一般的に、積極的でしっかり自己主張ができる人はビジネスで成功しやすいと言われています。そのような人々は、自分の考えを他人に伝えるのに抵抗がなく、必要なものがあれば頼み、給料交渉にも積極的で、他人に「NO」と言わせない雰囲気を持ち合わせています。では、自己主張が苦手な性格の人はどうしたらいいのでしょうか?

もし、あなたがシャイだったり、控えめな性格だったりしても心配はいりません。アメリカのビジネス雑誌『Harvard Business Review』の寄稿編集者であり、ビジネスライター、コンサルタントでもあるAmy Gallo氏によれば、自己主張する能力は「訓練して獲得できるもの」であり、もともと控えめな人でも自己主張できるようになるそうです。もちろん、性格が激変してしまうのは望ましいことではありませんし、そうする必要もありません。今回は、Amy Gallo氏が「自分の性格を変えることなく自己主張する方法」について語ります。

■専門家たちの見解

企業で管理職に就いている人は、職務上「ある程度の自信」を持っている必要があります。ニューヨークで企業幹部向けの教育サービスを手がけるHandel Group社の共同設立者で同社会長でもあるLauren Zander氏は「素晴らしいリーダーになるには、適度に自己主張でき、適度に他人を尊敬でき、適度に賢い必要がある」と主張しています。

また、コロンビア大学のビジネススクールでマネジメント論を教えるDaniel Ames氏は「自己主張が弱すぎればリーダーとして物事を進めることができませんが、反対に自己主張が強すぎれば仲間とうまくやっていけない」と述べています。

彼らの発言に共通していることは、自己主張には「適度な強さ」が必要ということです。また、自己主張は性格ではなく能力であり、誰でも訓練して獲得できるものです。重要なのは、まず周囲の反応を理解し、自分の行動を分析し、目標を立てて実行することです■周囲の反応を理解する

自己主張に対する考え方は、国や文化によっても違ってきます。アメリカのように「自己主張することは良いこと」と認識されている文化もあれば、日本のように「自己主張はあまり望ましくない」とされる文化もあるでしょう。このような考え方は、所属する会社や地域によっても異なってくるので一概にはいえませんが、自己主張をする訓練を始める前に、「自己主張がどう思われているか」を知っておく方が良いでしょう

現在の環境では、積極的なアプローチが評価されそうでしょうか? それとも静かで説得力のあるアプローチが評価されそうでしょうか? これは男性か女性かによっても違ってきます。先進的なジェンダーコンサルティングを手がける企業20-first社のCEOであるAvivah Wittenberg-Cox氏は「自己主張の強い女性は攻撃的で、ネガティブな印象を持たれることが多い」と述べています。

■現在、どのくらい自己主張しているかを把握する

自分がどれくらい自己主張しているかを把握する方法は2つあります。1つは「自分自身の行動を分析する」こと、もう1つは「他人に聞いてみる」ことです。他人に頼み事をする際、どれくらい気兼ねなく聞けるでしょうか? 頼み事をする相手にもよると思いますが、この質問を自分に聞いてみることで、普段どのくらい自己主張ができているかがわかるはずです。

また、会議やディスカッションの前に「自分がこの状況で求めているものは何か」を事前に書き出しておくのも効果的です。会議の後、そのリストを見直して、求めていたものが得られたかどうかを確認しましょう。得られていないようであれば、改善が必要ということです。

ただ、自分の行動を分析するのは簡単ではありません。信頼できる同僚や親しい友達に「自分はどれくらい自己主張しているか」を直接聞いてみるのもオススメ(英文)です。

■目標を立てて実行する

もし、必要な時に自己主張できていないようなら、何が言えていなくて、なぜ言えていないのかを明確にしなくてはなりません。また、次に同じような機会があれば、自分の主張を事前に考えて練習しておくのがいいでしょう。その際には、「時間を含めた目標」を立てるのがオススメです

例えば、「以前から同僚に聞きたかったことを書き出し、それを1週間以内に確実に聞く」、「グループディスカッションに参加するときは、必ず最初の2分間以内に発言する」など。このような具体的で小さな改善を着実にこなせば、大きな変化につながります。うまくいったら、新しい目標を立ててみましょう。うまくいかなくても、落ち込む必要はありません。目標を修正してまた達成を目指しましょう。重要なのは、あまり真剣になり過ぎず、とにかくいろいろ試してみる姿勢を持つことです。

■人間関係を築く

自己主張できない理由の多くは人間関係によるものです。知らない人が多く出席している会議や、どんな反応をされるか分からないような状況であれば、自己主張を控えるのが自然です。

逆に、会議の参加者と親しくなれば自己主張はしやすくなります。社外でも会社の同僚と交流し、人間関係を築いておくのは良いアイデアです。親しい人間関係を築いていれば、自己主張をしても不安になるようなことはないでしょう。

■性格ではなく、行動だけを変える

自己主張するための訓練は「性格を変える訓練ではない」ということをよく覚えておきましょう。つまり、単に行動を変えるだけなので、性格まで変える必要はないということです。

例えば、自己主張するのに必ずしも冷たい態度や口調で伝える必要はありません。自分の意見が伝わればいいので、伝え方は自分に合った方法(穏やかに伝える、フレンドリーに伝えるなど)で構わないのです。これは、特に女性にとって有効なアドバイスといえます。一般的に「企業で働く女性は、常に男性のように自己主張できないといけない」と思われがちですが、実際にはそのために性格まで変える必要はありません。行動だけを臨機応変に変えられればいいのです。

■自己主張には限度がある

自分の行動を客観的に見るのは難しいですが、自己主張しすぎて威張ったりしないように気をつけましょう。上司が怒鳴れば部下は頼んだことをやるかもしれませんが、部下は家に帰って履歴書を作り始めるかもしれません。

自己主張をする時は個人的な考えを押し通そうとするのではなく、相手にとっても利益があることを示すように心がけましょう

■まとめ

やるべきこと

  • 現在どのくらい自己主張しているか分析し、同僚や友達からもフィードバックをもらう。
  • 自己主張するために、小さくて具体的な目標を立てて実行する。
  • 社外でも会社の同僚と交流し、人間関係を築き、自己主張しやすい環境を作る。

気をつけること

  • 自己主張する時は、状況と周りの反応を常に意識する。
  • 性格まで変える必要はないと理解する(性格ではなく行動だけを変える)。
  • 自己主張しすぎて威張ったり、攻撃的になったりしないように気をつける。

■訓練して自己主張できるようになった2人の実例

上記の内容を含めて、以下に2つの実例を紹介します。

ケース1:「自分ルール」を作ったKatieさんの場合

Katie Torpeyさんは映画監督で脚本家でもあります。彼女が働く映画業界は、自己主張の強い企業幹部や交渉エージェントに牛耳られています。Katieさんは数本の映画やテレビシリーズを作った実績があり成功していましたが、会議では控えめにして、あまり自分の意見を言うようなことはありませんでした。その代わり、他の人が聞きたいと思っていることを察して口にしていました。彼女はこう続けます。「私は他人を喜ばせるのが好きでした。誰かを怒らせたり、傷つけたりするようなことは言いたくなかったのです」

Katieが映画制作会社に作品を売り込む時、わざと安い報酬を提示されることがよくありました。彼女は仕事を得ていましたが、それに見合う報酬を得ていなかったのです。彼女は安い提示額を受け入れていました、なぜなら、値段交渉をするのが怖かったから。作品の制作を断られたり、「他の監督を探す」と言われたりするのを恐れていたのです。彼女のキャリアにとって、これは大きな壁になっていました。

この状況を変えるために、彼女はある「自分ルール」を作ることにしました。「もし、言いたいことが言えなかったら24時間以内に修正する」というもの。例えば、会議で「作品はまだ完成していない」と言えなかったら、24時間以内に必ず上司に電話して伝えることになります。彼女にとって、このルールはとても効果がありました。何回かこのルールを使ったあと、「言いにくいことでも最初から伝えたほうがよっぽど簡単で手間がかからない」と気づいたのです。彼女はそれ以降、言いたいことが言える人生は、本当に自由な人生だと思うようになりました。

それ以降、彼女のキャリアは前向きに変化することになりました。周りの人は彼女を尊敬するようになり、自分に自信が持てるようになった(英文)そうです。本当に思い入れのある作品や、成果に見合う報酬が得られる作品でない限り、簡単に仕事を受けないと決めていました。安い報酬を提示されても、自信を持って交渉できています。

ケース2:「小さな主張」から始めたJigarさんの場合

Jigar Parikhさんはニューヨークの法律事務所で弁護士として働いていましたが、専門のエージェントを雇って新しい職業を探していました。しかし、問題は仕事ではなく、Jigarさんが働く会社にありました。エージェントは「ネットワークを作って顧客を獲得し、自分の会社を立ち上げる」ことを勧めました。ただ、Jigarさんはシャイで積極的に人脈を作るのは得意ではありませんでした。

そこで、小さい行動から始めることにしました。Jigarさんは、新しい会社のことを毎日1人か2人に伝えることにしたのです。もちろん彼にとって、簡単なことではありませんでした。特に現職の法律事務所には隠しておかねばならず、伝える相手に気をつける必要がありました。1週間に3~4回、イベントに参加するのは大変でしたが、新しい会社のことを伝え続けました。そんなある日、彼は医者で起業家でもある人物と出会い、起業についてとても素晴らしいアドバイスをもらったそうです。

この出会いのおかげで、Jigarさんは起業に対して大きな自信が持てました。今では自信を持って人と接するようになったので、もともとシャイだったと言うと周りの人に驚かれるそうです。ただ、今でもシャイに逆戻りしないために常に気をつけているのだとか。

How to Be Assertive (Without Losing Yourself) | Harvard Business Review

Amy Gallo(原文/訳:大嶋拓人)

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