”ドタバタ劇にしちゃ長すぎる”『パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉』


 人気シリーズ新章、字幕プリント版で鑑賞。


 大英帝国に捕まったギブスを助けに、ロンドンにやってきたジャック・スパロウ。救出に成功したはずが、逆に捕まって英国王の前に引き出される。王の狙いはジャックだけが在り処を知ると言われる、永遠の命を得られるという「生命の泉」だった……。ジャック、大英帝国の手先となったバルボッサ、スペイン軍、そして最強の海賊・黒ひげ……四つ巴の追跡行が始まる!


 世の中には、自分では指一本動かさないくせに、何でも思い通りにいじくっていいと思い込んでる奴らがいるわけです。どんなことでも望み通りになるし、そのためには何を犠牲にしたって構わないとまで思っている。
 そんな連中の自分好みの筋書きを無茶苦茶にしちゃうのが、奴らの独りよがりをバカにして笑ってやっつけちゃうのが、海賊にしてトリックスター、そう我らがジャック・スパロウ
 序盤はなかなか良かったですね。とっつかまって、スピーチの上手そうな英国王の前に引きずり出されますが、その権威に唾を吐きかけて遁走! 馬車チェイスから、その後の偽スパロウとの対峙もなかなか決まってる。


 しかし、展開が落ち着いて、特に船が出ると急速にだれていくのだよな……。会話シーンでしか話が進まなくなると、求心力が一気に低下する感じ。いやあ、実際の航海ってのは、きっとそういう感じなんだと思うんですよね。オレがこの船に乗ってたら、


「はよう目的地につけよ」


と、ずーっと思ってるだろう。割合あっさり目的の島についてしまうのも、そういうイライラをなるべく引っ張らないための苦肉の演出なのかねえ。海の上で起きる難事は基本、嵐か怪物かよその船の襲撃しかないわけで、もうシリーズでやり尽くしてますわな。
 その後は陸地を移動……ということで、こちらの方がまだ新しいイベントの起きる余地あり。


 もともとちょっと金のかかったドタバタ劇、という趣きの本シリーズだが、今回はやや製作費が落ちてるそうで、ますますその方向に拍車がかかってる。が、ビッグバジェット感は薄れたとはいえ、少々CGの怪物に食傷気味な昨今、キャラクター中心にやるのも悪くない。主役をちゃんと主役として描き、筋書きを書いてる奴をドタバタを起こしてぶっ潰し、いかにジャック・スパロウが便乗して美味しいとこを持っていってしまうか。そういう意味ではジャックをあらゆる意味でキーパーソンに据えた今作は、それなりにまとまった筋になっている。
 ……が……やっぱり長い……途中でダレた……。長尺の割にキャラクターの造形が細部まで徹底されてないので、どうしても中盤が散漫になるのだよねえ。黒ヒゲとバルボッサの因縁や、ジャックとアンジェリカの過去なども、基本的に台詞で説明されるだけなので重みがないし、説明台詞であるがゆえに聞き逃すことのできない重要なパートであるにも関わらず、ただの説明でしかないのでシーンとして面白くない、というこの悪循環。切れのある回想でスパッと見せるということもないので、どんどん尺は伸びていく。中身のないドタバタ劇にはそれに相応しいランタイムがあるべきで……。
 しかし、クライマックスまで本当にただのドタバタになっているのだが、キャラが動き出すと俄然、テンポが上がるんだよねえ。会話パートとアクションパート、という風に綺麗に分かれてしまってる感じがする。これはもしかしてロブ・マーシャルのスタイルなのかね。アクション=歌と踊り、と捉えると、そのままミュージカルになるような気がする。まあ『NINE』も『シカゴ』も観てないのだが。


 ところでラストなんですけど……これなに、土着の宗教の否定? 当時の大英帝国のやってたことそのままなのかもしれないが、これを肯定的に描かないまでもスルーしてはいかんのでは……。トリックスターたるジャック・スパロウが自らの自由のために一定のスタンスを保ち続けるのは当然なのだが、それに感化されて自らの有り様に疑問を抱く……そう、前シリーズのウィル(オーランド・ブルーム)のようなキャラクターが当事者の中にいないので、権威に唾を吐きかけても、その権威自体が打倒される希望が生まれないというのが弱いところ。


 こうやって並べてくと……いや〜、中身ないですねえ……。ジャックがドタバタ劇やる、ということ以外に何もないし、それに特化した作品と考えると長すぎる。今後も続けるなら(続けるんだろうけど)、もう少しコンセプトを練り直して欲しいなあ……。せめて人魚は乳を見せるとかさあ……。

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