2011年5月現在、世界のブラウザシェアで第5位にあるOperaですが、デスクトップ以外のモバイルやゲーム機、テレビなどの家電製品にも組み込まれており、むしろ、そちらでは世界トップに近いシェアを占めています。特に昨年末あたりから開発ペースをあげていて、スマートフォン向けのOpera Miniは、Android版に続いて5月にiPhone版を公開。デスクトップ向けも最新版となるOpera 11.50のベータ版を公開し、新しい機能が試せるようになっています。

IEFirefox、Chrome、Safariといった大手以外にも、数多くブラウザが登場し、市場競争が進む中で、Operaではどのような方向に向かおうとしているのでしょうか?

今回はOpera Software International AS でWeb エヴァンジェリストを勤めるダニエル・デイビス氏に、Opera製品を詳しく紹介してもらい、さらにブラウザのあり方やその周辺を取り巻く状況などについてもお話を伺ってみたいと思います。

 

編集部:現在のOperaのラインナップは、デスクトップ向けの『Opera』とモバイル向けの『Opera Mobile』と『Opera Mini』という、大きく3つがありますね。

ダニエル:ユーザーがダウンロードして使える製品はその3つになります。デスクトップはエンドユーザー向け、モバイルはエンドユーザーとビジネスクライアント向けと考え、それ以外に家電機器などの組み込みブラウザに多数採用されています。日本市場では、auのケータイ用のフルブラウザや任天堂のWiiDSiでOperaのロゴが表示される形でインストールされています。ヨーロッパではTV用ブラウザのシェアはおそらくトップで、ソニーのブラビアや東芝のレグザなどに採用されていて、テレビの複雑な技術に合わせて搭載できるブラウザとしても認知されています。

編集部:その他のブラウザに比べてどのような特徴がありますか?

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ダニエル:1つめの特徴は「高い生産性」をもたらす設計で、2年前からフレームワークを変更してよりカスタマイズしやすくなりました。もう1つの特徴は「自由にカスタマイズできるオールインワンブラウザ」であること。ブラウザのなかにOpera Mailをはじめ、メモやチャットなど小さい中にさまざまな機能がたくさん搭載されていて、OperaだけであらゆるWeb体験ができるようになっている、いわば完成されたブラウザなのです。ダウンロードした状態で十分に満足してもらえる自信を持っていたので、他に比べて拡張性にあまり力を入れてきませんでしたが、昨年10月に「Opera エクステンション」という拡張機能を導入したところ思いのほか利用者が多く、専用サイトには400種類を超えるエクステンションがあり、500万件以上のダウンロードされています。

編集部:デスクトップ向け最新版のOpera 11.11(コードネーム:Barracuda/バラクーダ)を5月18日公開し、続けて5月31日に次期リリースの11.50のベータ版(開発コード:Swordfish/ソードフィッシュ)が、6月28にはその正式版がリリースと、ここのところリリースが続いていますね。

ダニエル:ペースとしてはそれほど変わっていないと思うのですが、今回は初めての試みとして次期バージョンを『Opera Next』としてダウンロードできるようにしています。インターネット利用も多様化が進み、なおかつ、ユーザーもいろいろなスキルを持った方が増え、製品にもチャレンジングな機能を取り入れ、それに対してユーザーの方々からのフィードバックをより多く取り入れようとしています。その方法も少しユニークで、最新の正規版と一緒に使えて、その場合に見分けがつくよう11.50のアイコンを白くしています。

編集部:ベータ版の公開はよくありますが新旧を比較できるようにするというのはおもしろいアイデアですね。

ダニエル:Opera 11.11の特徴としては、開いているたくさんのタブをグループ化できる「タブスタッキング機能」、機能を追加したりカスタマイズできる「エクステンション機能」、マウスでブラウザを操作できる「ビジュアル マウスジェスチャー」、そしてアドレスバーのセキュリティ強化があります。

これらに加えて11.50の正式版では「Speed Dial」というタイル状に並んだサムネイルからお気に入りのサイトに素早くアクセスできる機能がカスタマイズできるようになります。具体的には、カレンダーや時計などのアプリケーションやウィジット、拡張機能を置けるようになり、それらをCSSで上書きし見せ方をカスタマイズできるようになります。追加できる機能についてはいくつかライブラリーに用意されていて、作り方も公開されています。アプリをはじめ、ウィジットと拡張機能は既存の技術で簡単に開発できますので、多くの人達に試してもらいたいと考えています。


編集部:モバイル向けの製品が2つありますが、その違いはどこにあるのでしょうか?

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ダニエル:大きな違いとしては、Opera Mobileはフルブラザで通常の方法でWebにアクセスできますが、Opera MiniはOperaのサーバーで提供される「Opera Turbo」と似た技術を元にしてコンテンツをOBMLという形式に変換した状態で見る、ビュアーやリーダーという位置づけになっています。Opera MobileはダイレクトにWebにアクセスして通常のブラウザとしての使い方ができるので、Androidやこれから登場するタブレットにオススメです。

基本的にApple製以外のフルブラザをiTunesストアに公開できないのですが、Miniはビューアーだったため5月24日に最新版のOpera Mini 6を公開することができました。

編集部:Turboはモバイル専用の技術なのですか?

ダニエル:Turboを使う機能はデスクトップ向けにも搭載されていて、設定は自由にできるようになっています。Turboでは画像をJPEGからオープンフォーマットのWebPに変換するなど、画質を落とさず圧縮できる技術を確立しているので、ユーザーはその違いにはほとんど気付かないでしょう。とはいえ、日本のようなブロードバンドが普及している地域ではあまりメリットは感じられないと思います。

Mobileでは圧縮率が60〜80%ですが、Miniの場合は90%圧縮され、少ない容量で素早くアクセスできるため、従量課金制しかサービスがない地域では特にメリットがあります。日本でも東日本大震災でモバイルのアクセスが集中した際に使いやすかったという声をいただいており、利用者も増えていると聞いています。全体としてOperaのモバイル向け製品はインド、ブラジル、ナイジェリアといった、モバイルアクセスが主流のエリアでシェアを拡大していて、シェアも全世界でトップになっています。

編集部:ちょっと話が変わりますが、Operaという会社について教えてください。

ダニエル:Operaは94年にノルウェーで開発がスタートし、95年に企業化されOpera Software ASAが誕生しました。現在、本社があるノルウェー以外に、米国、スウェーデン、中国、韓国、インド、ポーランド、チェコ、台湾、そして日本に支社があり、全世界で社員数が約700名いうるうち半分以上が開発者で占められています。日本は30人いる社員のうち、開発者は私を含めて20人ぐらいで、仕事としてはWii版のカスタマイズは日本の技術スタッフが開発を担当していたりします。今のOperaの開発スピードを考えると人手は足りていませんが、どんどん人を雇うというより、Operaを好きな技術者に参加してもらうというような考え方で人を集めています。

編集部:収入源はどうなっているのでしょう?

ダニエル:収入源は大きく2つあって、1つは企業向けのBtoBである組み込みパートナーからの収益で、主にパッケージやユニットの開発によるもの。もう1つはBtoCプロダクトからの収益で、Operaで検索やオンラインショッピングを行ってもらうことで得られるものです。

編集部:コミュニティやエンドユーザー向けの取り組みはどのようなものがありますでしょうか。

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ダニエル:Operaは当初から開発コミュニティのサポートに力を入れていて、ギークなファンがたくさんいます。実は私自身もその一人で、コミュニティで活動していたところ、2年前から正社員に採用されました。Webエヴァンジェリストという肩書きで、製品のプレゼンテーションやコミュニティの支援などを行っていますが、入社前と同様に個人での開発も続けていて、11.50のスピードダイヤル向けのウィジットを公開したりしています。

編集部:Operaといえばややギーク向けのイメージがありますが、エンドユーザー向けに無料のメールアドレスが作れるなどのサービスも提供されていますよね。

ダニエル:以前からある「My Opera」という無料サービスを使って、メールアドレスやブログ、アルバムなどが作れるようになっています。デスクトップとモバイルで情報がシンクできるので、各デバイス間でシームレスに利用できます。読みたいニュースや情報をまとめておくポータルページも作れますし、他にも「My Opera Mail」というWebメールのβ版を4月11日から公開しています(※日本語は未対応)。


編集部:ほかのブラウザはマイナーバージョンアップをやめて、メジャーアップデートのみで、公開スピードもどんどん速くなる傾向にありますが、Operaではそうした状況に合わせてリリースのペースを変えるなどの予定はありますか?

ダニエル:リリースのスピードを上げる方向にはありますが、他のブラウザを意識したものではなく、Webやそれを取り巻く状況の変化に合わせていくという考え方です。リリースのタイミングは大きく2つあって、一つはメジャーアップデートといえるだけの新しい機能が搭載できるようになった場合、もう一つは、リリースの間が空き過ぎないよう、ダウンロードしてもらいやすいタイミングも考えつつ行う場合です。それもどちらかに決めているのではなく、ブラウザをとりまく様々な要素を考慮して状況によって判断し、それに合わせて開発のプライオリティも柔軟に変えています。

編集部:最近はどのブラウザも速さ重視の開発になっている気がします。

ダニエル:速さは当然重視していますが、起動が速いのか、タブが開くのが速いのか、動画の再生速度が速いのか、速さにもいろいろあって、どこに力を入れていくかは開発全体のバランスを見ながら検討しています。エンドユーザーにとってアピールするのに速さをとりあげるのはChromeがとても上手にやってますが、Operaはちょっとスタンスに違いがありますね。考え方の違いという点については、ブラウザの速さを伝えるChromeの動画「Chrome vs Potato」に対して、Operaでは速さに対する考え方の違いを揶揄するような動画「Opera vs Potato」を作成しています。

編集部:次世代のブラウザはHTML5を意識した作り込みになっていると感じますが、Operaではどのような考え方をしていますか?

ダニエル:Operaでは常により良いWebのあり方を模索していて、Web標準を重視するのは企業ポリシーでありコンセプトでもあります。その中で、「Web Forms 2.0」というWeb標準のアイデアとして業界へ提案したものが、現在W3Cを中心に調整が進められているHTML5へと発展していったのです。これに関わる人数は50人くらいで、HTML5、SVGなど参加しているグループの数は約30になります。特に関わっているのがSVGなのであまり目立たないかもしれません。いずれにしても、開発ではWeb標準を意識し、OSのユーザーインターフェイスを使うといったルールを尊重し、そうすることでより多くの開発者がOperaの開発に関われるようにしています。

編集部:今後、ブラウザ全体としての市場はどうなっていくと考えられていますか?

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ダニエル:ブラウザはOSっぽくなる方向にあり、今よりもさらにたくさんのツールがブラウザ上で使えるようになると考えています。メールやメモといった機能はOperaにすでに搭載されていますが、もっとオールインワンで使えるようになる。

それと同時に、デスクトップやデバイスとシームレスな関係になり、家電製品や車、デジタルサイネージなど、パネルのあるところであれば、あらゆるものにブラウザが搭載される可能性が出てきます。今後はユーザーには見えないところでの競争がさらに激化していくでしょう。たくさんのブラウザが開発される中で、100%ブラウザだけの開発に取り組んでいる企業はOperaだけです。これからもその方針を変えることはないでしょうし、それが業界での強みになっていくと考えています。


今までギーク向けのブラウザという印象が強かったOperaですが、クロスデバイス・プラットフォームを視野に入れ、さまざまな環境で同じWebアクセス環境を提供していくために、よりユーザーの声を取り入れようとする方向に向かっているような印象を受けました。コミュニティに対しても、以前からユーザの集まりには「ピザ代を支援をします」と世界的に公言していたそうですが、7月に神戸で開催されるユーザー主催による会には公式協力し、今回インタビューを受けてくださったダニエル・デイビス氏も参加してユーザーからの意見を直接聞く場にしていくということです。技術中心だった100%ブラウザ企業が、これからどのような進化を見せてくれるのかが楽しみです。

Opera SoftwareOpera Software : 日本語プレスリリース

(野々下裕子)