小林歌穂主演のドラマ「また来てマチ子の、恋はもうたくさんよ」が終わりました。
歌穂ちゃんの、このコメディに合った演技が、いい感じだったんじゃないでしょうか?
彼女の特別な優しさ、可愛らしさは、一般の人にも、伝わるのでしょうか?
このドラマは、「男はつらいよ」を下敷きにした、
下町人情恋愛コメディでありながらも、
メッセージ性の強い、SFでもありました。
エビ中を知らない人が見ても、
B級の雰囲気が好きな人なら、そこそこ面白いと思います。
でも、エビ中ファンから見たら、このドラマは、
本当に特別なテーマのドラマになります。
その観点からの解釈をしてみます。
まだ見てない人は、ネタバレ注意です。
このドラマの脚本は、
「ロボサン」や、「シアターシュリンプ」を手掛けて、
エビ中をよく知ってる、シベリア少女鉄道の土屋亮一さんです。
だから、当然、エビ中を意識した解釈からも見ざるを得ません。
簡単に言えば、このドラマで、タイプ・リープ、と言うか、時を戻ってやり直すことは、
「永遠に中学生」として生きることの表現でもあります。
そして、主人公マチ子は、生き返った(死ななかった)松野さんでもあります。
ドラマのタイトルバックからして、青空ですから、
エビ中ファミリーは、彼女を感じざるをえません。
エビ中が歌うテーマ・ソングの「日記」の歌詞は、
松野さんの「できるかな」を、思い出さずにはいられません。
☆
ドラマの第一話、「さよなら、マチ子」(1/20の設定)の最後で、
歌穂ちゃん演じるマチ子は、ハブに噛まれて死にます。
マチ子がハブに噛まれたのは、左手首の当たりです。
左手首は、「脈」を看る場所です。
だから、これは、不整脈で亡くなった松野さんを暗示します。
* ハブに噛まれて死ぬのは、寅さん(ドラマ版)へのオマージュですが。
第九話の、このドラマのクライマックスで、マチ子は、
このドラムのメッセージを集約するようなセリフを語ります。
「何度繰り返したって、まったく同じ日なんて一度もなかった。
あたし達が何か頑張れば変えられるんだよ。」
この時、クズ社長は、マチ子に向かって、
「まったく図体ばっかでかくてよ、中身はいつまでも子供だな」
と言います。
松野さんのキャッチフレーズをもじったセリフです。
その後、マチ子は、
「全部うまく行くって、いつまでも信じて、私、待つの」
と言います。
マチ子自身による、「私は松野」宣言です。
「マチ子」の名前の意味は、
何度でも繰り返して努力し、成功するまで「待つ」、ということであり、
それは、「松野」の「待つ」なのです。
☆
マチ子は、黄色いコートを着て、青い帽子を被っています。
上に掲載した写真の通り、マチ子の格好は、寅さんがモデルで、
寅さんも黄色いスーツですが、帽子は青ではありません。
ファミリーにとっては、マチ子は、体は歌穂ちゃんだけど、
魂は松野さんでもあることを示しています。
歌穂ちゃんは、歌穂ちゃんということではなく、
松野さんと共にいるエビ中です。
このドラマでは、「男はつらいよ」と同じ山田監督の、
「幸福の黄色いハンカチ」と関係づけて、
黄色は、「幸せ」の色と、意味づけられています。
つまり、マチ子は、「幸せ」をもたらす存在です。
歌穂ちゃん、松野さんの二人は、
一番、幸せオーラを発するメンバーですね。
第四話までの1/20のマチ子は、頭には青いヘアバンドを巻いています。
つまり、この日の彼女は、松野さんの意味合いが強いということです。
第5話からの1/21には、黄色になります。
つまり、物語が進展して、違う意味合いの存在になったのです。
この違いについて、次に、書きます。
☆
マチ子の兄のタモツは、青い服を着て、青いペンを使っています。
まるで、松野推しのヲタさんです。
マチ子が一度死んだ後の、第ニ話から四話までのタモツは、
妹のマチ子のことを思う姿が描かれ、
好きなカオリにプロポーズすることができません。
第二話では、タモツは、マチ子が予備校の学費を払えなかったことで、
「ただ、マチ子にまっとうに育って欲しいだけなんだよ」、
と願い、時を戻してもらいます。
これは、松野推しのファミリーが、松野さんの死から離れることができずに、
自分の人生を前に進めることができない姿と重なります。
一方、マチ子は、家出しても、タモツのことが気になって帰って来たり、
死んだのに、時が戻って生き返って、
タモツがプロポーズできるように頑張ります。
第二話では、おじいさんの「止まった柱時計」を動かす手助けをします。
つまり、ファミリーの“時”を進めるために、松野さんは、戻ってきたのです。
1/20のタイムループは、第四話で終わります。
第五話以降も、タモツはプロポーズできないのですが、
その理由は、「マチ子のことを思って」、ではなく、
「カオリのことを思って」、に変わります。
つまり、松野さんのことを思って“時”を進められない、という状態を脱したのです。
第五話の放送日は2/8です。
松野さんの一周忌と共に、物語も、新しいフェーズに入ったのです。
だから、マチ子がつけるヘアバンドは、青から黄色になりました。
その後も、松野さんは、マチ子と共に居続けるのですが。
☆
時を戻す願いを叶えてくれる「時の神様」は、
いつまでも学生の姿のセーラー服を着た大人の女性です。
そして、ぁぃぁぃみたいな甘えた喋り方をしています。
* 時の神様が、ぁぃぁぃポーズ……ではない
「時の神様」は、エビ中のコンセプト、「永遠に中学生」を象徴しています。
時を戻して人生をやり直すことは、
人が、「永遠に中学生」として、新しい生き方をして、
何度でも諦めずにトライし続けることと似ています。
ぁぃぁぃは転校したけれど、“はなむけ”的な意味で、
エビ中の象徴として、選ばれたのでしょう。
タモツがいつも首にかけているタオルの柄は、
ぁぃぁぃが好きなパンダです。
彼は、「永遠に中学生」の予備軍です。
☆
このドラマでは、夜の12時を過ぎると、「時の神様」に頼んでも、
その日の時を戻すことができなくなります。
つまり、12時までが勝負です。
エビ中の代表曲「仮契約」も、12時までが勝負です。
先に書いたように、第九話で、マチ子は、
「まったく図体ばっかでかくてよ、中身はいつまでも子供だな」
と言われていますが、
これは、「仮契約」の松野さんのセリフをもじったものでもあります。
「仮契約」では、その後のセリフは、
「わたし絶対お姫様になるのー!」
ですが、
ドラマでは、マチ子はその直前、パラレルワールドのタモツ王子に、
「私は姫じゃないよ。よく似てるけど、同じじゃないよ。」
と言っています。
「仮契約」は「姫」を目指す物語ですが、
「まだ本当の姫になっていない」=「仮」=「永遠に中学生」です。
「似ているけど姫じゃない」=「仮」と見ると、
これは、マチ子の、「永遠に中学生」宣言です。
☆
第五話から第九話までの、1/21のマチ子は、
黄色いスカーフを頭に巻いて、二人の幸せのために、
1241回のタイムループを続けます。
「永遠に中学生」として。
第七話でマチ子を邪魔する邪神の横島さんは、
同じ仕事を繰り返すことに嫌気がさしています。
第八話、第九話で、マチ子を邪魔するカオリは、
未来の可能性を信じていません。
この二人は、常に人生を新しく生きようと努力する「永遠に中学生」の、
生き方を否定する2タイプの「大人」の象徴でしょう。
☆
第九話の最後で、マチ子が、改めて、ハブに噛まれて倒れました。
しかも、12時を過ぎたので、もう死は避けられない、
そう思わせる展開でした。
ところが、これは、パラレルワールドから来た
10年後のマチ子(ホクロがある方)で、
予防接種をしていたので、死ななかった…
そんな無理くりなオチでした。
こうして、最終話では、3/21に、マチ子は、
また、青いヘアバンドを巻いて戻ってきます。
つまり、亡くなったはずの松野さん亡くならなかった。
そのありえない世界を、どうしても描きたかったのでしょう。
第九話で、いきなり、「パラレルワールド」が出てきたのは、
我々に、松野さんが生きている「パラレルワールド」の可能性を、
想像させたかったからではないでしょうか。
もともと、このドラマは、「男はつらいよ」へのオマージュ作品です。
「男はつらいよ」のタイトルは、恩師の先生が亡くなって、
寅さんが「つらい」といったセリフから来ています。
そして、TVドラマ版の最終回で、寅さんも、ハブに噛まれて死にます。
山田監督は、
「寅さんのような人間は、管理社会には生きていけないのだ」、
と語っていました。
ところが、映画版では、死んだはずの寅さんが死なずに戻ってきました。
監督も含めて、皆が、そう望んだからです。
「また来てマチ子」は、「男はつらいよ」よりも、
積極的なメッセージを伝えようとするドラマです。
だから、死なない世界を描かなければいけなかったのでしょう。
松野さんのような自由人が、生きていける世界でないといけないのです。
☆
実は、この物語が始まる1/20は、「大寒」です。
実際の放送日も、それに近い真冬です。
物語の最後に、マチ子が戻って来た3/21は、「彼岸」の中日です。
暑さ寒さは彼岸まで、と言うように、季節が好転するタイミングです。
「マチ子」は、春を「待つ」存在なのです。
そして、最終話で表現されたように、
冬の太陽(部屋に閉じこもったカオリ)を復活させるアメノウズメです。
最終話は、マチ子の活躍で、
タモツとカオリ、クズ社長の生活が好転する姿を描きました。
だから、その日は、3/21が相応しかったのです。
「男はつらいよ」の恩師の先生の娘の名前は「冬子」で、
寅さんの妹は「さくら」です。
「また来てマチ子」の「カオリ」は「梅」のことで、
「梅」は、エビ中の象徴でもあります。
「梅」は香りが特徴の花で、
マチ子を邪魔する邪神を撃退したのも梅昆布茶でした。
カオリがタモツと別れを決意して去る時に咲いていた花、
そして、叶わない恋と寒さをしのぐ真知子巻きのスカーフの柄は、
冬にも咲く、バラでしょうか?
そして、オープニングのマチ子のバックは、満開の桜です。
「また来てマチ子」には、
大寒・バラ(物語の始まり) ⇒彼岸・梅(物語の未完の完) ⇒桜(永遠の未来)
という季節の流れが、表現されています。
☆
ですが、ファミリーにとっては、別の意味もあります。
昨年の7/16に、ファミリーは東京国際フォーラムで、
松野さんが戻って来た、生きている姿を見せられて、驚きました。
3/21に、マチ子が青いヘアバンドで戻って来たのは、
この驚きの再現です。
7/16は「盆」の期間でしたが、3/21は、「彼岸」の中日です。
どちらも、亡くなった人を思う日です。
ドラマの放送日は、彼岸の直前でした。
ドラマの最後のテロップは、「完」から「元」に変わります。
このドラマのテーマが、常に生き直すこと、「永遠に中学生」だから、
終わりがない、ということなのでしょう。
でも、私は、
青空(松野さん)の元(もと)で、若々しく生き続けること、
そう、受け取りました。