ポアンカレ予想を解決した数学者

 NHKスペシャルで、100年の難問と言われるポアンカレ予想を解決したロシアの数学者の特集をやっていたのを興味深く見入ってしまった。テレビの演出を抜きにしても、凄いの一言である。こういう人が歴史に名を残していくのだろうなと思えた。

100年の難問はなぜ解けたのか〜天才数学者 失踪の謎〜(NHKスペシャル)

 そもそもポアンカレ予想とは何かを、なんとか一般の人にもわかりやすく、あるいは取材者自身が理解しようとした流れを、割と時間をかけて説明していた。純粋数学の内容に、これだけ踏み込もうとするのは珍しいのではないか。数学の定理やら定義などは、そもそもなんでそんなことを考えるのかすら一般の人には理解を超えているからである。以前のITmediaの記事で、その内容を取り上げていたものがあった。

【第5回】難問奇問と天才奇人数学者 〜ポアンカレ予想の解決〜(ITmedia)

 数学的内容よりも、なんとフィールズ賞を辞退するという前代未聞のことや、当の数学者ペレルマン博士は現在はいわゆる引き篭もり状態になっていて、関係者の誰とも連絡すら絶っているという衝撃的な事実が、ますますストーリーに引き込ませる。


 天才数学者が何を考えているのかは、凡人には知る由もないが、フィールズ賞の辞退はもったいないとか、難問題は解いたが孤独な人生、みたいな俗人的評価は、おそらくどれも的外れなものであろうという気がする。解決してしまえば、いくら周りが騒ごうが、本人にとってはすでに「終わった話」なのかもしれない。世俗的な煩わしいことが増えるのは、思索に没頭する人にとっては耐えられないことかもしれない。
 この証明の論文は、そもそも正規の論文にもなっていなくて、今の時代らしく投稿前の論文(プレプリント)の段階で、インターネットで流れて知れ渡ったということも驚かされる。


 20世紀になってから発展した現代的なトポロジーの問題であるが、ロシアからアメリカに来たその本人の講演で証明を聞かされたトポロジーの専門家達は、その証明内容を全く理解できなかったそうだ。その証明はリッチフロー方程式という微分幾何学の方程式を基礎にして、そこにエネルギーや温度などの物理学の概念が登場するのだそうである。だいだい物理学の理論は数学的には雑なものが多いので、数学で厳密にするというのが普通だが、この場合まるで逆である。数学だけでなく、物理学にも通じていたペレルマンならではの発想だったようだ。

 この理論を見る限り、使われている数学はアインシュタイン一般相対性理論に出てくるものと同じである。20世紀の初め頃、アインシュタインや数学者レビ・チビタが作り上げたテンソルである。などと、書き出すときりがない。


 最後にポアンカレだが「知の巨人」と紹介されていたが、19世紀までは数学者、天文学者、物理学者は区別がなかったポアンカレはそのどの分野にも多くの業績がある。有名な三部作、「科学と仮説」「科学の価値」「科学と方法」岩波文庫を学生時代に集めた記憶がある(集めただけだが)。
 自分が知っている話としては、現在では数学用語になっている「カオス」も事実上、歴史的にはポアンカレがすでに示唆していた問題であった。コンピュータが発達してから一般には認識されるようになったが、そんなものもなかったとっくの昔から、ポアンカレはすでに本質を見抜いていたのである。