですよ。門前払いでした。
 同じ断るにしても、言い方というものがあるのにね。「いくつですか?」の対応にもビックリ!しました。管理人様とは全く違う対応でした。
今回、管理人様から大学事務の仕事は高倍率だと教えて頂き、今ではそれらの対応も少し理解出来ますが。

国立大学事務パートは短大卒か大卒なので、無理ですが、めげずに色々と探してみます。

40歳半ばで就活している私に勇気と希望を与えて頂き、ありがとうございました。
 
 
 
正規雇用の事務職員 (たま)
2015-10-01 19:29:05
 正規雇用の事務職員って狭き門なのに、やってる業務の99%が定型的なものですねー。

 国立大学法人の事務仕事は「一に規則、二に規則、三四が前例で五にハンコ」って感じが強いです。わたしがいる部署は総務でも財務でも学務でも学部でもないのですが、総じて、逸材の無駄遣い感は否めませんし、この記事を拝読してみても、民間企業なら半年、早ければ3カ月程度でクリアが求められるレベルの仕事と捉えるのが世間相場です。

 だから事務職員が悪いとか、その手の批判をするつもりは毛頭ないのですけど、給料は半額にするべきだと思います。仮に、仕事内容の概要を公開して、値下げオークション方式で職員募集を行ったとしたら、半値で現行以上のパフォーマンスを叩きだす人が続出します。
 
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