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ペルーを救え!カタクチイワシの可能性

2011年6月22日 16:24
ペルーを救え!カタクチイワシの可能性

 日本のほぼ裏側に位置する南米・ペルー。この国で大量に水揚げされる「ある魚」を使って、貧困対策に挑む研究者がいる。その取り組みのもようをニューヨーク支局・土屋拓記者が取材した。

 中国に次いで、世界第二位の漁獲高を誇るペルー。中でも、体長10センチほどの小さな魚「カタクチイワシ」の漁が盛んだ。そのカタクチイワシを探しに、地元の魚市場へ向かう。市場には、巨大な「イカ」や「マカジキ」などが所狭しと並んでいるが、肝心のカタクチイワシは見つからない。ペルーで大量に捕れる魚なのに、魚市場では見つからない…いったいどこに行ったのだろうか。

 そこで、海岸沿いにある工場を訪ねてみた。巨大な施設の一角に、大量のカタクチイワシが水揚げされている。ここは、カタクチイワシを加工して魚粉にする工場だ。魚粉は主に、養殖の魚や家畜の“餌”として使われる。ペルーは世界最大の魚粉輸出国で、日本が輸入している魚粉の半分がペルー産だ。工場長は、「日本のようなポテンシャルのある顧客の需要に応えていきたいと思っている」と話す。“魚粉ビジネス”はペルー経済の柱のひとつとなっているのだ。

 こうした中、大量にとれるカタクチイワシを、魚粉以外の方法で利用しようという動きが始まっている。その研究に取り組んでいるペルー生産省漁業技術研究所の所長であるルイスさんは、「この研究所は、日本の協力で造られました。その目的は、魚を加工していろいろな製品を作るためです」と“日本語”を使って説明する。ルイスさんは、日本の大学で5年半ほど環境漁業を専攻し、日本の食文化から多くのことを学んだという。「日本では魚なら何でも食べている。ペルーでは魚粉ばかりを作ってもったいないと思った」と、ルイスさんはペルーの現状を分析する。

 ルイスさんは、カタクチイワシを餌にするにはもったいないということで、食料としての開発を進めている。その製品のひとつに「トマトソース添え」がある。味見をしてみると、トマトの風味が魚の臭みをうまく抑えていて、おいしく仕上がっている。ほかにも、工夫を凝らした味付けの商品が作られており、日本の食文化を知るルイスさんらしい味付けもあった。そのひとつが「味噌(みそ)」。日本でも普通に食べることができる味だ。

 ルイスさんが食料にこだわる背景には、ペルーが抱える貧困問題がある。ペルーでは、毎月1万円弱で生活している人々が、全人口の約3割を占めており、彼らには、十分な食料が行き届いていない。ルイスさんは、「カタクチイワシは、資源が多いから値段が安いのです。貧しい国で、たんぱく質をとれない子供たちのために、こうした食べ物を考えています」と、製品開発の目的を語る。

 カタクチイワシは、1キロあたり30円と値段が安いにもかかわらず、栄養価が高い魚と言われている。いずれは、ペルーだけではなく、食糧難に苦しむ多くの国の食卓にも届けたい…ルイスさんは、食料としてのカタクチイワシの可能性に期待している。