インフラエンジニアの将来を見つめ直したセッション「クラウドCROSS」

2012年1月27日、Webエンジニア約1,000人が参加したイベント「エンジニアサポート新年会2012 CROSS」が開催された。このイベントは、テーマに「CROSS(クロス)」を掲げ、「技術」「知識」「経験」「年代」「企業」といった「異種」「異文化」のエンジニアの間で多くのコミュニケーションが生まれる機会の提供を目的としたもの。

当日は、スマートフォンやクラウドといったトレンドの渦中にいるエンジニア同士のセッションや、エンジニアの働き方、キャリアプランついて企業の人事同士が議論するセッションなど、12もの幅広いクロスセッションが開催され、総勢80名に上るスピーカーが登壇した。

今回は、その中からクラウドを利用者の立場から見つめ直したセッション、「クラウドCROSS」の模様をお届けする。

クラウドCROSSのセッションは2部制で、前半では、各スピーカーからクラウドの登場がインフラエンジニアにもたらしている影響について発表があり、後半では、パネルディスカッション形式で、各テーマに沿って議論が行われた。すでに、前半の様子は紹介したので、今回は後半についてお届けしよう。

クラウド導入時の障壁は何だったか?

後半は10個のテーマの下、パネルディスカッションが行われた。モデレーターにcloudmixの富田順氏(@harutama)を迎え、サイバーエージェントの桑野章弘氏(@kuwa_tw)、ニフティの安部潤一郎氏(@abej)、シャノンの藤倉和明氏(@fujya)、ハートビーツの馬場俊彰氏(@netmarkjp)がスピーカーを務めた。今回は、前半5つのパネルディスカッションの様子をお届けしよう。

パネルディスカッションでスピーカーを務めた皆さん

最初のテーマは「クラウド導入時の障壁は何だったか」だ。クラウドを導入するにあたり、必ず何かしら障壁となったはずであり、「それが何だったのか」「それをどうやって乗り越えたのか」を明らかにしようというわけだ。

藤倉氏は「クラウドベンダーの事業継続性などについて説明が求められるが、単に『使いたい』という気持ちだけでは利用できない。利用する理由を説明できる必要があり、これが最初の壁となる。当社の場合、テスト環境という課題があったから、うまく説明ができた」と、自社の例を挙げて話してくれた。

一方、安部氏は「ニフティは基盤部門が強力にクラウド化を推進する一方、利用者として『性能・安定性』『セキュリティリスク』に対する2つの不安があった。そこで、サービスの半分だけクラウド化をすることで性能や安定性を確認してから、本格利用を開始した。セキュリティリスクに対しては、公開情報だけを持つようなサーバから順番に適用を開始した。また、ニフティクラウドにファイアウォールやグローバルアドレスをサーバから取り外す機能などが追加され、セキュリティリスクに対する不安は払拭されてきている」と述べた。

続いて、桑野氏は「オンプレミスの環境に比べて性能が一定していないのでキャパシティプランニングが難しいという不安があったとともに、何かしら他者と共有していることについて、説明が求められた」、馬場氏は「クラウドに夢を抱いているお客様に現実を理解してもらったり、サービスを構築したりする必要があるなど、夢を見ている人と現実のすり合わせをしないといけない」と語った。

インフラエンジニアは不足しているのか?

スピーカー全員が「これだけクラウドがもてはやされているなか、ミスマッチを感じている」「インフラが動いて当たり前という状況で減点法によって評価される世界の中でインフラエンジニアの魅力はどこにあるのか?」など、インフラエンジニアの不足を訴えた。

馬場氏は「インフラエンジニアの魅力は他の人ができないことができた時に感謝されること。動いて当たり前と考えがちな利用者でなく、開発者と直接やり取りしながらサービスを一緒に作っていくことで、直接感謝される」と話した。

企業がパブリッククラウドを利用するメリットは何か?

安部氏は、「企業がプライベートクラウドを利用する理由としては、性能やセキュリティ要件がある。一方、パブリッククラウドは規模を拡張しやすいというメリットがある。ニフティクラウドレベルの規模のサービスになると、各利用者の最大負荷の時間帯がずれやすく、巨大なリソースを分割して利用することで、低い投資コストで高い性能が得られる」と各クラウドサービスの利用メリットを説明した。

また藤倉氏は、「東日本大震災後、電力不足から大停電が起こるかもしれないという話が出るなか、オンプレミス環境からシンガポールのAmazon Web Services環境に移行した。これにより、バックアップ可能な環境が国内の電力不足と関係ない場所にでき、これまでの制約から解放された」と話した。

物理レイヤとアプリレイヤーのスキル、どちらの重要性が高まるか?

今後、企業システムのクラウド化が進むと言われるなか、「インフラエンジニアのスキルセットはハードウェアとプログラミングのどちらに広がっていくのか?」というテーマの下、ディスカッションが行われた。

馬場氏は、「今後、『ハードや帯域など物理層の扱いを主としたエンジニア』、『インフラの運用を含めプログラムを書くことを主としたエンジニア』、『UIやUXを対象としたエンジニア』の3種類に集約されていくだろうと考えている。どれを選ぶにせよ、扱う技術の幅は広くなるし、深まる」と語った。

一方藤倉氏は、「インフラエンジニアの今後のスキルセットとして、レイヤ1からレイヤ7まで押さえることは当然だが、さまざまなクラウドサービスがあるなかで、それぞれの特性をつかんでどう使いこなしてコーディネートするかというスキルが求められる」と述べた。

クラウドを利用するうえで経験した障害は何か?

藤倉氏と安部氏からは、クラウドを利用するうえで経験した障害や困ったことが紹介された。

「アプリケーションが突然ダウンした時、クラウドベンダーに運用を一任していることで見えないところがあり、原因特定に時間がかかることがある。アプリケーションも耐障害性を考えるなどの工夫をしないと、痛い目を見ることがあると感じている」と藤倉氏。

安部氏は、「長期にわたる利用で、IaaSを使ったトラブルはひと通り体験したと感じている。『サービスが落ちる』『急激にサーバが重くなる』『仮想CPUを2コアにしたら1コアよりも重くなる』など、社内利用者の人柱があったことで、ニフティクラウドの今の安定があるのだと思っている」と、社内利用の経験が同社のサービスに生かされていることを強調した。

後半のパネルディスカッションのテーマはあと5つ残っているが、それらの様子は次回にお届けすることにしたい。