リカーディアンとリカーディアンもどきとFTPL

引き続きシムズ論文からの引用。シムズはFTPLについて以下のように説明している。

Increases in the quantity of nominal debt occur through government deficits, and, depending on the reasons for the deficit, the increase in nominal debt may change beliefs about the future fiscal backing for the debt at the same time that it affects the amount of debt outstanding. The deficit might also lead to interest rate changes through a monetary policy reaction. The fiscal theory of the price level does not, therefore, simply replace the notion that the quantity of money determines the price level with the idea that the quantity of government debt, or the sequence of nominal deficits, determines the price level. It implies that interest rate policy, tax policy, and expenditure policy, both now and as they are expected to evolve in the future, jointly determine the price level.
(拙訳)
名目債務額は政府の財政赤字を通じて増加する。財政赤字の理由次第で、名目債務の増加は、将来の債務に対する財政の裏付けについての人々の考えを変えるとともに、債務残高にも影響する。財政赤字は金融政策の反応を通じて金利も変化させる。従って、物価水準の財政理論は、貨幣量が物価水準を決定する、という考えを、政府債務の量ないし一連の名目赤字が物価水準を決定する、という考えに単純に置き換えるものではない。同理論が意味するのは、現在および将来想定される金利政策、税制策、支出政策が合わさって物価水準を決定する、ということである。


財政赤字の理由」については、その前段で以下のように述べている。

Fiscal expansion can replace ineffective monetary policy at the zero lower bound, but fiscal expansion is not the same thing as deficit finance. It requires deficits aimed at, and conditioned on, generating inflation. The deficits must be seen as financed by future inflation, not future taxes or spending cuts.
(拙訳)
財政拡張策はゼロ金利下限で無効となった金融政策に取って代わることができるが、財政拡張策は赤字財政と同義ではない。財政拡張策では赤字がインフレ生成を目標とし、かつ、インフレ生成を条件としなくてはならない。赤字は将来の税金や支出削減ではなく、将来のインフレによって賄われると見做されなくてはならない。

これに反発したのがクルーグマンで、このような議論はヘリコプターマネー論者からも良く聞くが、それはリカードの中立命題の誤解釈によるものだ、と批判している。
以前のエントリ*1で小生は、巷間良く見られるリカードの中立命題の定義を

財政支出をすれば民間が将来の増税を予想して消費をその分だけ減らし、総需要は変化しない

Nick Roweクルーグマンの考えるリカードの中立命題の定義を

税金で賄われる財政支出と、借り入れで賄われる財政支出とは、等価である

と対比させたことがあったが、クルーグマンに言わせれば、シムズやヘリコプターマネー論者は前者のような誤解をしている、ということのようである。クルーグマンは、ロバート・ルーカスなども唱える前者のような議論を、リカーディアン(Ricardian)ではなくリカーディアノイド/リカーディアンもどき(Ricardianoid)だ、と揶揄している。またクルーグマンは、リカーディアンの観点からすれば、最終的にインフレによって賄われる赤字も税金によって賄われる赤字も差は無い、どちらも貨幣保有者への課税ということで家計への負担になるのだから、と指摘している。


このクルーグマンのエントリにさらにデロングが反応し、以下の3本の式のモデルを基にシムズの考えを捉えようとしている。
 消費    : C = C(r, W)
           W↑→C↑   r↓→C↑
 実質金利 : r = i - π
           i=名目金利、π=インフレ率
 富     : W = Y/r - T/(r + ρ)
           Y=所得流列、T=税流列、ρ=税徴収に関するリスクプレミアム
この時、財政政策が支出と生産に影響を与える方法は、次のいずれかに限られる、とデロングは言う。

  • 財政赤字が紙幣印刷の予想を高め、インフレπを高める。
  • 財政赤字が将来の財政破綻の予想を高め、将来の税負担を割り引く利率を高めることによって現在の富を増やす。

デロングは、このモデルが首尾一貫しているか、および、これが本当にシムズの考えているモデルかは自信が無い、としている。さらに、当座の問題に最も関係するモデルを5つ挙げよ、と言われてもその中にこれは入らない、とも述べている。

*1:そこで触れた2011/3/10付のクルーグマンのエントリを今回のクルーグマンもリンクしている。