経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

金づくり・人づくり・社会づくり

2017年08月12日 | 社会保障
 日本の名目GDPは537兆円で、消費はその56%の302兆円。1.5%成長を確保するには、4.5兆円増やさないといけない。そこで厚生年金が1.2兆円も家計から所得を抜いていては、消費が振るわず、デフレから抜けられないのも致し方あるまい。人口減を持ち出して、宿命を嘆くまでもない。今度の新内閣の看板は「人づくり革命」になるらしいが、今まで実際にしてきたのは「金づくり」。これでは人口も減るだろうよ。

………
 8/10に厚生年金の2016年度収支決算の概要が公表になり、フローの収支は1.2兆円の改善と判明した。毎度のことだが、公表資料のままでは、一般の人には、何が何だか分からない。そこで、保険料収入+一般会計受入+基礎年金勘定受入をフローの収入、保険給付費+基礎年金勘定繰入をフローの給付とし、収支差を計算すると、前年度より1.2兆円も改善していると分かる。「改善」とは言っても、家計の立場からは、払いと貰いの差が1.2兆円少なくなったわけで、負担増である。 

 負担増の最大の要因は、保険料が5.9%増えたことである。そのうち、保険料率が引き上げられた分が0.5兆円程、景気回復で加入する労働者が増えた分が1.1兆円程だ。保険料収入は、景気回復に伴い、2014年以降、大きく伸びている。社会保障にとっても、景気回復こそが効くのである。他方、フローの給付は、前年度より+0.4兆円にとどまり、6年前と比べ、1.8%多いだけだ。支給開始年齢の引き上げなどで抑制されており、この間、収支差は5.7兆円も改善している。

 次に、ストックの側面から積立金の状況を確認すると、2016年度は、簿価ベースで+3.1兆円の110.3兆円となり、時価ベースだと+10.5兆円の144.4兆円となった。アベノミクス前の2012年度と比較し、簿価は5.3兆円、時価は26.5兆円も増えた。2013年度までは、積立金を取り崩して給付に充てていたが、収支改善で2014年度には不要となり、2015年度からはGPIFの運用収益も入れずに済ませている。いわば、貯金もでき、円安株高で含み益も得られたのである。

 庶民感覚では、貯蓄増大は歓迎だろうが、マクロの場合は、そう単純ではない。将来、年金の積立金を取り崩し、需要を満たすには、供給力が形作られている必要がある。少子化によって、供給に当たるべきヒトが足りていなければ、お札はタダの紙切れになってしまう。現状は、低所得の若年層にも、同じ率の社会保険料を課し、経済的に結婚や出産を難しくしている。人的には明らかに投資不足にあり、むしろ、厚生年金は「金づくり」に励んでいるとさえ言える。

(図)



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 アベノミクスの下、景気回復があったにもかかわらず、法人税収は、2012年度の9.8兆円から2016年度の10.3兆円へ、たった0.5兆円しか増えていない。厚生年金の保険料収入が5.3兆円も増えたのとは対照的だ。これは法人減税が一因で、消費増税後の設備投資を促すとして行われたが、残念ながら、増税後から昨年度後半に輸出が増すまで、停滞を続けた。結局のところ、人づくりを阻害する社会保険料を重くし、法人税を軽くするという「金づくり革命」を敢行したものの、見るべき成果を挙げられずにいる。 

 新内閣が「人づくり革命」を標榜するのは結構だが、千億円程度の少子化対策の拡充にとどまるなら、「革命」も単なるレトリックでしかない。もし、膨らむ積立金を活用し、将来もらう年金給付を、乳幼児を育成している今、前倒しで受給できるようにすれば、数兆円規模の少子化対策になる。人的投資に使えるよう年金制度を改造するなら、真の意味での社会づくりの「革命」だ。もっとも、世界的にはありふれた話でしかない、憲法に国軍を規定することの方に、この国は政治的エネルギーを注ぐのだろうがね。


(今日までの日経)
 機械受注残高 高止まり。年金積立金、最高の153兆円。医療費、膨張に歯止め 16年度は14年ぶり減少。長期失業19年ぶり低水準。街角景気7月0.3悪化。たまる円高マグマ。消費活動指数1.1%上昇4-6月。就労寿命 伸びる未来は・原田亮介。AI・産業構造を一変・松尾豊。M字カーブ落ち込み最小は青森県。

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